IAPオールスターフェスティバル⑤ #時子をマジにさせる方法 【後半ガチ回】

「3回戦は……演技力対決!!」

『どんどん!ぱふぱふ!』



波乱のオセロ対決を終え、オールスターフェスティバルは遂に最後の企画へと突入した。



「現在の状況を整理するぞ。

 1位が同点で3ポイント、チーム青龍結華&まもりチーム玄武るる&うらら

 3位が僅差の2ポイント、チーム白虎奏&時子

「現状あまとうしか活躍してないじゃん」

「…………」



あ、若旦那が頭抱えてる。いい気味だわ…………ごほんごほん。とても心配だね〜。



「まぁ断トツ最下位はお前らチーム朱雀つぐみ&愛璃だけどな。0ポイント」

「「えぇっ!?」」

「2人がかりのマ◯オさんは誰も求めてないぞ」

「なんで〜!?私はインターネットエンジェルなのに〜!?」

「つぐみはインターネット上では天使でもリアルじゃ貧弱じゃん」

「なんで!?あたしはインターネットプリンセスなのに!?」

「アイリはインターネット上でもお姫様じゃねぇから」

「「ぶーぶー!!」」

「あーはいはい。これだから問題児共は。ずっと昔からこれだもんなぁ……。

 取り敢えず、賞品が欲しかったらアイリが頑張るんだな」

「へーい。がんばりま〜す」

「アイリちゃん!私達を新婚旅行に連れてって!」

「あんたら結婚してから5年経つやろがい」



今更ながら、ホントにこの2人アツアツが止まらないな。どんな運命的な人生辿ってきたんだよ……。

ま、2人をネズミーリゾートに招待したいし、あたしもできる限り頑張るか。



コメント

・結構接戦だね

・激アツだなぁ

・次勝ったチームが優勝か

・※なお1チームだけ単独優勝の可能性が消えています

・優勝候補さん……

・そりゃエース( )2人ですから

・ちなみに俺の予想では演技力対決相当ガチだぞ

・胸熱な勝負が見られるかも




「というわけで、選手入場だ!!今回は真面目にやるぞ」

「前半明らかに私たちのことディスってたものね」

「コスプレの良さが分からないとは何と無礼な!」

「今回はかもしれないから、一応本気でやらせてくれ。メンバーもガチ中のガチだしな」

『はーい』



「まずは朱雀。

 23歳にして光と闇の両方を経験した女は、地獄を越えて未来へ挑む。

 世界を照らす復活の炎。江戸川アイリ」



「あたしらしく戦うだけ」



「続いて玄武。

 『変わりたい』をカタチにした女は、その壮絶な人生を昇華させる。

 希望を創る異色のヒーロー。黒野ルル」



「わたくしの全てを出します」



「お次は青龍。

 かつて板の上で輝いた女は、三度転んでもなお舞台へと舞い戻る。

 笑顔を広げる鋼の心臓。板野ユイカ」



「久しぶりにマジにならなきゃアカンね」

 


「最後に白虎。

 無力さも諦めも憧れも全部詰め込め。いまこそ革命の帆を上げろ。

 感情揺さぶる光の魔術師。富士宮トキコ」



「…………わたしにを出せって言いたいんですね?」



コメント

・うおおおおおおおおおおお

・すっごいカッコいい

・フレーズ一つ一つに魂籠もってる

・元アイドルvs人生経験の鬼vsプリンスオブコント準決勝進出者vs演技ガチ勢

・時子ガン有利だけど、誰が勝ってもおかしくないぞ

・初めて若旦那の中二病に感謝した

・やっぱり愛璃の「炎」はそういうことなんでしょうね

・地獄、って表現に本当に重みがある

・奏くんを世界から守り続けたるる姉に、ちゃんとヒーローって言ってあげてんのが本当にエモい

・板野、また舞台戻ってこいよ?いつまでも待ってるからな?

・時子が唯一過去ほぼ不明なのか

・確かにそうだな

・…………ちょっと待って?

・この流れ知ってる。若旦那絶対何か企んでる

・だって途中で一度いなくなったのおかしくない?

