第4話 ガチャ

 十五歳になった俺は、ますます国を豊かにさせた。もちろん俺の蓄財をごまかすためだ。通行税の免除で流通は飛躍的に増え、商業税収が増えたのはもちろん、それを灌漑や農地改革に使って租税収入を増やした結果、さらに社会資本は拡大の一途をたどった。金が金を産み、俺の蓄財は莫大なものになったが、しかし何も知らない国民も喜んでいるようだ。そうなりゃだれも俺に文句を言うやつは出てこない。言って来たら卑劣な手段でひどい目に合わせる。


 そうして俺は着々と脱出準備を整えていくのだった。


「もうすぐこの国ともおさらばできそうだな…」


 俺はほくそ笑みながら鏡に映った自分の顔を眺めていたときだった。


「なにがおさらばなのじゃ?」

「おわっ!」


 鏡にあのじじいの姿が映っていた。


「いきなり出てくんな!」

「仕方ないじゃろ。これがこちらとそちらをつなぐ唯一の通路なのじゃからな」


 いいことを聞いた。それじゃこの鏡をぶっ壊せば、もうこいつの干渉は受けないってことだ。


「なんなんだよ、今回は」

「なかなかしたたかにやっておるようじゃな。だが金を稼ぐより強くなった方がいいんじゃないか?魔王討伐に金はあまり必要でないぞ」

「金で兵隊雇うもん」

「いくら兵士がいたとて魔王は倒せん。魔王を倒す力がない限り、魔王は倒せんのだからな」


 だからそれが意味不明なんだよ!それ勇者だろ?俺じゃねえだろ!


「あのよ、俺はただの人間だぜ?力のない、な。そんなんでどうやって魔王を倒せって言うんだ?」

「だからその力を与えるって言ってんの」

「いつ言った?そんなことひとっことも聞いてねえぞ」

「だからほら、最初に言ったろ?パートナーじゃよ。いっしょに魔王を倒す相棒ってやつだ」


 そういやそんなこと言ってたな。選べって…。


「そいつはどこにいるんだ?」

「だから今日こうして選ばせようとわしが来たんじゃ」


 そう言って鏡におかしな機械を映させた。どっかで見覚えのあるやつ…ガチャかよ!


「じじい、まさかこれで…」

「そのとおり!これはおまえのパートナーを決めるものだ。名を『勇者バディ・ガチャ』というんじゃ。あ、勇者は後付けだから気にせんでくれ。何が入ってるかはわしも知らんからな。まあ運試しと思ってね」

「運試しってなんだ!それに名前なんてどうでもいい!こんなんで魔王討伐のパートナーを選ぶのか?魔王バカにしてんのか?」


 あきれたもんだ。こんなもので相棒決めるなんてどうかしてる。もし勇者じゃなく犬とかサルとかキジだったらどうするつもりなんだ?俺、名前変えなくちゃならねえだろ!


「まあいいからいいから。どーれ…」

「ハンドル俺がまわすんじゃないのか!」

「いちいちうるさいやつだ。あ、ほれ、出たぞ。じゃあわしは忙しいから、またな」

「おい待てじじい!なんのつもりだ!」


 神の姿が消えたかわりに、俺の前にでっかいカプセルがあらわれた。いややっぱガチャじゃん。


 それは唐突に割れて、なかから若い女の子が出てきた。なにやらカラフルでやたら派手な衣装を着ている。こんなのが住宅街や田舎の田んぼのあぜ道を歩いていたら、すごく痛い。


「みんなこんにちはーっ!みんな待ってたー?みんなのお友だち、みんなのミカりんでーす!」


 唐突にステージあいさつしやがった。なんだこれは?しかもみんなみんなって連呼しやがって。ここには俺しかいねえだろ!いやいやそうじゃねえ。歳は俺と同じ十五歳くらいだが、こいつはどう見てもアイドル…いやどっちかというと地下アイドルだな…なんかどこか暗い影あるし…。


「おやー、反応が薄いなあ…。よーし、それじゃあ歌っちゃいますか!一曲目はお待ちかねの…」

「やめろバカ!歌うんじゃない。しかもお待ちかねってなんだ一曲目から」

「ああ?」


 座り込んだ?アイドルはふつう、バカと言われてもリアクションは決まってる。「やーん」とか「なんですかそれー」とか「こわいー」とかだろ。やっぱりこいつは地下アイドルだ。俺に堂々としゃがんでメンチを切って来やがった。こいつヤンキーか?いやパンツ見えてるぞ。ああ見せパンか。少しガッカリ。


「なあ、おまえミカとか言ったな。日本人か?」

「ええ?なんでわかっちゃったあ?すごいねーおにいさん」


 俺が優しく言うもんだから急に態度を変える。やっぱこいつは地下アイドルだな。


「どう見てもそうにしか見えん」

「あちゃー、自分じゃフランス人ぽいって思ってたのに―。ミカりんちょっとがっかりー」


 そんなわけあるかーい!凹凸のない扁平ヒラメ顔じゃねえか日本人!


「それはいいから、なあおまえも神ってやつにいきなり拉致られたのか?」

「うーん、そうじゃなくって、けっこう複雑な状況なんだよねー。前につきあってた彼氏にさー、あ、でも彼氏っていうほどのなかじゃなくて、たまーに会ってデートして—、そんでお小遣いとかもらうの。でー、いろいろあって別れたそいつにねー、ステージで歌ってたらいきなり刺されちゃって。そしたら死んじゃって、気がついたら変なおじいさんがいたの」


 園児と話しているのか俺は?しかも死因がなんか同情できない。しかしよく考えたらこいつもあのじじいの被害者なんだな。だが死んで転生したなら、こいつは本物の転生者なんだろう。そういやゲームとかネット小説じゃ転生するときひとつ、えらく強力な力を授かるって聞いたことがある。きっとこいつもなにか大きな力を持っているんだろう。


「じゃあ聞くが、おまえが授かった力は何だ?」

「えー、ミカりんの力?えーとそれはねー、ズバリ魔女の力だよー」

「魔女?」

「うん。魔法が使える魔女っ子だよ。えらいでしょー」

「ほほう。でどんな魔法が使えるんだ?」


 ミカは少し考えたようだが、俺におもいっきりの作り笑顔で答えた。


「くびちょんぱ」

「は?なにそれ」

「なにって…首をちょん、と」

「首をはねるってことか?」

「そうみたい」

「それだけ?ほかには?」

「それだけー」


 くっそう、こいつはとんだハズレガチャ子だったようだ。

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