精霊ってなんだよ!!!!

「いや〜……危ないところだったな。君」


「今更口開いたと思ったら何平然と会話始めようとしてんの!?」



 クソデカイノシシや盗賊に襲われ、魔女(見た目の年齢は魔法少女)に助けられた俺は、あれよあれよと言ううちに彼女の活動拠点へと連行されていた。


 周囲はすっかり真っ暗、パチパチと燃える焚き火だけが明るく輝いている。



「っていうか、お前はこんなところでキャンプ立てて何してるんだよ。人間がこの森に入ってくる事なんて今までなかったぞ?」


「ああ。最近までこの森はついこの間まで【聖域】として、禁足地になっていたからな。致し方ない」


「人ん家をそんな呪われた場所みたいな……」


「まぁ、中央に世界樹がそびえる森だからな。怖いもの知らずも近づこうとはせんさ」



 ……ん?今、世界樹って言ったか?

 世界樹ってあれだよな?なんか色々司るタイプのあれ。

 ユグドラシルとか呼ばれちゃうあれだよな?


 この森で一番大きくて樹齢が高齢なのも中央に鎮座してるのも俺(の、抜け殻)の大樹なんだけど、流石に勘違いだよな?



「……どうしたんだい?」


「いや……あのでかい木、実は俺でさ……」


「成程。合点がいったよ」



勝手に納得された。もしかしてあれか?この世界の人間だったら一発で理解できるのか?



「納得がいかなそうな顔だね」


「勝手に納得されただけだからな」


「そうか……では、仮説込みではあるが、説明しよう。少しなるが構わないか?」



 俺は黙ってうなずく。少し勢いの弱まった焚き火がパキリと鳴った。



「ではまず、『精霊』というものについて知っておこうか」


「精霊?」


「ああ。自然に生まれた物……木や川、山なんかに魔力が蓄積されて、なんらかの形と自我を持った存在のこと……と、定義されている」



 えらいざっくりしてるな。天然の付喪神みたいな物だろうか。



「彼らは基本階級に振り分けられていてね。下級精霊は光の粒、中級は小動物、上級はほとんど見かけないが……思い思いの形で顕現しているな」


「その話を今俺にした、ってことは……」


「そう、君は精霊だ。それも、上級どころじゃない。神の領域に片足を突っ込んでいる」



 嘘だろ……という反応は置いておいて、あんな物さっきの魔法を見せられたら信じるしかないよな……自分にそんな力があるとは思えないけど。



「なるほどな。わかりやすい」


「わかってくれたかい?」


「ああ、ありがとな―――」



 そこまでいいかけて、俺は言葉に詰まる。そういえば、こいつの名前を知らない。



「そういえば、名乗っていなかったな。私の名前はアリスだよ」


「そうか……改めて、ありがとな。アリス」


「どういたしまして。ところで、君の名前は?」


「無い」


「ええー」



 今ので一気に会話の間が抜けた。まあ、難しい話をしてると頭が痛くなってくるからこっちの方がいいけど。



「無い……ないか……でも呼び名がないと不便だよな……?」


「あ〜、うん。好きに呼んでくれ」


「……なるほどな。この魔女アリスに名付け親ママになれと」


「たまに出るその変態性はなんなんだよ」



 おお。すっげぇ悩んでる。もう眉間しわっしわじゃん。いや適当になんでもつけてくれればいいんだけど……こうも真剣に考えてくれてるとなると言い出しづらいな。



「……よし」


「お、決まったか?」


「これからは、この偉大なる魔女アリスから取って君は……『ニアアリス』と名乗るといいだろう!」



 おもっくそ命名由来丸わかりじゃねぇか。そんでもってちょっと響きがいい感じなのが腹立つな!



「うん……オッケー。それで行こう」


「どうしてそんなに不服そうなんだ……この私の名を分けてやったというのに……!」


「だからだろ。さてはこっちが本性だなオメー」


「何故バレたッ!!」



 登場の仕方からすごいやつかと思ってたけど、全然そんなことはなかった。いやすごいことには変わりないんだけど。


 こんな感じで誰かと騒ぐのは久しぶりで、懐かしい感覚がする。ワイワイ話しているうちにだんだんと眠くなって、俺はいつの間にか瞼を閉じてしまうのだった。

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