森の精霊

 動かなくなったイノシシの安全を慎重に確認していると、今度は背後の茂みから何かが動くような音がした。

 ほぼ反射的にイノシシの後ろに隠れ、様子をうかがう。



「オイ……こんなとこまで来て魔物に出くわしたらどうすんだよ……」

「馬鹿言え。ここは世界樹の森だぞ?魔物なんている訳がねぇ」



 人間だった。背を屈め、怖がりながら辺りを見回す大男とそれを先導するハゲでチビのオッサン。見るからに小悪党といった感じの風貌だ。



「……おいおいおい。こいつぁ上モノだ!馬鹿デケぇボアが転がってやがる!」

「ボア……?どうして魔物がこの森に……?」



 二人の位置はちょうどイノシシを挟んで俺の反対側。こっちを覗こうとしてくれば一発アウトだ。さて、どうしたものだろうか。今の俺のバトルデッキは耐えると殴るのみ。なのに全裸で相手の前に飛び出せばどんなことをされるかわからない。


 森の中、全裸の幼女、小悪党(暫定)二人。こんな状況で何もされないことがあるだろうか?いや、ない。よくてさらわれ、悪くて胸糞系エロ同人ルート直行。切実におやめいただきたい。


 やめろ!俺はノンケなんだ!胸糞とNTRはダメなんだ!!やめてくれ!!


  俺が現実逃避でカスみたいな時間を過ごしている中、ジリジリと小悪党共は近づいてくる。

 ああ南無南無。さらば二度目の人生。



““草木よ。我が命に従え””



 俺が二度目の人生に幕を下ろそうとしていると、どこからともなく厨二臭いセリフが聞こえ、視界を埋め尽くすほどのツタが周囲を覆い、小悪党二人を吊し上げた。



「ほらよ……だから魔物なんているはずがねぇって言ったのに……」

「うるせぇ!仕方ねぇだろ!」

「全く……うるさいのは君たちだろう……そこの幼女〜大丈夫か〜〜?」



 真っ黒で大きなとんがり帽子、羽織ったダボダボのローブ。自身と同じぐらいの丈がありそうな木製の杖。



「……魔女?」

「おや。言葉話せるのか。相当高位な精霊のようだね」

「うわっ!言葉が伝わった!!」

「驚いているのはこちらの方なのだがな……」



 真っ白な髪を揺らした赤い目の魔女。らしき少女が近くまで寄ってきた。



「わからないな。君ほどの存在であれば、魔法でどうとでもできただろう」

「お、俺……実は目覚めたばかりで何もわからなくて……」

「生まれたばかりの幼女と言うわけか……さいk……いや、私が守……いや、育てがいのありそうな……」



 ウェヘヘ、と声を上げる魔女。これもしかしなくてもロリコン……じゃなくて、結局やばいやつに見つかっただけじゃないのか???

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