第9話
王立学園の会議室では、生徒達の採点を行う為に多くの教師が集まっていた。
「今年の中等部は豊作じゃのう、2.3年生にもいい刺激になるじゃろう」
長い顎髭を撫でながら呑気につぶやく老人は、テクスアート王立学園の長。
「えぇ、第2王子のクライド君や他にも錚々たる顔ぶれですからね」
教師達が黙々と採点作業を進める中、扉を勢い良く開け1人の男が入ってきた。
「学園長、アルス・セントリアの資料あったら見せてくれ!」
「·····シェンバーさん、もう少し静かに入ってきてください。大事な採点中です」
副学長を務める、メガネをかけたクール美女がシェンバーに注意する。
「ん? アルス・セントリア···············あった、これじゃ。 してその少年がどうしたのだ?」
「どうしたじゃねえよ、こいつ化け物だぜ? 筆記の方は知らんけどよ」
シェンバーの言葉に教師陣の視線が集まった。シェンバーは騎士団の中でもエリートのみ入れる黒騎士団、その副団長を26歳の若さで任される天才の中の天才。
そんな彼が1人の生徒を化け物と呼べば、自然と視線は集まってしまう。
「シェンバー君、詳しく聞かせてくれるかの」
「まず俺と対峙した時は何の覇気も感じなかった、むしろ無に近いな。それが逆に気味悪いな〜って思ってたら、一瞬で距離詰めてきやがった。相当な脚力持ってるぜ? 更にだ、〝わざと〟大きく上段から木刀を振り下ろして目線を上に誘い、俺が木刀を受けるタイミングで蹴りを入れてきやがった」
「·····そんな事が12歳に可能なんですか?」
「俺でも無理だったな、12歳であそこまでの技量は持ってなかった。 極めつけは、あいつの目に熱が宿ってなかった。 『この試験に受かってやる』って熱が1ミリも感じなかったんだよ、俺の予想ではあいつは本気を出してなかったな」
さっきの技術の話だけでも驚きなのに、本気を出していなかったと予想するシェンバーに一同絶句。
「ほっほっほ。それほどの逸材が眠っておったか、ますます面白くなりそうじゃ」
「資料を見ると男爵家らしいな、しかもリューゼント辺境伯の所。俺は入学させるのに反対しとくぜ、この学園をきっかけに貴族界が大荒れになる」
「そうだとしてもじゃ、結果は合格なのだから入れないとのう。筆記は平均より少し高めと言ったところ、ギリギリS級じゃな」
「相変わらずだな学園長、俺の予想では筆記も手抜いてるかもな? それかあえて勉強してこなかったか··········まあ俺は忠告したから、帰らせてもうぜ〜」
最後にもう1つ、筆記を手を抜いてるなんて爆弾を投下して会議室を後にしたシェンバー。 教師達の手は完全に止まってしまっていた。
◆ ◆ ◆
場所は変わって情報屋の地下。
数人が集まり近頃の情報を精査していた。
「そういえば今日来たガキ、やばくなかったか?」
「あぁ、あいつか。俺が応対してたが特に感じる所は無かったぞ?」
「いや、そこが逆に気味悪いっつーか···············あいつ、お前が地図書いてる時手を凝視してたんだよ。 お前が短剣使いってバレたかもな、もしかしたら暗殺ギルドを兼ねてる事もバレたかも知んねえ」
「おいおい、あんなガキに分かるわけねえだろ! 勝手な憶測で喋るなよ」
「··········そいつの名前は?」
テーブルの中央で静観していた男が喋る。
「アルス・セントリア、リューゼント辺境伯の所の男爵家ですね。 次男です」
「そいつの情報を集めておけ」
「「「はい!」」」
本人の知らないところで勝手に有名になってるアルスだった。
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