ビバ、麦畑!

 一晩明けて翌日。俺たちは最寄りの村へ向かってゆったりとした速度で向かった。


 と、いうのも道中は基本魔法の云々や珍しい草花についての講義がずっと続いていたし、何か面白いものが生えていれば話題はそっちに移る。


 ぼんやりと聞いていてもアリスの話は頭に入ってくるし、何より興味深いものが多い。


 この話からわかったのは『この世界の植物は基本殺意が高い』ということだ。やれヒルみたいに血を吸う花やらやれ馬鹿みたいにでかいウツボカズラやら死にはしないものの一週間は痺れが取れないキノコだの……


 ただ、案外そういう危険なやつが薬用効果を持ってて、俺たちの世界が科学でなんとかしていたところを、この世界は魔法や自然との付き合いでなんとかしてきたんだろうなって感想だ。


 木に引きこもっておそらく数百年、何も考えずニョキニョキしていた俺の頭も体もクタクタになった頃、やっとこさ村の端へと辿り着いたのだった。




 森の小道を抜けて、真っ先に目に入ったのは青々と広がる麦畑だった。『村』と聞いていた分、思っていたスケールと違って思わず感嘆の声が漏れる。

 

 

「すっげぇ……綺麗……」


「見る目があるじゃないか。私もなかなか長い時間旅をしてきたが、この村は気に入って滞在しているんだ」


「ばーさんみたいなこと言うな。いくつだよアンタ」


「まぁ、少なくとも君の思うような年では無いね。レディーにばーさんとか言うものじゃないよ」


「へいへい」



 村の道に入ると、先ほどとは打って変わって一気に歩きやすくなった。じっと下を見ていなくても蛇は踏まないし木の根に足を引っ掛けることもない。整備された道とはこんなに有難いものなのか。


 少し早足で麦畑を抜けると、転々と数件の建物が立っていた。

 風車に教会、あとは民家だろうか。どれも石造りでいかにも中世ヨーロッパといった感じだ。


キョロキョロと辺りを見回していると、近くの家の庭で作業をしていたおっさんと目が合い、話しかけられた。


「おや。魔女のねーちゃんじゃねェか。早かったな」


「ああ。森に起こっていた問題の元凶ははっきりしたからな。あとはこの子を保護したんでとんぼ返りさ」


「アンタに保護されるなんざァその子も運がいいなァ!んで、これからどうするんで?」


「しばらくここに滞在するよ。まだまだよろしく」


「あたぼうよ!じゃあな!」



 突然話しかけてきたおっさんに気を取られて、重大なことを聞き逃しそうになった。


 どうやら、俺はこのままアリスとこの村に滞在することになるらしい。滞在したとして、何をするのかは不明だが。




「いいおっさんだったな」


「そうだね。ここにきてから、特に良くしてもらっているよ」



 疲れ切った俺はこのまま宿に直行すると勝手に思い込んでいたのだが、宿に続くであろう道を曲がろうとした時、首根っこを鷲掴みにして全く別の方へと引っ張られ始めた。



「おいアリス。離してくれ。俺は疲れているんだ」


「余裕がある時に修練しても意味がないだろう。まだ日は高いんだ。行くぞ」


「おいアリス。なんの修練か全く聞いていないぞ俺は」


「道すがら散々抗議をしてやっただろう。次は実践だ」



 そう言ったアリスは悪そうな笑顔でニタリと笑い、俺を引きずったままずんずんと村を突き抜けていくのだった。

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