第十九話 陰陽寮お猫様捜索大作戦!(2)
「もしかして、見てました?」
「うん、見てた」
ああああああああああーーーーーー!!!!!!!
どうしよう、バレてしまった……。
おこげが脱走どころか、これじゃあ私が逃がしたように見えてしまっているではないか。
しかもはっきりと琉衣と視線が合ってしまっていて、言い逃れなんてできないだろう。
少しの沈黙の後、私はその場で土下座した。
「どうかっ! どうか、このことは皆さんには、特に藤四郎様には言わないでいただきたく……!」
必死に頼み込んでいる私の様子がおかしかったのか、頭上から琉衣の控えめな笑い声が聞こえた。
「くくっ……由姫、最近おもしろい」
顔をあげると彼が笑っていた。
琉衣の笑顔をこんなに間近で見るのは初めてだったかもしれない。
「可愛い」なんていったら、彼は怒るだろうか。
──円月 琉衣。
15歳ほどの彼は陰陽寮の中で一番年下であり、ゲーム上では攻略キャラの一人だ。
淡い青碧色の髪はこの国では珍しく、その奥から漆黒の瞳が見えていた。
そんな彼は物静かでどこか達観していて、大人びた雰囲気を醸し出している。
「とにかく立ち上がったら? 公爵令嬢がそんな格好してたらダメじゃない」
「あ……」
そうして琉衣は私に向かって手を差し伸べた。
ぼそっと「あんたの兄に殺されたくないしね」って聞こえたけど、気のせいかしら。
立ち上がった私はスカートの裾の埃を払って言う。
「おこげが……」
すると、琉衣はおもむろに自席に向かい、机の上で地図を広げた。
彼は地図をじっと見つめると、目を閉じて耳を澄ませる。
彼は人より「耳」がいい。
集中すれば人の足音、声、動物の鳴き声など様々な音が聞こえる。
琉衣はおこげの首輪の鈴の音を聞いているのだろう。
しばらく耳を澄ませた後、彼は目を開いた。
「とりあえず、もうこの近くにはいないみたいだね」
そう言って、琉衣は私に尋ねる。
「僕、今日非番だけど、手伝った方がいい?」
「え、いいの?」
「まあ、暇だし」
私は自身の胸の前で両手を合わせてお礼を言った。
「では、正式にあなたに依頼します。私と一緒におこげを探してください!」
「わかった」
物静かな返事の後、彼はラックに掛けてあった軍服に手を通した。
彼はときどき軍に顔を出している軍出身者ということもあり、今も勤務時には軍服を着ている。
私も急いで自席の後ろに掛けてあったコートを着ると、急いで寮を出た。
街中から猫一匹探すのは至難の業である。
とにかく大通りでは琉衣の耳には「うるさすぎる」ため、音が拾える路地裏などをあたってみた。
「いないな……」
私は近くにあった猫が入り込んでいそうな物置を覗きながら言った。
琉衣も耳を澄ませるが、どうやらここの付近にはいないみたい。
「あの猫の好きな場所とかないの?」
琉衣が私に尋ねた。
おこげが好きな場所といっても、あの子は家猫みたいなもので陰陽寮から出たことがないはずだ。
行きつけの場所なんてないはずだし、どこに向かったのか検討がつかない。
「おこげは確か、人見知りな気がするけど……あとは、甘いものが好きだったような……」
「甘いもの?」
「はい、楓が以前アイスクリンを食べていて、それを横から舐めていた気が」
琉衣は口元に手を当てて考え込むと、口を開く。
「この近くで甘味処は二か所あるはず。大きいところだけど」
「ああ! アサクサ通りのところでしょうか?」
最近洋風のカフェができたと華族の令嬢の中で噂になっていた。
「うん、そこと確か大通りの先の場所だった気がする」
「では、手分けしていきましょう。早くしないとおこげが心配です」
私がそう言ってアサクサ通りの方へ向かおうとすると、首根っこを掴むようにして琉衣が引っ張った。
「ほえ?」
「あんたは大通り、ここからすぐ近くだから」
そう言って琉衣はアサクサ通りの方へ向かって歩いて行った。
「遠い方を選んでくれたのかな?」
そんな私の声に足を止めることなかった──。
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