第8話

そんなある日

「洋子」

との大きな声に店の常連客が皆、振り返ったが、洋子という名が、誰だかわからない。しかし、女性は女将ただひとりだ。

「あっ」

と、言った洋子は一瞬、固まってしまった。洋子と叫んだ声の主は、洋子が以前勤めていた会社の上司の浩明だった。浩明は、カウンターで酒を呑んでいる常連客を押し退け

「洋子、やっと見つけた。あいつとやっと離婚出来るんや。これで、晴れて一緒になれるんや。長い事待たせたな」

立花が友井に

「女将は、洋子という名前やったんか」

「何を今頃、そんなどころやないやろ」

素に戻った洋子は

「何を今更、あなたの奥さんが来て、離婚しないと言ってたわよ。それに、もう私は結婚したわ」

「えっ」

「えっ、じゃないでしょ。結婚をほのめかしといて、奥さんとは別れる気なんかなかったくせに」

立花が友井に

「何か、面白くなってきたぞ」

ちょうど2階に上がっていて階段の途中で、洋子と浩明の話しを聞いていた青木が、階段を降りて浩明の前まで行き、洋子に目で合図を送ってから

「何か用ですか」

「何や、お前は」

「洋子は俺の嫁さんです。それに、お客さんに迷惑ですから、、とりあえず店の外へ出てください」

と、青木と浩明は店の外へ出ると、浩明が青木の胸ぐらをつかんできたが、青木は合気道の心得があり、すぐ青木の胸ぐらをつかんでいた浩明の手をひねって

「い、痛」

と言い、怯んだ浩明に

「これくらいにしといたるから、もう二度と来るなよ」

と。浩明は、こそこそと何処かへ消えて行った。

店の常連客は、青木に拍手喝采だ。店に入った青木は、洋子と見つめ合って互いに頷いた後

「騒がせてしまって、すいません。今日は、俺の奢りです。いくらでも呑んでください」

「やったあ」

立花は友井に

「青木君は、ええ奴や」

「そんな事、前から知ってたわ」

「青木君と女将は、お似合いやな」

「そうやな、知らんけど」






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女将の名は。 赤根好古 @akane_yoshihuru

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