第34話 イルの憧れと秘密女子会

「でも、みんなありがとう」


 イルの才能を認め、後押しするために、惜しみなく協力しようとしてくれていることへの感謝の意を表すとともに、イルはこれまで秘めていた思いを告げ始めた。


「なんか降って湧いたように下着や衣服作りの話が出て、こんな流れになっちゃったけど、実はもっとちっちゃいときに街頭のテレビで見たファッションショーが頭に残ってていて、ファッションデザイナーに憧れを持っていたんだ。でも、自分の身の回りから想像する未来からはそんな道筋なんてまったく見えなかったから、叶うことのない夢の位置付けだった。仮に才能とお金があったとしても、その入り口には立つことすらできない世界だと思うもの。でも、今日のことで憧れてたことや諦めた思いが蘇って、ソフィーたちが後押ししてくれるのなら、と思うと見えてなかった道がなんとなくイメージできる気がしてきた。なにもパリコレみたいな話ではなくて、私が生み出すデザインを形にして売る、というような世界でいいの」


 うんうん、良かったね、イル。まだ、言い残しているようで、さらに言葉を続けるイル。


「それにみんなのおかげで得ることができたこの不思議な力。衣服を作ることにも活かせるなんてついさっきまで気付きもしなかった……マコちゃんのような立体空間的な凄い力はないかもしれないけど、紙や布のような二次元から生み出す世界。私の感性にもしっくりくるし、逆に私じゃなければできないことがありそうな予感がしてならないの。ありがとう、みんな」


「じゃあ、なおさら、アイドル案件も頑張らなきゃだね? アイドル活動もやりながら、アイドル衣装は全部イルに任せられるよね? そこでも腕を磨いて、顔と名前も売って、アイドル卒業後はファッション業界に殴りこみだ。ワクワクするね」


 さらに後押しのつもりが、謙虚なイルには慌てさせる話だったみたい。


「えぇ、あゎゎゎ、そ、そんなにうまくいくはずないよぉ。ま、まぁ、理想としてはそんな風になれるといいな、とも思った。ありがとね? マコちゃん」


「もぅ、イルはやることなすこと、いつも的確でスゴいくせに、口にするのはいつも控えめなんだもん。マコは全力でサポートするし、パパ、ママ、ケインが後ろに付いてるんだから、うまくいかないはずがないじゃん?」


「そ、そうなんだけど、未来に何が起こるかわからないし、どんなものにも競う相手がいて、それをまだ何も知らないから、どれだけ通用するかがわからないもの。まずは調べなくちゃだよ」


 イルの言葉に相槌を打ちながら、ママが説明を始めた。


「そうねぇ、イルちゃのいうとおり、マーケティングリサーチは大事よね? 多くの場合、同じような力を持った会社なんかがその能力を含んだ様々なものを比較分析して、流行りなどの予測困難な時期的変動と、需要 (買いたい側の全体量)と供給 (売る側の提供可能量)などを絡めた検討を行う、とても重要なプロセスなの」


 一呼吸置いてママは続ける。


「だけど、そんなものを遥かに凌駕するものがあるの。それは強力なアドバンテージとなれる何かを持っているか否か。もちろん、それによる需要がある前提よ? それはたとえば、供給するもの、またはその生成に関わる重要なものの独占的なノウハウや特許だったり、他との差別化が可能な工夫あるサービスだったりするわ。一言で言えば、他が真似できないものを持っているかどうかってこと。イルちゃの場合、魔法を使えるバックボーンがあることがそれにあたるわね?」


 イルとマコは、納得しながら同時に呟く。

「「なるほど」」


 ママは説明を続ける。


「それをどう活かせるかはこれから考えることだけど、魔法の存在は知られてはならない、という制約があるから、簡単ではないかもしれない。だけど、たとえば今日やったことなんかは、通常は新商品の開発に莫大な時間と費用がかかるところが、材料費もかからず驚異的な時間短縮できるということ、すなわちコストがかからず短期出荷も可能、イコール早くて安いというわけ。多くの場合、早い、安いは正義よね?」

「うんうん、確かに。誰もが納得する魔法の言葉だよね」


 ママはさらに説明を続ける。


「さらに安いだけでも強力なのに、早いはとても大きな意味を持つの。早いは安さにも直結するけど、流行などの変化にも、機を逃さず対応できるし、早いからこそ在庫も多く抱えなくて済む。どう? どれほど凄いアドバンテージなのかがわかったでしょう?」


「「おぉぉ!」」


 おぉ、コレがママの理論的武装なんだね。思わず感嘆の声を漏らしちゃったよ。


「だから、もちろんリサーチはするけれども、そうするといろいろな不備にも気付くと思うけど、やり方によってはメジャーどころにも引けを取らない戦い方もできるかもしれない。それにまだ他にも魔法を使った秘策が見つかるかもしれないしね?」


