第3話 クズ王子
こんな不幸な王子って、ほかにいないだろうな。この世界のよその国なんて知らないが、こんな理不尽な理由で王子やってるやつなんて絶対いない。
だいたいどうにも納得できなかった。異世界に転生させられ、魔王を倒せだと?しかも勇者じゃなく?王子なんて金はあるけど力は一般人なんだぞ?いやそれ以下かも。もちろん魔法なんか使えもしない、言い方悪けりゃただのボンクラなんだぞ?いいのかそれで!
「まあ十年後って言ったな、魔王が生まれるのは…」
よーし、それまで金貯めて、魔王が生まれる前にとんずらしよう。そういうことならやりようはいくらでもある。
俺はクズになった。金にがめつく、しかも王子の権威をかさに着て、やりたい放題してやった。金持ちの貴族からどんどん金や領地を巻き上げてやった。おかげで貴族どもは俺をクズ王子とあだ名した。だが悪いのは神だ。俺じゃねえもん。
「ルファエル王子よ(注・俺のことね)…近ごろおまえの評判がすこぶる悪いのだが…」
父で国王のファズランド十五世は頭を抱えながら俺にそう言った。王のとなりで王妃で俺の母のマリシオンも心配そうに俺を見ている。
「そういわれましても困ります。度重なる天候不順と軍備の不必要な増強で財政はひっ迫しています。いまは財政再建と社会基盤整備は急務ですから。文句を言うやつには言わせておけばいいんです。そいつらが国を発展させられますか?貧しい人たちを救えますか?」
こう言えばたいていのことはまかり通る。搾取するにはたいへん都合がいい理屈だ。
「そうではなく…その…性急すぎる政策や根回しのない施策はいろいろと軋轢を生み、いわれなき怨恨を生じさせたりする、と言っていおるのだ」
「ですが父上、やつらは国への租税をちょろまかしたり、金を惜しんで街道の整備や農業水路の拡充を怠っています。あまつさえ酒色に溺れ領民に不埒三昧などあってはならないことです。だからわたくしが戒めと報いをお父上にかわり行っているのです(ちゃっかり責任転嫁もしとく)」
「だからやり過ぎるなと言っておるのだ」
貴族や豪商と言われるやつらをあらいざらい調べさせた。五歳のときから『ユルゲンシャフト』という名の秘密組織を父王の目を盗んで作り上げた。いま十歳になる俺の手足となってそれらはとても優秀に働いてくれる。彼らはもともと政治に不満を持つ者たちで、政治犯として城の地下牢に捕らえられていたのを俺が利用したのだ。
それから十五歳で王の第一継承者たる王太子の座につくまで、俺を排斥しようと三回のクーデターがあり、そのどれも俺のその秘密組織のおかげで未遂に終わらせた。ついでに首謀者や加担者の所領や財産を没収してやった。おかげで国庫が潤い、とうぜん俺が持ち逃げする金も貯まっていった。まあクーデターをそそのかしたのも俺だけれどね。それは秘密。
まあなんにしても魔王誕生までもうすぐだ。それまでに金をもって逃げなければ。
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