アリスと襲撃者②
「耐久力は大したものだね。魔法の威力も恐ろしい」
「理解できません。あなたほどの実力があれば多彩な手札で私を圧倒できるでしょう」
「こっちにゃこっちの匙加減があるんだよ。黙って縛られててくれ」
魔法を使えるもの同士で戦闘になった場合の勝敗の決し方は幾つかある。まず不意打ち、これは言わずもがなだ。次に魔法の出力勝負。互いに魔法をぶつけ合い、威力の低かったものが吹き飛ばされる。そして最後、多彩な魔法の複合による手数での圧倒や初見殺し。
不意打ちは既に成立しないし、威力勝負はリスクが高すぎる。魔法の手数は『本当に必要な時』のために温存しておくが吉だ。
「私はなんと言われようと命令を遂行するだけですが」
「そうか。別に私はお茶でもして時間を潰しても構わないんだけどね」
ブチブチと嫌な音を立て、絡みついていたツタが引きちぎられる。
並の人間や精霊ならそのまま締め殺せるレベルだぞ?冗談はやめてくれ。
再度足に強化魔法を展開、そのまま流れるような動きで顔面にワンツー。が、仰け反りすらしない。一歩退いて顎にサマーソルトを叩き込んでみたものの、やはり効果は芳しくない。
「かっっっっっっっった。こんなに物理が通らないとまいっちゃうね」
「『魔女』と畏怖されながらこれほどの格闘技術も持っているとは。不可解ですね」
「魔法使い同士の戦いは手数で
朝ニアに見せたものと同じ魔法で木剣を生成、あとはとにかく位置を繰り返し変えながら殴る。人間を殴った時のような重い感覚のフィードバックはあるが、やはり効きはほとんどなさそうである。本当に、耐久に振り切ったような性能をしている。
非常に面倒だ……いや、私としてはさっさと吹き飛ばしてしまっても構わないのだが、他人の契約精霊を蒸発させてしまうと後が怖い……というか、なんの言いがかりもなしに襲いかかってくるような奴らだ。むしろここで消し炭にでもしておいた方がいいんじゃなかろうか。うん。そうしよう。
「おい君」
「……?なんでしょう。降参の申し入れなら―――」
「避けてくれよ」
速射できて且つ威力も一定のものが担保されることが魔法陣の強み。その陣も慣れれば展開までそう時間はかからない。人一人がすっぽりと収まるほどのサイズの陣を展開し、すかさず魔力を流し込む。
音はない。ただ、目を焼くほどの白い光が空間を抉り取るのみだった。
もくもくと上がった土煙がようやく晴れ、軽く被害の確認をしていた時、地面に転がってピクリとも動かないメイドを発見した。
「……死んだかな?」
「失礼な人ですね」
「あ、避けたんだ」
頭すら一切動かさず地面に向かってモゴモゴと喋る様は中々に滑稽だ。右半身がごっそりなくなっているところを見るに、そこの治療にリソースを全ツッパしているから指一本動かせないといったところだろう。
「ま、なんとかなるでしょ。精霊だし」
「精霊をなんだと……なりますが」
「よしよし、じゃ、私はこれで」
結構な時間は経ってしまったけれど、多分ニアは大丈夫だろう。だってあの子、
森の異変や同時期に発生したあの子を紐づければ嫌でも分かる。なんなら襲いにかかった方が心配なぐらいだ。
「よーし、帰るかぁ……」
行きと同じ魔法陣を展開。全く同じ軌道を描いた私は、愛する弟子の元へと戻るのだった。
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