ニアと襲撃者
アリスが飛び去ってから少し。俺は腕からちょっとした枝を生やすことに成功していた。よしよし、着々と進化してるな。
「やあ、嬢ちゃん。魔法の練習かい?偉いねぇ」
全神経を魔法に集中していたため、俺がその男の接近に気付いたのは声をかけられてからだった。
真っ黒でボロボロの外套に身を包んだ高身長の男。一見怪しげな風貌ではあるものの顔は小綺麗に整えてあり、爽やかさすら感じられた。
「実はお兄さん今日この村に来たんだけどねぇ、旅の途中で色々とあってこんな服装になっちゃって」
「はぁ」
「これから滞在する村で怪しい噂が立つ前にどこか服を買える場所を探したいんだけど……どこか心当たりがあったりしないかな?」
「俺が買った店はこの通りをまっすぐいけばあるはずですけど……」
「そうか。ありがとう、お嬢ちゃん」
礼を告げられ、魔法の練習に戻ろうとすると男がゆっくりと近づいてきた。自分より背の高い人間にはまだまだ反射的にビビってしまうものの、悪意はなさそうなのでホッと安心。あの手の出し方的に頭でも撫でようとしているんだろう。どいつもこいつも俺のことをただの幼女だと思いやがって。
伸ばされた手が俺の頭に触れる。大きく、少し骨張った成人男性特有のそれに若干の懐かしさを覚えていると突如触れた場所に電流のような衝撃が走った。
「……いっ」
たくはない。痛くはないものの違和感というか、心中での嫌悪感がすごい。例えるならそう、上司から理不尽な説教を喰らった時のモヤモヤというか、そんな感じの。とにかく心に不快な何かが入り込んでくるような感覚。なんなんだ、これは。
「ああ、さすがは上位精霊様だ……素晴らしい……」
「……いま、何をしたんですか」
「駄目だよ嬢ちゃん……こーんな怪しい奴に体を触らせちゃ……悪い人に何されるか分からないからねぇ……」
「何されるか、というか何されたか分からないんですよね。なんで俺が精霊だって知ってるんですか」
「魔法の心得がある人間だったら一発さ……その長時間かけて練り上げられたであろう魔力の密度……!そして今も溢れ出しているその圧倒的な総量……!並の精霊や魔法使いなら震え上がって逃げちゃうだろうねぇ……」
話が一向に見えてこない。だが、
要するに俺はさっさとコイツの目的を洗い出し、一人で適切な対処をする必要がある。アリスはあのざわめきを確認しに行ったのだ。すぐに帰ってくる保証はない。
「そう難しい顔をしないほうがいい……せっかくの可愛いお顔が台無しだぁ……ああ、そうだ……お兄さんは君が欲しいんだよ……」
「は?」
「お兄さんはねぇ……君みたいな子と戦えばきっとどんな相手にだって勝てるのさ……精霊と手を取り合い、協力して巨悪を砕く……素晴らしきサクセスストーリー!……なのだけれど、君はどうやらそうじゃないらしい……だからちょっと『協力』して欲しかっただけでぇ……」
気持ちが悪い。切実にそう思った。ただのロリコンなら殴り倒すことも考えはしたものの、はっきり言って近づきたくもない……勝手に自分の世界に入ってペラペラ色色々語り出した挙句相手に協力を求めるような奴がまともだったことがあるだろうか。いや、無い。
「けどそれもダメだったからぁ……『躾』が、必要かなってぇ……!」
男は一度服の下に手を潜らせ、少しガサガサと漁るようなそぶりを見せた後両手におかしなものを二つ携えて再び元の棒立ちに戻った。
左手に握られるのはハンディサイズの釣鐘、右手に握っているのはフックのような鉄製の鈍器……だろうか。何にせよ物騒だ。
「ごめんね……上位の君……痛いけど、我慢してねぇ……?」
ガンガンと鐘を鳴らす。本来想定されていなかったであろう叩き方をされた鐘は歪な音を立て、やがて開戦の合図となった。
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