2.中神さんと霊たち
夜十丸くんを追って屋上への扉までやって来ました。
この扉の先から強い霊気を感じる、ここで間違いない。
「ごめんください!ってあれ?」
意を決して扉を開けたものの
屋上は閑散としてました。
ぐるりと辺りを見渡しても居ない。
どうやら屋上に人は居ないみたいです、人は。
開けた瞬間から分かっていたのですが
ここには1人の霊がいます。
よく見ると、うちの制服を着ている女の子
屋上の真ん中に立って遠くを見つめています。
少し気になりますが、夜十丸くんがいないと分かったので
(待って!)
「え?」
屋上から出ようとした時に声が聞こえました
振り向くとさっきの制服の女の子がこちらを見ていました。
「何か用ですか?」
恐る恐る近づきながら尋ねてみると
女の子の霊はこちらを見て驚きました
(あなた、私が見えるの?)
どうやら彼女の姿が見えていることに驚いていたみたいです
「あ、はい…一応霊能力があって、ハッキリと」
(驚いたわ…会話もできるなんて、声をかけてみるものね)
霊は綺麗な黒髪を少しかきあげて少し微笑んでいます
(私は
「な、中神恵瑠です」
(凄い、人と話すのなんて何年ぶりかしら)
白雪さんは胸あたりで両手を合わせて上品に喜んでいます。綺麗な人だなぁ
「白雪さんはここの生徒だったんですか?」
(生徒だった……そうね。卒業せずに死んじゃったからまだここの生徒かもしれないわ)
少し寂しげな表情で答えてくれました
「あ、嫌な気持ちになってたらごめんなさい!そんなつもりじゃなくて…」
(ふふ、大丈夫よ、分かってるわ)
どうやら悪霊ではなさそうです
(霊になって、かれこれ10年くらい誰にも気づかれなかったから。見える人に会えて嬉しいわ)
「ずっと屋上に居たんですか?」
(ええ、ここから飛び降りて死んだからかしら。屋上からは出られないの。)
「え?」
また私は不躾な質問をしてしまいました、どうしよう
(そんなバツが悪そうにしなくてもいいわ。10年も前の話なんだから)
白雪さん、綺麗な上にとても優しい
なんで死んじゃったんだろう
(なんで死んじゃったんだろうって聞きたそうな顔してるわね?)
「え?!いや、そんなっー」
(大丈夫、そんな重いもんじゃないわ。ただの失恋よ。その頃の私の全てだったり人にフラれて、何もかも嫌になって全てを投げ出したの)
「そうだったんですね…」
(未練も何も無いと思ってたけど、成仏もできずこんなとこに閉じ込められて。かっこ悪いわよね。せめてどこでも歩き回れればいいのに)
白雪さんの足元をよく見ると、右足が鎖に繋がれていました。
これは中神家にだけ分かる地縛霊の証です
白雪さんが霊になった時、まだどこかで自分の死を受け入れられなかったのかも知れません。
(ところでアナタ、どうしてここに?)
「あっ!!そうだ!夜十丸くん!」
夜十丸くんを追って屋上に来たのを忘れかけてました、危ない
「あの、ここに凄い悪霊に憑かれてる男の子が来ませんでしたか!?」
(男の子?今日ここに来たのはアナタが初めてよ)
「嘘、どうしよう…早く見つけないと…殺されちゃう」
(詳しく聞かせてもらっていい?なにか力になれるかもしれないから)
「あ、ありがとうございます!私の隣の席の夜十丸くんって男の子が3人の悪霊に取り憑かれれてて、呪い殺されそうなんです!悪霊が落として殺すって言ってたから屋上だと思って来たんですけど、居なくて…」
(それは大変ね、悪霊は他に何か言ってなかった?)
「えーっと…他には…」
必死に思い出そうとしても殺す以外の情報がほとんどありません。いや、残ってる情報が1つだけありました
「授業で先生が言ってたシルクロードに反応してシルクロードで殺すとか言ってたけど…」
(シルクロード…)
「流石に関係ないですよね?」
(いえ、もしかしたら居場所が分かったかもしれないわ。着いてきて)
白雪さんについて行くと屋上から街を見渡せる所にたどり着きました
(あそこに長い歩道橋があるの、みえる?)