・配信中は意地でも離れたがらない人だぞ

・るる姉覚醒回、奏くん覚醒回と同じ匂いがする……

・そもそも普段の若旦那なら、演技力対決っていう時子一強が予測できるゲームをこの場に持ち込まない

・ああ見えて、全員に平等に全力の愛を捧げてる狂人だもんな。贔屓するとは考えにくいし

・ここまでの配信と明らかにテイスト変わってて草

・さぁ、どうなる









「愛璃ちゃん」



演技力対決前、若旦那の指令によりスタジオに衝撃吸収マットを引くということで、出場者達は待機しているなか。

あたしは、いつもとは違う雰囲気の時子に声をかけられた。



「どうしたの?緊張してる?」

「まぁ、緊張もあるかな」

「時子、よく演技してるけどほんとに上手いし、大丈夫だよ」

「…………あれは演技なんてレベルじゃないよ」

「んじゃお互いがんば…………」



途中まで出かかったところで、あたしは言葉を止め、息を呑む。

だって、あたしは感じてしまった。

向かい合う時子の瞳に宿る緊張、恐怖、そして。



それを遥かに超える、興奮と情熱。

瞳の奥に妖しく光る、本能を。



「わたしの事、受け入れてくれたよね」

「うん」

「これから見るわたしも、受け入れてくれるかな」

「…………うん」

「これから見るわたしを、真正面から受け止めてくれるかな」

「……………………うん」





「なら、わたしはを出すから。

 愛璃ちゃんも、で向かってきて」








【1回戦:時子vs結華】



準備を終え、時子と結華さんが演技スペースへと揃い踏みした。

それを見た若旦那が、これからの説明を行うみたいだ。



「これから対戦開始な。

 今回は童話や昔話を自由に演じてもらうぞ。役だけ決めて、それ以外はフリーだ。渡した台本通りにやってもらっても良いし、自分でアドリブしてもいい。台本から思いっきりズレてもOKだ」

「はーい」

「わかりました」

「判定はゆーつーぶの投票機能を参考にしつつ、俺が判断する。贔屓は絶対にしないから安心しろ。

 お前らのテーマは『シンデレラ』だ。役は何が良い?自由に選んで良いぞ」

「そか、じゃあウチは継母ままははにしよかな」

「……わたしはシンデレラですね」

「OK。準備できたら始めるぞ」



そして、2人が少しばかり会話して、演技力対決の幕が上がる。







「ウチも久しぶりのガチ演技やなぁ。頑張らせてもらうで」

「…………そうですか」

「時子も強いと思うけど、コント仕込みの演技力見せたるわ!」

「………………」

「よーし!じゃあ行くでぇ!」




「………………素人なんて、叩き潰してやる」





「おおシンデレラよ!なんてあなたは醜いのか!こんなものでは舞踏会になんて連れていけませんねぇ!」



演技が始まる。

結華さんが演じる継母が、まずはシンデレラをいびるシーンから入ったみたいだ。

にしても、結華さんは普通に演技がうまい。コント仕込みは伊達じゃないみたいだ。

アドリブ対応力も高いし、ワンチャン時子に勝つんじゃないか……










―――なんて思ったのは、ほんの一瞬だけだった。





















「なんでわたしをそんなにいびるの!!何がしたいの何が楽しいの何がそんなに気持ちいいの!?人の不幸見て幸せですか!?

 あーウケる。そんなんだからいつまで経っても夫には愛想尽かされっきり、家事もできなくて使用人たちも見放してますよ。こんなんだからエセ貴族は嫌いなのさ。こういう人間と同じ生命であることが嘆かわしい。一回ゴキブリから人生やりなおしたらどうですか?

 あ!ちがう!ゴキブリは人ですらないから人生とすら言えないね!!あはは!!」






その場にいる誰もが息を呑む。

圧倒的な声量が、作り出した雰囲気が、その奥に見える役への理解力が、スタジオどころか視聴者までも、一瞬にして引き込んだ。






―――これが、富士宮時子のか。

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