第二十話 陰陽寮お猫様捜索大作戦!(3)
大通りにある甘味処は琉衣とわかれてすぐの場所にある。
急いで探そうと私は走ってそこまで向かっていた。
そういえば琉衣とこんなにも一緒にいて話すの久しぶりな気がするな……。
最近で話したのはいつだろうかと思い返しながら、彼の設定や背景を思い出す。
転生前にちらっと見たこのゲームの公式サイトに書かれた琉衣のキャラクター説明にはこうあった。
『円月 琉衣
淡い青碧色の髪が特徴的な15歳の少年。
陰陽寮で最年少として可愛がられている。
ある事件をきっかけに彼は警察に捕えられ、牢獄で過ごした。
その後、軍に引き取られ、現在は藤四郎に声をかけられて陰陽寮にいる。』
ストーリーを進めていない自分には「ある事件」が何なのかはわからない。
今のところの彼の印象は、「笑顔の少ない少年」だ。
彼は軍時代の訓練の成果から、銃の扱いに慣れていてアヤカシとの戦闘で何度も助けられた。
「なんとなく、私生活はまだ謎なのよね……」
陰陽寮のメンバーは住み込みでも他の家に住んでいても構わない。
私や拓斗、それに楓は住み込みだけど、確か琉衣は外で一人暮らしをしていると聞いている。
あまり自席にいることは少ないし、気がつくとサボる癖もある……。
「不思議な子だな……」
そんな風に彼のことを思っていると、大通りの甘味処にあっという間についてしまった。
さほど混んている時間ではないようで、お客さんはまばらだ。
とりあえず店内におこげはいないだろうし、お店のまわりを探してみよう。
私は裏口のある路地裏に歩いていく。
「おこげ~おこげ~」
猫の入りそうな小さな穴や隙間を覗きながら名前を呼んでみる。
しかし、鈴の音も聞こえないし、鳴き声も聞こえない。
もうすぐお店の周りを一周しようというところで、私の肩がちょんちょんと叩かれた。
「はい?」
私が振り返ると、そこには背の高い男性がいた。
黒髪ではあるが、背の高さとガタイの良さ、そして蒼い瞳からすぐに外国の人だということがわかる。
どうしよう!!!
私、外国語なんて話せないし、えっと……道に迷ったのかな?
そんな風にあたふたとしていると、外国の人は私の腰に手を当ててぐいっと自身のほうへと引き寄せた。
「え?」
「ふふ、可愛いね。よかったら、僕とお茶でもしませんか?」
そういって私の瞳をじっと見つめて顔を近づけてくる。
え!!
いや、そのっ!
ちかい!ちかい!ちかいっ!!!!!!
心の中で叫ぶだけで声に出すことができない私は、戸惑いながら体が固まってしまっている。
お兄様とは違う感じで、なんとなく怖い予感がした私は、彼から距離を取ろうと手を振り払った。
「ちっ!」
それがどうも気にくわなかったようで、目の前の彼は明らかに態度が悪くなった。
この場からすぐさま立ち去りたいが、大通りに戻る道は彼の長い足に塞がれてしまっている。
反対側に逃げる?
でも、これ以上路地裏の奥にいってしまって人目から遠ざかったら、さらに助けを呼べない気がする。
身の危険が強まるのは避けたい。
どうしようかと考えていた私は、もうすでに一歩出遅れてしまっていた。
「いたっ!」
彼は私の腕を強く握ってきたのだ。
さっきの私の対応が気に入らなかったので、私を痛めつけようというのだろう。
陰陽姫の力を使えばなんとか脱出できるかもしれないが、むやみに一般の人に使うのもよくない。
でも、どうしたら……。
そんな風に考えていた時、彼の手が誰かによって掴まれる。
「あ?」
その人物を睨みつけるように振り返った外国の人は、次の瞬間に苦悶の表情を浮かべる。
「うぐっ!」
「その子から離れなよ」
そう言ってその人物はすばやく相手の足を払って転ばせると、腕を捻り上げて技をかけるようにぐっと相手の体を抑え込んだ。
そうして手刀で軽く首元を叩いて気絶させると、彼は立ち上がって私に声をかける。
「怪我は?」
「琉衣! 大丈夫です……ありがとう……」
私は今頃になって恐怖を感じたのか、足が震えだして動けない。
すると、そんな様子をみた琉衣が私を優しく包み込む。
「琉衣?」
「女性の体に触れるのはあんまりよくないかもだけど、君が震えてたから」
私と目を合わせることなく、ただ安心を与えるように遠慮がちに抱きしめてくれている。
「ありがとう……」
そうして呟いた私の声が琉衣の耳に届いた──。
悪役令嬢の私ですが、幸せになってもいいですか?~未攻略で展開知らない乙女ゲームのわがまま姫に転生したけど、溺愛されています~ 八重 @yae_sakurairo
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