第43話



レスタード side (皇帝)




「なに? フリッツェントでダンジョンが発見されたのか!? しかも150階層·····」


国にとってダンジョンは正に宝物庫であり、国の力そのものにもなる。 大陸の中で一番ダンジョンが少なかったフリッツェント連邦国、普通のダンジョンならば大した問題ではなかった。


ただ今回は150階層にも及ぶ超大型ダンジョン、帝国は沢山ダンジョンを有しているが150階層もあるダンジョンなど持っていない。


「それだけならばまだ良かったのですが·····」


宰相が珍しく顔を顰めていた。

更に頭を抱える話があるのだろうと、レスタードは溜息をぐっと堪えて報告を聞く。


「新ダンジョンを発見したのが、あのアルス・セントリアなのです」


「ッ!?··········はぁ、話題が尽きない人物のようだな」


「その前にも、首都近くに出来ていた300体を超えるオークの集落を壊滅させています。アルス・セントリアは国の危機を救い、ダンジョンを見つけ恩恵をもたらした、あの国にとって彼はその様な存在になっています」


「やはりその件も彼が関わっていたか·····こうなるとザハトークの件が痛いな」


アルスの家族に懸賞金をかけ怒りをかった。

この件がここまで影響するとはレスタードも宰相も予想していなかった。


「彼は同じ街に長居せず転々としておりました、シー・アラックに2年近くも滞在したのは珍しいかと。恐らくあの街を気に入ったのでしょう、街の拡大にも力を貸したとの報告も·····」


次々に頭の痛い報告を聞かされ、流石のペスタリカ帝国のトップも項垂れる。


「地理的に考えれば次は帝国に入ってもおかしくないが·····」


「期待なされない方がよろしいかと」



結局アルスが帝国入りする事は無かった。





◆ ◆ ◆




ガザルフ・バリス・バンバートside (国王)



バンバート王国の国王ガザルフは頭を悩ませる日々が続いていた。


始まりはセントリア家の次男が学園に入学してからだ。バージェスには世代最強と聞いていた為、ガザルフも注視していた。


同い年のアンフォードには『アルス・セントリアと誼を通じておけ』と言ってあった。 息子には全く問題は無かったが問題は従者共だった・・・誼を通じるチャンスを尽く潰し、更にはアルス・セントリアの怒りをかい全員ズタボロにされた。


被害を受けた生徒の家から苦情の嵐だった。知らんわそんなもの、もっと言うなれば王家の方が被害者だわ。



そして国の諜報機関を任せているカリュード侯爵家が勝手にアルス・セントリアに探りを入れてしまった。 三男のルーファスが同い年であったことから、〝場所〟を用意してまで聞き出そうとした。結界またしても怒りをかい殺気のみで制圧させられた。

自業自得としか言えんな。



極めつけは帝国のバカがセントリア家に懸賞金をかけ、それに乗せられた自国のバカ共が相次いで襲撃しよった。バージェスからは『最近俺の大事な人達がよく襲われるんだよな〜、あ! お咎めはしないで構わんよ。俺も特に報復はせんからな』と書かれた手紙と共に襲撃に関わった家が全て書かれている紙も同封されていた。


王家は代々、秘密裏にリューゼント辺境伯と良い関係を取ってきた。この国が成り立っているのはリューゼント辺境伯の武力があるからこそ、ただ貴族達はそれを理解していない。死の森の恐ろしさを知らないのだ・・・



「アルス・セントリアがフリッツェント連邦国にてダンジョンを発見されたそうです」


「ッ!?··········それは真か??」


モンアスタ宰相の報告に紅茶を吹き出しそうになるも堪えた。


「はい、しかも150階層の超大型ダンジョンです」


「ブーー!!」


今度こそ紅茶を盛大に吹き出してしまった国王、私室にて宰相と2人きりの状況が幸いである。


「彼はあの街に長居されております、きっと気に入ったのでしょうな」


「·····他人事だと思ってないか?」


「そのような事はありません、私もシー・アラックを訪れたことがありますが、あの街はゆっくり時間が流れ穏やかな街です」


「破天荒な彼がその様な街を気に入ると?」


ガザルフは宰相の話を信じられなかった。

聞こえてくる話はどれもぶっ飛んでおり、まるで若い頃のバージェスそのものを見ているようだ。


「報告を聞く限りはその様な印象が先に来ますが、詳細をみると全ての件に置いて後出しです。恐らく悪意には悪意で、善意には善意で返す人なのでしょう。だから良くしてくれたフリッツェント連邦国にはダンジョンを最短で攻略し街の拡大にも協力したと私は見ています」


モンアスタ宰相の私見はドンピシャだった。

特段頭が切れる訳ではなく平凡の域を出ない、だが人を見る目と人柄を把握する能力には定評があった。こういった部分も宰相というポジションには武器の一つになる。


「あれはいずれバージェスに並ぶぞ、国を捨てられると不味いのだがな·····」


「そのような事にはならないかと、彼は身内を大切にする人です。 だからこそ懸賞金の件がかなり不味いですが··········」


「··········」



国王が頭を悩ませる日々はまだ続く。

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