第十三話 帝都女学生失踪事件(2)
とにかくこの部屋から脱出しなければ、話は始まらない。
そのためにこの縄を解いてしまいたいが、先程何度か上下に動かしてみたり紐から抜け出せないかを模索してみたがうまくいかない。
「いたっ……!」
何度か試行錯誤しているうちに手首が縄で擦れてしまったのか、痛みが出るようになってしまった。
しかし、こんなところで負けるわけにはいかない。
なんたって私だけではない女学生たちの命がかかっている。
それに、あの誘拐犯にもお縄になってもらって罪を償ってほしい。
私は顔をあげて窓と思わしき場所を見た。
新聞紙で窓の多くを覆っているが、わずかに一か所だけはがれかかっている。
「もう夕方になってる」
なんとなく暗さからも日が落ちてきているのだろうと想像はしていたが、実際に目の当たりにすると焦りが進む。
もう一度手元に集中して縄を解こうとしてみる。
手品であればするりと華麗に抜け出せるのだろうが、困ったことに私には今それはできそうにない。
足元も縛られていてうまく身動きが取れないが、私はふと違和感を覚えた。
「あれ……」
なんとなく手に比べて足の縄が緩い気がしたのだ。
私はブーツを何度もこすり合わせて脱ごうをした。
すると、なんとか少しずつブーツから足が抜けていった。
そして完全にブーツから足が抜けると、縄からも抜け出して足が自由になった。
「よし!」
そこまでやった後に私は自分の作戦ミスに気づく。
あれ……これもしかして陰陽姫の力を使ったらすぐに解決したんじゃ……。
私は自分のアホさに肩を落とした。
しかし、それに気づいてしまえばこっちのものだ。
私は目を閉じて詠唱をする。
「汝、これに応えよ。 壱の式、炎華」
詠唱を唱えて縄を焼き切ろうとしたが、しばらく待ってみても何も起こらない。
「え……なんで」
もう一度唱えてみるが、何も起こらない。
陰陽姫の力がなくなった?
そう考えた私だったが、そう簡単に陰陽姫の力を消すことなどできない。
可能性としてあるのは、この首輪の存在だった。
アヤカシの一部は魔力封じを持つものがいる。
その魔力封じがかけられた首輪の可能性が高い。
だが、この魔力封じはその辺のアヤカシがほいほいと使えるものでもない。
アヤカシの中で術式使いのものしか使えないはずだ。
つまり、あの誘拐犯の裏に術式使いのアヤカシがいるということだ。
「最悪の展開だ……」
ヤマトからの情報段階ではアヤカシ関与の可能性は低いと考えていたが、今ここで関与が確定してしまった。
急いで陰陽寮に戻ってみんなに知らせなければならない。
私はなんとかこの手元の紐をほどく方法がないか、周りに使えそうなものがないか、と視線を忙しく動かしてみる。
足が自由になったことで後ろを向くことができ、そしてそこにガラスの破片があったのだ。
なんとなく肌寒いと思っていたのは、この後ろの窓の微かな割れ目からの風だったのか。
私はそれを拾うために思い切って椅子ごと体を床になげうった。
「んぐっ!」
鈍痛に襲われたが、なんとかガラスの破片に手が届きそうだった。
背中に回された手でぎこちなくその破片を拾い、縄に当てて切っていく。
テレビで昔そういう脱出方法を見たことがあったが、まさか自分がすることになるとは思わなかったわね。
コツコツと切っていくと、縄の一本が切れた。
「切れた!」
私は目いっぱい力を入れて引きちぎると、そのまま縄は緩み始めた。
手を上下に動かしていくと、私の手は縄から抜けることができた。
自由になった手をさすって、そして体を動かしてみる。
問題なく動くことを確認すると、そのままドアに向かって走っていく。
しかし、階段を降りた先のドアはやはり開かない。
上に戻って窓から脱出できるか見てみるが、何かで補強されていて壊せそうにない。
そして先程ガラスが割れていた隙間から外を覗いてみる。
「うそ……」
そこには絶望しかなかった。
かなり高い場所にこの部屋が位置しており、見える範囲で降りられる場所はない。
恐らくこの場所から抜けるためにはドアを開けて出るしか方法はなく、その鍵はこの部屋のどこかにある……かもしれない。
どうやって脱出しようか。
そう考えを巡らせている時、ふと昔の記憶を思い出した。
「お兄様とそういえば……」
そう、それはお兄様と過ごした昔のある記憶だった──。
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