第32話




『アルス、僕たち帝国に行くの?』


アルスは普段見せない表情で思考を巡らせていた。 いくらジョンバッハやゴーレムを護衛煮つけたと言っても、完全に不安が拭えるわけではない。


そんな心情を察してクマラは、アルスの肩に乗り頭を擦り付けながら聞いてきた。


「いや、俺達が直接報復したらまずい事態になる。だから別の方法を考えた、というよりリーシャとマイクが生まれた時から考えていた方法だけどな」


「そんなに前からですか? 一体どんな··········まさか」


エレノアはアルスが行う事に勘づいた。

先程の『禁忌を犯す』という言葉から連想して出てくる答えは・・・


「あぁ、俺は悪魔を召喚する」


「待てアルス、俺は反対だ。悪魔と契約するには対価が必要だ、その対価の大半が「寿命って言いたいんだろ? ちゃんと考えてあるから安心しろ」··········」




日が沈んでからしばらく経つ頃、アルス達は街外れの森深くにいた。


頭に記憶してある魔法陣を書き込み、魔素をどんどん注ぎ込む。 強い悪魔を呼ぶために5分ほど注ぎ続けた。

すると魔法陣は紫色に光だし、一体の悪魔が姿を現した。


「·····これほど綺麗な魔素をくれたのはお前が初めてだ、感謝する。 名をディアロンテという、召喚者は我に何を望む?」


「悪魔風情が態度がデカいな、俺は今非常に苛立ってるんだ。あまり機嫌を損ねないでくれないか?」


「ッ!?」


召喚された悪魔ディアロンテのみへ殺気を放つ。悪魔を召喚される事は度々あるが、基本悪魔が力関係では上だった。 今回たくさん魔素を吸って召喚されたディアロンテは、魔界でも最強に近い存在であるがアルスには関係なかった。


「心配するな、ちゃんと対価は払う。ただし寿命は今から言うやつのを取れ、ペスタリカ帝国 ラジェスマーランド伯爵家の妻と子供の寿命を30年ずつだ。分かったな?」


「·····それはむしろ我に有利すぎる、拷問でも殺すでもなく寿命を取るだけで良いのか?」


「あぁ、本来は契約者本人から寿命を取らないといけない決まりだと聞いてるが、この契約内容なら大丈夫なはずだ」


「確かに問題ない、では契約成立とさせて頂く。面白い人族がいたものだ、名前を聞かせてくれますか?」


「俺はアルスだ、ちゃんと仕事してくれよ?」


「もちろん仕事はきちんとしますとも、数日後には報告に来ます」


悪魔と主従関係が出来てなくもない会話が繰り広げられているが、隙を見せないためにダイアス達は静観を続けていた。


悪魔は人間の弱みに漬け込み心を掌握し支配する、ほぼ有利な状況とはいえ気を抜けなかった。


ただディアロンテは特に何もせずに、仕事へ向かった。




「··········有利に契約できたな」


「見ている方はヒヤヒヤしたがな」


「悪魔を初めて見ましたが、禍々しいオーラを持っていましたね」


『僕あいつの魔素きらーい!』


神聖まではいかないが、それに近しい存在のクマラにとって、ディアロンテは嫌悪感をどうしても持ってしまう。


「確かにクマラからしたら嫌な魔素だったよな、ごめんな?」


『美味しいご飯いっぱい作ってくれたら許してあげる!』


「それじゃあ今日は宿に帰らずに皆で野営するか!!」


クマラが張り詰めていた空気を和ませてくれた、アルスはその事に感謝しつつ明るい声を出し野営の準備に入った。





◆ ◆ ◆




ジョンバッハside



「貴方が鬼人族のジョンバッハ殿ですか、息子のアルスがお世話になった様で·····ありがとうございます」


「私はアルスの母のセシリアです、重ねてお礼申し上げあげます」


「こちらこそ楽しい時間を過ごさせてもらった、アルスの親だけに2人とも強いな!」


ジョンバッハはお世話になるマルスとセシリアに挨拶をした後、しばらく和やかな時間が続いた。



「マルス殿、ペスタリカ帝国の話は届いているかな?」


「えぇ、もちろん届いています。我が家に手を出すとは命知らずが居たものです、帝国の伯爵家はアルスに任せれば大丈夫でしょう。··········問題は懸賞金に欲を出し手を出してくる同国の貴族ですね」


先程までとは打って変わって3人とも殺気を漏らす、それだけで室内の温度は下がり、廊下を通りかかった使用人たちは肩を震わす。


どんな報復をするか、不敵な笑みを浮かべながら3人は日が傾いても話し合いを続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る