にあの幼女力三割増
アリスに連れられて浴場へと向かった俺の意識は早々に途切れてしまった。わかったのはせいぜいアリスも貧の民だったと言うことだけ。
というか意識が飛んだのも平成昭和の如く鼻血を噴いたとかじゃなくて湯船につかって気が緩んだだけだからな。
そんなわけで次に俺が目を覚ましたのは宿のベッドの上だった。ただ、この部屋は俺と出会う前のアリスが長期で借りていたわけで。とどのつまり、言うなればシングルベッドな訳だ。
そう。起きたら真隣にアリスがいたとも。
サラサラの白髪、長いまつ毛、華奢ながらもところどころ旅慣れした筋肉がうかがえる手足……まずい、不覚にもドキッとしてしまった。
……それでも良いか、と思えるぐらいには美少女なんだよな。コイツ。
「……うみゅ」
うみゅってなんだ。うみゅって。
「おい。起きろアリス。外はもう明るいぞ」
「やぁ……まだねむい……」
ゆさゆさと体を揺さぶってみるものの、帰ってくるのはそんな反応ばかり。……仕方ない。もう少し寝かせてやるか。
しかし!!寝かせてやるからと言ってただで待っている俺ではないのだ!!さっさと着替えを済ませて朝食の調達に行ってやるのだ!!
昨日『何かあったら使うように』と受け取ったお小遣いを手に取り、すれ違ったオーナーのおばさんに挨拶をして外に出る。
カラリとした風が吹き抜けていき、スカートが風に揺れた。今日のコーデは白のワンピースに麦わら帽子。これを平然と着れるようになってきたのだから、俺も
ま、大概の服は葉っぱビキニよりマシだからな。
おはようじょー、と伸びをして辺りを見回すと、遠くの方に何やら騒がしい場所が見えた。
「……市場か?アレ」
とりあえず。行く場所もないし、人がいそうな場所の方に向かってみるか、ということにして、俺はその市場の方へと向かうのだった。
閑話休題。
到着してみると、そこは露店が並んだ市場だった。
うーん、ビバ異世界。ぱっと見何かおかしなものが売っているとかはないけど……やっぱりところどころで異世界ワードが聞こえてくるな。
いかんいかん。俺は朝ごはんを買いに来たんだった。
改めて辺りを見回してみると、パン屋なり八百屋なりが目に入った。
「……あ」
「おぉ?アンタ、昨日の……」
「お、おはよう、ございます……」
まずい。昨日のオッサンとエンカウントしてしまった。
悪い人じゃあないんだがどうにも関わり方がよくわからない。
「嬢ちゃんは一人で買い物かい?」
「えと……はい。アリス……お姉さんがまだ眠っているので、朝ごはんのお買い物に……」
「そうかそうか!そいつァちょうどよかった!ちょっと待ってな!」
きっと、この時の問答をしていた俺は目がぐるぐるだったであろう。ああ、おいたわしや。
ただ、仕方のないことなのだこれは。
前提として、俺は今幼女なのだ。当然の如く身長も小さい。
昨日はアリスに引きずり回されたり魔法の訓練だったりで疲れていたのだ。当然視界も狭くなる。
だが、元気になると周りに意識を割けるようになってくる。
そこで俺は気づいたのだ。
『周りのものデッカ?!』
……と。
要するに、俺は断じてコミュ障などではないのだ。ちょっと怖いだけなのだ。以上、言い訳終わり。
「これを持っていきな」
「これは……ジャムですか?」
「おう!昨日アリス嬢に渡そうと思ってたんだが、どうにも忙しそうにしててなァ」
「……ありがとうございます!」
「気ィつけて行けよォ〜!」
瓶入りのジャムを受け取ってそそくさとその場を後にする。これは後日ちゃんとお礼にいかないとな、なんて思いつつ、俺は適当なパンでも買って宿へと帰ることにした。
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