「そ、そうよね? なんとなくやれる気がしてきた。でも、まだ始めたばかりだし、魔力行使でどんなことができるのかの試行錯誤をしてみたいと思ってるの。あと、それぞれの分身ちゃんの保管や、隠蔽と、下着だけじゃなく、おうち着くらいの格好はさせてあげないとかわいそうかなぁって思うから、まずはそこから始めたいな?」


「うん。それでいいと思う。始めるのは今すぐがいいけど、3年位かけて、少しずつゆっくりと積み上げていけばいいんじゃない? 魔力行使もそれに合わせて、ゆっくり吟味でいいと思うわ」

「何かあったらマコも手伝うよ」


「ところでジンはもぅ収まったみたいね。みんな! かかるよ! マコちゃは直ぐに開始よ!」


「「オー!」」「合点承知!」

「わゎゎゎ……」


 みんな手慣れたのか、動きに無駄なくあっという間に全裸に剥かれるパパ。


「パパ、覚悟! てい!」


 パパ平常バージョンをオーラで包む。


 解析中……


 パパの身体の表面にうっすらと光の粒子が漂い、パパは刺激に必死に抗うが、あえなく漏れ始める声。


「し、心頭滅却! うぉ! へ、平常心! やや? バ、バカ! くすぐり、き、禁止!  あ、ち、力がぬけ、くふ、ひゃひゃひゃ、涙がぁ、わかっ……のに……ぐったい、ここから、気合い、あひゃ、ん、き、気持ち良すぎ、さ、さっきより強いんじゃあ、ぁ、ぁぁぁ、んんっ、もぅ、、ん? 終わり? ふーっ、なんとか……」


「ん? パパ、とっくにおっきいけど、やっぱりその先に何かもう一段階あるの?」


「ななな、ないよそんなの、ア、アニメ要らないんだっけ?」

「あ! 要る要る。わかった。おしまい」


「マコちゃ? また大きくなっちゃったけど、失敗なの?」


 どうやら、パパには苦痛らしい。


「え? まさかまたやるの?」

「あぁ、今度は大丈夫。ちゃんと平常版で取り込めたから」

「ほっ、もうやらなくていいんだな?」


 本気で安心している様子だ。やっぱりパパには何か辛かったのかな?


「あはは、大丈夫。パパが一番頑張ったかもね? じゃあパパ進化版の分身いくよ!てい」


「な、何? 進化版って?」

「さっきより上手にできたってことだよ」


 パパ分身の身体のイメージが、ぎゅるるる、ぽるん! っと飛び出す。


「でけた! どう?」

「あぁ、これなら、普通にパンツを穿かせられそう。ふんふん」


「パパがスゴく頑張ってくれたし、さっきのストロングバージョン? パパは気掛かりで仕方ないって顔をしてるから、消してあげるね」


「いいのか?」

「あ? 消さないほうがいい?」


「いや、消して欲しい。恥ずかしさもハンパなかったから助かるよ、マコト、ありがとな?」

「どういたしまして、お疲れさま、パパ、もうお風呂に入ってくれば?」


「あぁ、消すの見届けたら入るよ」

「マコちゃん、ほ、本当に消すの? イルはあったほうが助かる、ふんふん」


「うん、消すよ」

「えぇぇ!」


「マコちゃん、消すのなら私にちょうだい?」

「だめだよ、消すよ! てい!」


「あぁぁぁぁ、消えちゃったぁ、クスン」

「イルも残したかったよ、マコちゃん、うぅ……」

「そんな、泣かないの!」


「パパァ、これでいいでしょ?」

「あぁ、ありがとう、マコト。それでも恥ずかしいけど、衣服と下着作りに役立ててくれ。これで心置きなくお風呂に入れるな? じゃあ、先に入ってるよ」


「うん、片付けたらマコたちも入るよ」

「あぁ、じゃあ、お先ぃー!」

……


「パパはもう行った?」

「うん、大丈夫みたいよ、マコちゃ。やっぱり何かあるのね?」


「もちろんだよ。マコはただでは転ばないもんね」

「え? どういうこと?」


「大きな声を出さないでね? これからのことは秘密だよ? 絶対にパパにバレないようにね?」

「うん、大丈夫だよ」


「パパの分身ちゃん見てて? 今おっきくないけど、見ててドキドキするよね? なんとなく可愛いしね。でも、さっきのパパのは最初はこうだったのに、むくむくって、あの変化。マコはスゴくドキドキしちゃったの。あんな変化は初めてだったし。男の人の身体って不思議な仕組みなんだなーって。世紀の新発見ってくらい、わくわくもした。みんなはどうだったの?」


