第35話 写し身の息吹
……
「パパァ、来たよ~。のぼせてない?」
「あぁ、大丈夫。それより遅かったな?」
「あぁ、パパの初期版分身ちゃん消したから、ケインに責められて、イルに泣かれて大変だったんだ。でも、パパが待ってると思って、マコだけ走ってきた。みんなももうすぐ来ると思うけど、さっきので疲れたみたい。お茶を一杯飲んでくるんじゃないかな?」
「あぁ、わかった。それで、パパのを消してくれた件、申し訳ないけど、あれはさすがに羞恥心が半端ないから、提供するのはちょっとな。マコトの配慮に感謝だよ」
「そ、そーお? え、えーと、そう! アニメって何があるの?」
少々罪悪感を感じるマコ。自分で掘り出した話だが、気まずくて話題転換を試みる。
「あぁ、オレも最新情報は疎いから、聞いとくよ」
「うん、お願いね。それはそうと、孫悟空スキルから、ここまでの実用的な着想を得られるとは思わなかったから、スゴく驚いているの。西遊記の作者はスゴいよね。他にも何かあるの?」
「あぁ、細々とたくさんあるみたいだけど、オレもよくは知らないよ。確か変幻術とかで、バッタとかコウモリとかに変化できるのもあったな。あとは不老不死とか? 身体の大きさを自在に変えられるとか?」
「あぁ、虫や動物はいいや、不老不死も。まぁ、如意棒と筋斗雲と分身の術があれば充分かな? あぁ、そういえば分身の術でで飛び出す分身ちゃんがちっちゃいサイズの映像を見たことがあるね。できるかな? てぃ」
きゅるっぽるん。
「あ、でけた! イルの大体1/12サイズのフィギュア。イル、可愛い。お風呂だから裸でちょうどいいしね」
「ちょっと見せて。おぉ、可愛い。そしてリアル」
「孫悟空の分身の術は、一体一体が動くんだけど、マコが作るのには意思がないから動くはずないよね。なんかもう、分身の術というよりも身代わりの術だよね?」
「でも、動かすことはできるんだろ?」
「え? どうやって? 試してはいるけど動かないの。あ! でも初めて自分の分身を作ったときは、恥ずかしすぎて、とっさに自分の要所を両手で隠したの。そしたら作った3体とも手で隠す形になってたの。ということはできるのかな?」
「うん、どこまでできるのかは明確じゃないけど、少なくとも、他のものを操るのと同じくらいはできるよね?」
「うん。人形を動かすみたいに、強引に手や足を動かすってことでしょう? それはやってないけど、たぶんできるはず。でもそんな方法じゃ、歩くのもままならないくらい大変そうじゃない?」
「そうだな。じゃあ、今から検証してみようか?」
「え? パパも手伝ってくれるの? わぁ、心強いし楽しそうだな」
「そうか? いくつかポイントがあるから試してみようか」
「うん」
「まずは繋がっているか。オーラで繋がってないと動かせるはずがないからな」
「あ、もちろんそのつもりだけど、あまりにも動かないから、忘れかけてたかも? よし、今繋いでる、けど、うーん。物としてなら、ほら、こんな感じ?」
宙に浮かして、ふよふよ動かしてみせる。
「次に進む前に、少々確認していいか?」
「うん、なぁに? なんでも聞いて?」
「マコトはこれを作るときにどんな風に考えながら作ったの? 自分やその対象の人の姿を思い浮かべながら、その人は誰でどんな人でどんな顔、どんな体型でとか?」
「はっ! 何も考えてなかった。ただオーラで包んで、オーラで感じ取った何かしらのイメージみたいな塊を、頭の記憶ではなくて、マコのオーラのうちの体内エネルギーのどこかにストックするみたいな感じで、マコは何も考えてなかったよ」
「そうか、やはりな、ふふっ」
「も、もしかして、それがまずかったの?」
「いや、そうじゃないよ。むしろ理想的なやり方だと思うよ。やはりマコトの才能は凄まじいな?」
「えーっ、誉めてくれるのは嬉しいけど、じゃあ、どうしてできないの?」
「まぁまぁ、その前にマコトはシナプスって聞いたことがある?」
「神経の伝達機構じゃなかった?」
「うん、そうだね。電気信号のようなものでシナプスを通じて脳と末端は情報のやりとりをするものと思われている。しかし、オレはホントにそうなのか? と疑問に思っている。どれほどの数があるかわからない神経を通じて、脳はそれらを的確に捌き、さらに新しい指令を送る。それは間違いない構図だと思う」
「うん、マコも同じ認識だね」
「ただ、例えば、複雑・緊急な状況下で膨大な映像や複雑な情報構成を処理して、身体に回避・防衛行動などを行わせる場合の指令情報は、その瞬時に的確に送り付けられる情報の量ではないと思うんだ」
