第2話 まちがった選択

 気がつくと五歳くらいの男の子が俺の前に立っていた。俺はちょっとドキッとした…いやあせった。なぜか俺の身長もそいつくらいだと気がついたからだ。


「俺、立ってるよな?」


 膝でもついているのかと思ったが、そうじゃない。俺はちゃんと立っている。服は…目の前の小僧と同じ服…?いやいや、なんだこの俺の小さな手は。まるで子供じゃないか。目の前に立っている小僧と同じくらいの…。


「俺かよ!」


 それが大きな鏡だってやっと気がついた。俺は鏡に映った自分を見ていたのだ。俺は五歳児にどうやら転生しちまったようだ。何でいきなり五歳児なんだと思ったが、まああのしょうもない自称神だとぬかすじじいのことだ、そういうこともあるんだろう。


 そんなことをつらつら考えていたら、目の前の鏡のなかが急に揺らいだ。真っ白になった鏡のなかにあのじじいが映っていた。


「やあ」


 じじいはニコニコしながらそう言った。


「やあ、じゃねえだろ!なんだここは!どうなってんだよ!」

「きみに説明は不要だと思うんだがな。異世界転生の定番なんだから」

「それは創作のなかでの話だ!現実世界で異世界に巡り合うやつなんていねえだろ!定番言うな!」

「ロマンのないやつじゃなあ。いくら現実世界で神経すり減らされても、夢と希望は忘れてはならんのじゃ」

「この異常事態が夢と希望なわけねえだろ!」


 いいや無駄だろうな。このじじいは人がどんなにわめこうがさらっとすり替えて屁理屈を無理強いしてくるようなやつだ。なに言っても無駄なような気がする。


「たしかに異常事態なのじゃ。その国の…あ、そこはファルシア王国という小国ね。で、そこの西の『悪霊の森』ってところで十年後、魔王が生まれるのじゃ」

「おい!さらっととんでもねえこと言ってんじゃねえぞ!なんだ魔王って!」


 じじいはおや?っという顔をした。


「魔王を知らんのか?」

「知るわけねえだろ!ゲームや小説のなかじゃねえんだから」

「だからそれだよ。魔王は世界を滅ぼす。そういうやつ」

「ばかやろう!」


 なんでそんなところに俺を転生させたんだよ!俺になんの恨みがあるんだよ!


「神への冒涜じゃよ、その暴言。まあいいや。とにかくお前はこの国の王子になったんじゃ。責任もって魔王を倒しなさい。それが王子のつとめなんじゃからな」

「え?いやそれちがうだろ!魔王倒すのは勇者じゃないのか?」

「あれ?あれあれー?」


 鏡のなかのじじいはそう言って消えた。いまわかった。あのじじい、選択を間違えやがったんだ。魔王を倒すのは勇者であって、王子じゃない!いやどうすんだよ!

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