白雪さんが指さす方向を見ると
確かに長い歩道橋があります
(あの歩道橋、夕方になると綺麗な夕焼けが見えるの。それでこの辺の人はあの歩道橋のことをシルクロードと呼んでるのよ。もしかしたらそこに向かったのかも)
「えええ、こんなとこにもシルクロードが!」
引っ越してきたばかりで土地勘がないのが仇に!
というか、授業も丁度シルクロードでややこしい!
「白雪さん、ありがとうございます!行ってみます!」
(ええ、頑張ってね)
「あ、白雪さん!」
(ん?なにかしら?)
「これ、お礼です!…えいっ!」
屋上から出る前に
白雪さんの足に繋がれている鎖を解いてあげました。
(え、これ…)
「解放の御札です。宿ってる霊力が少ないので学校の外には行けないですけど、これで屋上からは出られると思います。では、失礼します!」
(充分よ。ありがとう、恵瑠さん)
白雪さんのお礼を背で受けて
シルクロードと呼ばれる歩道橋へと向かいました。
「い、居た!」
汗だくになりながら全力疾走で走ったおかげでなんとか夜十丸くんを見つけることが出来ました。
しかし夜十丸くんはもう歩道橋の階段を上っています
ここからまだ走らないと追いつけない
フラフラになりながらも全力で走りました
「はぁ…はぁ…追いついた…夜十丸くん」
歩道橋の真ん中でようやく追いつきました
フラフラの中階段も昇ったので今にも倒れそうですが
倒れる訳にはいきません
「夜十丸くん、聞こえますか?」
「…………」
ダメだ。完全に憑依されて声が届いてない
「悪霊の3人、夜十丸くんから離れてください!」
(殺ス…殺ス)
悪霊にももう声が届かない
夜十丸くんももう歩道橋の手すりに手をかけてる
このまま憑依して落とす気なんだ
仕方ないけど、この霊達を除霊するしかない
「もう、こっちではやらないと思ってたのに!!」
除霊は訳あってしたくない、と言いましたよね
なんで除霊がしたくないか。
まだ未熟で力が上手く操れないから?
除霊した後になにかデメリットがあるから?
いえ、違います
「今回だけだからね…!」
私が除霊をしたくない理由はたった一つ
とても簡単な理由です。それは
「布団が、吹っ飛んだぁっ!!」
中神家の除霊術はダジャレを言わないと発動しないからです。
こんなの恥ずかしすぎて人前じゃ絶対に使えません。
(ウゥウウ…コロ……ス)
悪霊たちは徐々に消えていきました
除霊成功です、良かった。
(オイ、女)
最後まで残っている海賊帽を被った骸骨の悪霊が消えゆく体で語りかけてきました
「なんですか?」
(コノ男ノ体ハ異常ダ、アマリニモ憑キヤスイ)
「え?どういうこと?」
(オレタチガ、消エヨウガ、マタ直グ二、誰カガ憑イテ殺スダロウナ…ガッハッハッハッハ……)
そう言って完全に消えていきました
「嘘でしょ…」
骸骨が言ったことが本当なら
今後も夜十丸くんは色んな悪霊に取り憑かれることになってしまう。
またこんなことが起きるってこと?
「う、ん…アレ、僕なんでここに来たんだっけ…?」
憑依した悪霊が消えて夜十丸くんの意識が戻ったみたいです。
後のことは考えずに、今は夜十丸くんが無事で済んだことに安心することにします。
「夜十丸くん、大丈夫ですか?」
「え?あれ…隣の席の…確か、中神さん…?どうしてここにいるの?」
「や、えっと…」
「ていうか、凄い汗…大丈夫?」
一生懸命で忘れてたけど今、髪もボサボサで汗だくで…めちゃくちゃ恥ずかしいことになってない?
「い、いや、だ、大丈夫!あはは、なんでだろ?霊に取り憑かれちゃったのかな?なーんて…」
こっちに来て楽しい高校生活を送れるかな思ってたけど
どうやら人生そんなに甘くは無いみたいです。
「中神さん、幽霊なんて居ないよ」
「はは…ソウダヨネ」
大丈夫かな?私の高校生活
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