「うん。マコもそう思う」
「それでも、そうとしか説明が付けられないのが現実なのだけど、今オレたちの目の前にある魔力行使、突き詰めて言えば、それは自ら纏うオーラに対する力の付与でしかないだろう?」
「うん」
「オーラとは、身体の組織構造とは別次元にある生体エネルギーであり、いや触れられないだけで、同じ次元なのかもしれないけど、これが尽きることは死を意味する。ここまでは大丈夫だよね?」
「うん、でも尽きると死んじゃうのかぁ、ちょっと怖いね?」
「そうだな、その防衛本能からか、普通は身体から外に出ることはない。ただし、オレの勝手な持論だけど、魔女が魔女足り得る第一の資質はオーラの量が体内に収まりきれない量を保持していることで、第二の資質として、はみ出したオーラを認識して、対話が可能であることだと思っている。会話ではなく、認識したり操ることができるという意味だね。オレはそれが魔力行使だと思っている」
「魔女はリミッター解除する代わりに魔力という大きな力を得る……か」
「反対にリスクとして、そんな魔女は防衛本能、そう、リミッターだね。それが効かないから、過剰にオーラを引き出して死に至る危険性もあることはもうわかるね」
「代償としてリスクを負うってわけね」
「そこでね、最近考えるようになったもう一つの持論があるんだ。普通の人の場合は、身体の枠からはみ出すことのない生体エネルギーだけど、それを介してその部位をイメージ的に、ごく自然に知覚できるのではないかと。ただし、生体エネルギーが身体の外に出る訳ではないから、魔力行使という形にはなり得ないけどね?」
「ん? 人なら誰もが持つ基本スペックってことなの?」
「お? いいセンいってるね? 何が言いたいかというと、普通の人が特に緊急に体を動かすような、複雑な動きを伴うときの指令は、体内に行き渡る生体エネルギーへのイメージによる直接指示なのではないかと思うんだ。そう考えれば、複雑膨大な情報が瞬時に伝えられるのも納得がいくんだ。それがどう行われるかの理屈までは不明だけどね」
「ほぅ。ということは、これまでの物理では表現できない魔法的アプローチみたいなことを実はみんな普通にやってたってことなの?」
「うん。おそらくは。たとえば楽器を爪弾くような、速く複雑な指使いで動かそうと思った瞬間に、それぞれに繋がるシナプス経路を探すのではなくて、脳がイメージする身体の該当部分の生体エネルギーを知覚して、この場合は繊細高速な指の動きの指令が渡る。各々の指は脳のイメージ通りに動作する。そして、シナプスはその結果の身体に起こった変化をフィードバックして、脳が知覚するみたいな感じかな?」
「うーん。その考え方、斬新かもじゃない?」
「この説明はオレだけの持論だから、間違いかもしれないし信じなくてもかまわないけど、オレはそれなら説明もつくし納得もしている」
「ううん、信じているし、その説明、今のマコなら納得もできる。それに、そうだよね? じゃなきゃ、瞬間的な複雑な行動は説明付きにくいような気がする。でもパパァ、それが今の分身ちゃんを動かすことにどう関係してくるの?」
「だって、その分身ちゃんはオーラそのものなんだろう? 外から動かすという意識ではなくて、分身の身体をよく認識して、自分の身体を動かすのと同じような分身の内側にある意識で、もう憑依するくらいのつもりなら、四肢も息をするくらい自然に動かせるんじゃないかと思うんだ」
「なるほど、ちょっと意識を切り替えてやってみるね?」
「おぅ」
「あ? え? あぁぁぁぁ! スゴいスゴい! 動かせるし、声も出せるし、見える! 分身ちゃんからの見える世界だ。自分もちっちゃくなったみたい。不思議な感じ」
「ほ、ホントだ。瞼が開いてキョロキョロしてるよ。マコトはそこにいるんだな?」
「うん、マコだよ? あぁ、イルの姿だったね。で、肝心のマコは、っと、あぁ、固まってる感じだ。両方動かせるのかな? あ! イルたちが来た! イルーっ! おーい」
「何? 妖精さん? うわぁ、ティンカーベルみたい。可愛い。あれっ? でも私に似てる? え? やだ、裸じゃない。イルの名前を呼んでるし、こんなことができるのはマコちゃんしかいないか」
「あはは、すぐバレちゃうね。さすがはイル」
「あれれ? ちっちゃくてイルちゃの顔だけど、中身はマコちゃなの? とても不思議な情景なのだけど、何をどうやって、こんなことができてるのかしら?」
