第十六.五話 帝都女学生失踪事件 閑話

「はあ……はあ……」


 ある男は一人、森の中にひっそり佇む洋館に戻っていた。

 その腕はひどく傷つき、血が出ている。


「くそ……」


 彼は暗い部屋の壁にもたれかかると、苦しそうにその場に座り込んだ。

 肩を大きく揺らして、なんとか空気を取り入れる。

 天井を見上げた彼は、意識が遠のく中で笑った。


「くく、ふふ……そうか……」


 彼は窓の外の月を眺めて手を伸ばした。


「呪詛返し、か」


 彼の目はゆっくりと閉じられた。


「陰陽系譜の技……ふふ、そうか。ついに「彼」のおでましか……」


 そうして、彼の手は落ちていき、やがて意識を失った。


 彼の腕輪の翡翠石が静かに光っていた──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る