第5話 地下アイドル

 とにかく不自然にならないよう、俺は秘密組織に命じ、このハズレ魔女を俺のいとこに偽装させた。父王の弟に、不正があると脅して(証拠はないけど)いやいや承諾させた。


「というわけだからおまえは今日から俺のいとこだ。だからって好き勝手すんなよ」


 まあこいつの使い道はたったひとつだ。魔王が生まれたらすぐにこいつを向かわせる。俺が逃げるあいだの時間稼ぎにはなるだろう。こいつが魔王に頭からぼりぼり喰われているあいだに、俺は鏡を壊し、よその大陸に逃げる!


「いいけど毎日ヒマね。歌でも歌いましょうか?」


豪華な長椅子にのびのびと寝そべって尻をかきながらそのハズレガチャ子は言った。


「いらんことすんな。おまえはここでは王族だ。そんな派手で短いスカートで人前で歌ってみろ。えらい騒ぎになるぞ」

「王族ってつまんないわねえ。マンガじゃけっこうロマンスフルな恋愛なんてしてるのにー。あーあ、ミカりんにもカッコイイ王子さまあらわれないかなー」

「現実だ、これが。そんな夢みたいな話、わすれろ」

「ふーんだ。ねえ、そういえばあんたも王子さまなんだよね?ちょっとあたしとつきあっちゃわない?」

「やかましい!そのとぼけたお口とじてろ!だれが地下アイドルなんかに」


 そうだ。ここはダークファンタジーの世界なのだ。俺がそう決めた。惰弱で読者に媚び売るスローライフ設定や、ゆるゆるのポップなファンタジー世界になんかするもんか。とにかくこいつは表に出せない。出自が地下アイドルならなおさらだ。地下アイドルにろくなやつはいないからな。


「王太子殿下!」

「なんだ」


 俺の直属の家臣、フレデリックが血相を変えてやって来た。


「近ごろ王都を飛ぶ渡り竜なんですが…」


 毎年いまごろになると、北の山脈から南の山脈にわたる小さな竜の群れが渡り鳥のように王都の空を飛んでいる。害はないからみんな無視しているが、それがどうしたというのだ?


「最近、落下してくるやつが多くいまして」


 移動する途中、死んでしまう竜がいるのは知っている。俺も何度か見たことがある。別に珍しいわけじゃない。


「それがどうした?」

「それが…落ちてくる竜の首が…その…」

「もしかして切断されているとでも?」

「ご、ご存じでしたか」


 あんのバカ娘!なんてことしてやがるんだ!俺はすぐに問い詰めた。


「だってヒマだったしー、たまに魔法使わないと忘れちゃうしー」

「忘れちまえそんな魔法!」

「えー、だってこれないと魔王殺せないよー」


 こいつやっぱり魔王のこと知ってたんだ。おまけに自分の使命をちゃんと理解できているのか。


「だからっていまそれやるな!迷惑する人がいるんだからな」

「わかった」


 ほんとにわかったんだろうか?いや絶対わかってない。地下アイドルって、そういうもんだからだ。


 俺の知ってる地下アイドルは皆、場末のライブハウスで週三でステージに立たされ、ほかの日はイベント業者に使いまわされる哀れな存在だった。本人たちは過酷な労働環境とほぼ奴隷とかわりないな契約でがんじがらめにされながらも、夢のためっていうか、やっぱアイドルっていう特別な存在になりたい気持ちで無理を承知でやってるんだ。


 俺はそういう奴らを何人も好きになって、いつも手痛くフラれた。もう忘れた過去だし、べつに恨みなんてねえからな、こんちくしょう。


 そんなお気楽な俺たちに、突如降ってわいたような事件が起きた。

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