「あぁ、パパと孫悟空スキルの話をしてて、そういえば小さな分身の映像もあったなぁ、って試してみたら、ちっちゃく作れたの。マコはイルが可愛いからイルの分身でね。それで、分身なのに動かせないってパパに相談したら、一緒に考えてくれて、やってみたら動かせちゃったの。あっちで停止しているマコの本体から憑依しているような感じ?」
「ひょ、憑依?!」
「あぁ、幽霊じゃないよ? あっちのマコ本体とオーラで繋がっている状態で、こっちのイルピクシーに憑依するくらいのつもりで意識を集中しているだけだよ」
「それにしても可愛いわねぇ? 喋り口調からもマコちゃんだってのはわかったけど、イルの声で話すから混同するわね」
「マコちゃん、小さくて可愛らしくて、可愛い可愛いって愛でたいのだけど、よく見ると見慣れた自分だから、気持ちが微妙なの。私の裸に視線が集中するのもちょっと抵抗があるわ。そろそろイルの分身は終わりにしない?」
「そうだね。いろいろ動かせることがわかったし、そろそろのぼせそうな気がするから……あぁ、一つだけやってみたいことを思い付いた。ママの胸に腰掛けてみたい。あぁ、でもイルの体だからケインのほうがいいかな?」
「あら? いいわよ。マコちゃん、いらっしゃい?」
「いいの? わーい。じゃあ、行くね?」
ふよふよふよ~、、ぽいん! ぽいんぽいん。
「この身体、軽すぎるからかな? それともケインの胸が弾力性があるのかな? あはは、おもしろい。トランポリンみたい、よ、ようやく落ち着いてきた。よっこいしょと」
ケインの胸の谷間に両足を下ろし、横向きに腰掛ける。
「柔らかくて、ソファーなんかよりもずっと座り心地がいいかも? もし自分がちっちゃかったら、ママの胸に座ったら気持ちいいのかなぁって、ずっと思ってたの。ケインも大きいもんね」
「あらぁ、奇遇ね? 私は映画かアニメで、妖精さんみたいな小さなキャラクターが胸の谷間にいるシーンがあって、ホントにいるのなら、こんなボディーに生まれ変わったし、一度挟んでみたいなぁって思っていたところよ? ほら、こんなふうに」
ケインは両胸を手で少し開いて、マコを挟み込む。
「そ、そんな風にやったら、苦し……くない? あれっ? 柔らかく包み込まれる感じ。気持ちいいかも? でも、身動きもとれないけどね?」
「あら、そう。気持ちいいのね? 良かったわ。私も夢が叶ったわ、ありがとう、マコちゃん」
「あら? マコちゃのママはこっちでしょ?」
「あ、うん。ママもしてみたかったの?」
「いや、そんなことはないけれど、ちょっと確かめたいことがあるの」
「うん。わかった。ケイン、ありがとう。ママのほうに行くね」
「ええ、今度は裸じゃなく、シャツ来てるときにその機会があれば、入ってくれる?」
「うん。いいよ!」
「ありがとう、マコちゃん」
トゥ! っとジャンプ。ぽいん、ぽいん、っと着地。
「ママ、来たよ」
「小さいけど、本当にリアルね? マコちゃはその状態から身体の大きさを変えられるのかしら?」
「ん? やってみないとなんともだけど、今やってみる?」
「えぇ、まずは小さくなれるのかしら?」
「うーんと、小さくなるイメージ、っと。これくらい? 大体1cmくらいかな?」
「おぉ! すごいわね。じゃあ、今度は3mくらいはどう?」
「うーんと、大きくなるイメージ、っと。これくらい?」
「あゎゎゎゎ?! わ、私の大事なところが!? まま、マコちゃん! か、隠してぇ! それか小さくなってぇ! お願い、早く早く、恥ずかしすぎるよ」
「あ、ごめん、イル。あはは……」
シュルル。元の妖精サイズに戻るマコ。
「イルの姿は終わりにするって言ってたのに、ひどいよマコちゃん。うぅぅ」
「な、泣かないでイルゥ、ごめんなさい……」
「ごめんなさい、イルちゃ。私が大きくなって、って言ったから……ちょっと急ぎ確認したいことがあったものだから、本当にごめんなさい」
「うぅ、ソ、ソフィーの指示なら仕方ないですね。これからソアの恥ずかしい部分に触れさせてもらわなければならないし……そんなお願いしてる私だからこそ、このくらいの恥ずかしさなんて、乗り越えねばいけませんね!」
「ありがとう、イルちゃ。でも、乙女の恥じらいは重要だから、そのままでいいのよ。私だって恥ずかしいわよ。私ももっと気を付けるようにするわね」
「いえ、というか、そのままでいいのね? 良かったぁ」
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