第4話

青木と女将の、顔合わせは以外と早く、田渕と厚子が店に押し掛けてから一週間後に、梅田の居酒屋の2階の個室で行われた。青木は

「何で、俺が女将と会わなあかんのや」

と、最初は虚勢を張っていた青木だったが、以外と素直に田渕に付いてきた。

席は、田渕の横に青木、厚子の横に女将で、青木と女将は勿論、向かい合わせ。料理は、皆で箸を入れれる寄せ鍋に。

店で会った時に、青木は女将の薄いイエローのワンピース姿に、すっかり心を持っていかれてしまっている。

(女将のワンピースは、とても似合ってるわ)

青木は、女将の店での法被姿しか見ていないから。

まず田渕が

「本日は、まことに良いお日・・・」

と、しゃべり出すと横から厚子が肘でつついて

「何、硬い事を言ってるのよ。せっかく女将さんと青木さんがカウンターではなく、テーブルで向かい合ってるんだから」

「そっ、そやな」

田渕が青木に

「それでは青木さん、ひとことお願いします」

青木は、田渕から見ていても、緊張していることが伝わってくるくらいで

「あっ、あぁ。本日は田渕君、そして奥さん。こ、このような席を設けていただいて、あ、ありがとうございます」

女将は、下を向いたままだ。

田渕と厚子は、顔を見合せ

「良かったね」

「うん、そうやな」

田渕は

(これで少しは、青木さんに日頃、お世話になってるお返しが、少しは出来たかな)

すると青木が

「ここまできたら、言ってしまいます」

と、女将を見て

「俺は、俺はずっと以前から、女将の店に行くようになった時から、女将が好きでした」

すると、女将も急に顔を上げて

「わ、私も」

と、言ってすぐに下を向いた。

田渕と厚子は

「やったぁ」

「さあ、とんどん呑みしょう」

厚子は、女将にビールを注いで

「さあ、女将さん。グッといきましょう」

「はい」

「あっ、あの。このような席を作ってくださって、こんなに嬉しいことはありません。実は私、父の店を継いでから5年余り、このような店へ来るの初めてなんです。そして、青木さんとこうして会えるなんて」

真っ赤な顔で、女将は青木を見ながら、しゃべった。

田渕が

「聞きそびれてましたが、女将さんの名は」

「あんた、そんなことも知らんと二人のあいだを取り持ってたの」

女将はクスッと笑い、すると青木が

「岸野洋子さん」

「えっ、何で知ってるんですか」

女将も意外という顔をしたが、青木は女将の顔を見ながら

「当たり前や。好きなひとの名前くらい、知ってなくてどうするんや」

田渕が

「何か、僕ら二人が、この席を作らんでも良かったんとちゃうかったんかな」

「そんな事ないで、ほんとうにありがとう。田渕君、そして奥さんに、ただただ感謝や」

と、青木が頭を下げると、洋子も一緒に頭を下げた。その二人の姿を見て厚子が

「私たち、愛のキューピッドね」

「うん」

「二人は何処に引かれたんですか。参考のために聞くんですけど」

青木が

「女将、いえ洋子さんは、自分にないものを持ってるから」

「どんな?」

「そりゃそうやろ、男相手に店をひとりで切り盛りしてるんやで」

「それって、女性に対してあまり」

「そうやな」

とみんなで笑ってから、青木が厚子に

「参考のためにって、これから何か」

「そりゃ、今後離婚もあるかもしれないので」

田渕が厚子を見て

「えぇっ」

又も笑いの輪が。

「洋子さんは」

洋子は、青木を見ながら

「同僚に頼りにされていて、それなのに決して偉そうにしないで、それでシャイなところです。うちに来た時から引かれてました」

「えっ、そんな前から」

「はい」

「青木さん、男冥利につきますね」

青木は、顔を真っ赤にして

「えっ、何ていうか、その、あの」

田渕が

「こんな青木さん見るの、初めてや」

洋子は、プッと吹いてしまい

「あの、青木さん。ビールを注いでもいいですか」

「は、はい」

青木の声が、裏返っている。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る