襲撃者①(アリス視点)

 地面につく前に一度ふわりと浮遊を挟み、衝撃を殺す。空気抵抗の削減や筋力の強化、落下時の衝撃軽減などを詰め込んだお気に入りの複合魔法だ。


 背後などにおかしな様子がないことを確認し、視点を正面へ。森を騒がせていた気配の正体は一人のメイドだった。



「や、メイドさん。こんなところで何をしているんだい?」


「主人の命により、ここで待機せよと」


「そっかぁ。ご主人は?」


「言うな、と」


「そっかぁ」



 ここへと飛んでくる途中、怪しい人影は既に確認済みだ。全く隠れるそぶりを見せずに野原を突っ切ってニアの方へ直行していたが、まぁ正直あの子はほっといても大丈夫だろう。

 現状ですら私が本気で戦って勝てないだろう相手だ。勝つことも負けることもないだろうが万が一勝った場合は……ケーキでも買ってやろうか。



「私は主人にあなたを一定時間拘束しろとの命令を下されています」


「あ〜はいはい。そう言う感じね」



 少なくとも今の発言で本命は村かニアかに絞られた。せっかくの弟子の実戦の機会を奪うつもりはないが、もしもの時のために近くで待機ぐらいはしておきたい。



「じゃ、君に用はないから」



 あなた相手に時間稼ぎををします、と言われてはいそうですかと付き合う大馬鹿者がどこにいる。私にこいつと雑談に興じてやる道理はないのだ。


 全身に魔力を込め、殴り合いができる距離まで踏み込む。あくまで殺しはしないため出力は控えめ、純粋なフィジカルで


 一瞬、私の拳がメイドの腹にめり込んで、そのままメイドが森の奥へと吹き飛んで視界から消える。結構派手にやっちゃったけれど、流石に死にはしないだろう。

 せいぜい大怪我だ。



「……さて、と」



 先と同じ陣を展開、飛び上がったところ確かにいつもの修行場所場所に二つの人影が見える。片方はニアで間違いないようだ。


 目標を定め、向かおうとした瞬間。地上から大きな魔力の起こりを感じる。

 このまま浮遊したままでいるのは危険、迎撃も間に合いそうがない。



「仕方ないな……」



 一度魔法を解いて自由落下、体半分ほど落下した時点で頭上を何やら光の線が通り過ぎていった。


 魔法の気配を感じてから飛来するまでのスピード、見た目とは裏腹に高度な圧縮を加えられたそれは私ですら掠っただけでもどうなるかは考えたくない。



「今ので仕留め切れたと思ったのですが」


「それはお互い様だろ。大人しくくたばっといてくれてよかったのに」



 小生意気なことを抜かしながら姿を現したメイドは先程と変わらない涼しい顔だった。変化があったことといえばところどころ擦り傷があることと―――僅かではあるがそこから魔力が漏出していること。



「君、人間じゃないだろ」


「何故」


「別に。そう思っただけだよ」



 本来、特殊な状況下などの一部例外を除いて人間の傷跡から魔力が漏れることはまずない。魔力で強化をしていたものの殴っただけでそんな事態になることはまずないのだ。

 で、あれば疑うべきは相手が非人間であること。人間で言う『血』のように魔力を扱うモノといえばニアのような精霊ぐらいだ。



““木々よ””



 無詠唱を交えながらも略式の詠唱を挟んで魔法の安定化を図る。呼び出された木の根がメイドの手足をガッチリと拘束、ギリギリと締め上げる。


 耐久性は大したものだが反応速度は並以下、耐えて例の高威力な魔法で吹き飛ばすのが主な戦い方と見た。



「は〜やれやれ……勘弁してくれたまえよ」



 元々耐久戦を目的としているんだ。それにあった人選……いや、人ではないが。ともかく目的に合った技能を持つものが充てられている。それに向こうは明確に私をターゲットとした上で仕掛けてきているんだ。決して油断はできない。



 ああ、だんだんニアが心配になってきたな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る