イエスロリータノータッチ(自分除く)

 明るい日差しの降り注ぐある日。

 目を覚ますと俺の視点は大きく変動していた。


 昨日寝た時は間違いなく雲の上にあった視点が今は地面スレスレにある。

 視線を下に向ければ広がるのは芝生だけ。あとは雄大な大地が広がるばかりだ。

 しかし、本格的に異変に気がついたのは上を向いた時だった。


 わさわさと自由に伸びた枝、青々とした葉。

 樹齢何年かと疑うほどの太い幹に、極めつけは雲を突き破るほどの高さ。それはそれはもう恐ろしいほど高い。



「……てか、あれ、俺じゃね?」



 思わず声が出てしまった。いや待てなんで声が出るんだよ。俺は木だぞ。それになんかすっごい可愛い声だったぞ。

 前世はもっと野太い声だったじゃないか。落ち着こう、まだ慌てる時じゃない。


 確か葉っぱとかに水が溜まる事が結構あったはず……いや葉っぱデッカ!?!?なんだよこれ!?俺が小さいのか!?


 まあいいや。とりあえず、水面を鏡にして自分の姿を見てみる。



「―――え?」



 思わず、声が出た。

 

 ちんまりとした体。

 ボサボサで緑色のロングヘア。

 大きな瞳。

 俗に言うロリ。


 顔らしき場所をペタペタと触ってみると、水面に映ったロリも同じ動きをした。つまりのつまり。これが指し示すことは。



「これは……俺……?」



 イエスロリータノータッチの精神に反したことはお許しいただきたい。

 しかしこれは致し方のない事なのだ。


 言い訳をしよう。

 例えば君が死んだとして。

 種になって『木』ライフを楽しんでいると思ったら。

 ロリになっていた。

 

 そして、水面に移した自分(暫定)を見て、一つ気づいた事がある。


 服が見当たらないのだ。


 言い換えれば真っ裸、スッポンポンである。


 こんな状況となってもノータッチを貫ける紳士がこの世に存在するだろうか?いや、いない!



「では、失礼して……」



 一度自分の胸に手を当て、思いを馳せる。ふにふにとした感覚、まだまだ発展途上ではあるもののこれはこれで―――

 


「へぶっ?!痛っっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!」



 小さき楽園エデンに思いを寄せ、手に全神経を集中させることつかの間。どこからともなく飛来した木の実が俺の頭にぶち当たった。クソ痛い。


 落ちてきたであろう場所をギッと睨みつけてみると、そこにいたのはいつぞやの猿。そう、俺がこんな体になる前、渾身の出来だった木の実を投げ捨てやがったモンキーだ。今更ながらよくよく見ると額にツノが生えている。


 まぁ、それに気づいたところでタスクに『木の実を避ける』が追加されただけなのだが。


 とりあえず、まず初めにすべき事は……うん。何かで体を隠すところからだな。別に俺としては大自然の中一人真っ裸で佇むのもやぶさかではないが、俺の中にある良識や常識といった言葉がそれを咎める。



 そこら辺にあったちょうど良さげな葉っぱを三枚ちぎって、ツタで体に巻きつける。


 するとあら不思議、ぱっぱとできたぜ葉っぱビキニ。レベル1もいいところだけど、一旦は隠せればヨシ。


 それにしても、あの猿邪魔してこなかったな。案外悪いやつでもないのかも———と、思いかけた瞬間。リンゴほどの大きさの何かが投げつけられる。


 

「いっっっってぇ!タイミング見計らって投げてくんなよ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る