第十一話 腕利きの情報屋(2)

 彼の言葉に私は驚きの声をあげる。


「5人も……!? アヤカシの仕業?」


 ヤマトは首を横に振る。

 彼は特異体質人間で、アヤカシの姿が見える。

 話を聞く限りだと、恐らく私達ほどはっきりとは見えていない。

 だが、ぼやっとアヤカシの輪郭が見えたり、「そこにいる」くらいには見えるそうだ。


「この女学生の共通点として、全てあるカフェの行きつけだったんです」


 女学生たちの間では、ここ最近、華族令嬢御用達のカフェでお茶をして帰ることが流行っているそう。

 私も何度か誘われたけど、断ってたのよね。


「あるカフェ?」


 私はヤマトに尋ねた。

 すると、テーブルにある地図を指さしながら、彼は言う。


「オチャノミズの裏通りにあるカフェです。それで、そこの店員を調べたら、一人だけ地方出身者がいたんです」

「まさか……」


 私は背中がぞくりとした。


「そう、彼は熱海の人間で、煌華邸で給仕をしていた」


 彼の瞳がじっと私を見つめた。

 私はごくりと息を飲んだ。


「煌華邸って……」

「由姫様がパーティーに参加されたあの洋館です」


 ヤマトの低い声が私の耳に届いた。


 つまり、私はとんでもない人間にストーカーされているかもしれないのだ。


「その給仕の人間が、容疑者で間違いないのね?」

「はい」


 なんてこった……。

 私の知らないところで様々なことが動いているというわけだ。


 私のストーカーの犯人と、帝都で起こっている容疑者は同一人物──。


 私は急いでこのことを藤四郎様に伝えるべく、席を立った。


「ありがとうございます! ひとまずアヤカシ関与の可能性も含めて藤四郎様に伝えます」

「俺から聞いたって言っちゃだめですよ?」

「ええ、あなたのことは漏らさないわよ」


 ヤマトにそう告げて、私は下室の階段を駆け上がる。

 退室の合図であるノックをすると、マスターである榊が開けにきた。


「由姫様、いってらっしゃいませ」


 榊は深々と私にお辞儀をした。

 そんな彼に私は走りながら、依頼をする。


「榊、彼にスウィットランド産のウイスキー出しといてもらえる!? 前に渡したのでお願い」

「かしこまりました」


 榊に先日渡した費用のことを頭に思い浮かべる。

 いつもそのお金から情報屋であるヤマトへの支払いをお願いしていた。


 私は急いでバーを出て陰陽寮に戻ろうと走り始めた。

 ──が、できなかった。


「んぐっ!」


 入口を出たすぐで、後ろから何者かに布で口元を塞がれたからだ。


 必死に息を止めてそれを吸い込まないようにするけれど、ついに息が続かなくなり……私はそのまま意識を失った──。

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