「私やケインは経験上、何度か見ているけど、マコちゃのその感覚はよくわかるし、その瞬間は実は大好きよ? ケインもそうでしょ?」


「ええ、私も。というかジンさんのそれがいい。なのにマコちゃん消しちゃったじゃない。超ショックよ?」


「イルも、その瞬間はさっき初めて見たけど、大好きになっちゃった。そんな変化を見たときの感動は言葉にもならない。というか、他の人のはあまり興味ないけど、ジンさまのは飾って拝んで、もう家宝にしたいくらい大好き。衣服に関係なく、残しておきたかったのに。クスン。マコちゃんのバカ。バカバカ」


「そうだよね? 良かった! みんな同じ気持ちなんだね? それならみんなで、ちょっとエッチな秘密女子会結成だね? じゃあ、名前はMisk、頭文字を並べたの。仮だけど、異存がなければこの名前でいくよ? Misk発足! おめでとう! パチパチパチ。というわけで、お祝いに。もう一回感動してね! てい」


 むく。


「え?」


 むくむく。


「こ、これはなんてこと?」


 !!。


 落ち込む素振りもあったけれど、みんな一瞬のうちに目を見張らせ……たと思ったら、今度は一斉に拍手が沸き起こる。


「すす、すごいわマコちゃん! ふんふん。ド、ドキドキしてきちゃった。止まったままよりこっちのほうが100倍素敵ね! あれっ? 涙が! ありがとう、マコちゃん!」


「あ、イル、ティッシュ。あゎゎ、ケインは箱ごとどうぞ?」

「マコちゃん、ヨガッダァ、アジガドゥ、うぅぅぅ、嬉しい、ぅぅ、ズズ」


 いやー、ケイン、鼻水スゴい、そんな状態で抱きつかないでーっ。


「マ、マコちゃ? これはどうやったの?」


「うふふん。スゴいでしょ? さっきの測定時にパパの変化をつぶさに捉えてみたの。その時間断面ごとにすり替えるのもいいかなぁって思ったけど、よくよく考えるとおっきいのもちっさいのも、元は同じものが伸び縮みしてるわけだから、その変化の仕方だけを捉えてみたの。するとさ、一つの分身ちゃんのを変化させるだけで済むことに気が付いて、どう変化するかだけを中に保持するようにしたの。今はマコが動かしてる状態だけど、例えばへそを捻るとそれに応じて変化させられるかもしれないなぁって思ってるの」


「おぉ、それは素敵! だから進化版なのね?」

「そうでしょ? でも、泣くほど嬉しかったなんて、さっきまでのゲキオコ状態も納得だね? それと、ママはストロングバージョンって呼んでたけど、このミニから変化していく様を見てしまうと、おっきくても可愛く思えてしまうのはマコだけかな?」


「イルも同感!」

「そうよね、この可愛さは罪よね。ジンさんのだから、余計に尊いわぁ!」

「でも、やっぱりおっきい状態は特殊だし、パンツも履けなくて困るから、てぃ」


 しゅん。


 みんなの目が、みるみると、とても愛らしいものを見る目に変わっていく。


「こんな感じに可愛くなってパンツにも納まると。そんで、これがパパに見られても大丈夫な状態ね。下着調整のときと、あと、このエッチな秘密女子会Miskで見たいときだけ、てぃ」


 むくむく、!!。


「きゃーっ、ドキドキするわ。マコちゃん、触っても……」

「だめーっ!見るだけだよ。イルは下着調整のときに触る必要があるから、触っていいのはイルだけだよ?」


「そ、そんなぁ。イルだけズルい」

「へへぇ。ふんふん」


「たぶん、おっきくしたままでパンツを脱ぎ履きするよりは、パンツを履いたままでおっきくなったり、ちっさくなったりのパンツの強度? 伸縮性? そういう検証が必要だと思ったんだ。そのためにはこんな進化版のものが必要かなーッて」


「さすがはマコちゃんね。ただでは転ばないって本当ね? しかもこんな高機能。改良の早さ、的確さ。イルには真似できないなぁ」

「そぅ? えへん」


 ケインが軽く食い下がる。


「じゃあ、軽くツンツンするのはダメ?」

「ん? まぁ、そのくらいなら……」

「やたっ!」


 ツン。


「うふっ」

「じゃあ、そういうわけで、つぎの女子会まで封印ね? てぃ」


 しゅるしゅる、しゅん。


「あぁぁ、ま、またね、ジンさんストロング」

「あはは、何? その呼び方。ふふっ」

「でも、こっちはこっちで可愛いわね?」


「あぁ、こっちなら、今お風呂に行けば、本物が待ってるよ? みんなでお風呂行こーよ! たぶんパパ、待ちくたびれてるよ」

「そだね、行こー!」

「「オー!」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る