第32話 イルとソアと下着

「よし! わかったわ。じゃあ、マコちゃ? 分身ちゃんの別の一体を私の身体に変えられる?」

「え? あぁ、うん、やってみるよ」


……


「こんな感じかなぁ?」

「えぇ? マコちゃ、私とずいぶん違うわよ? 顔も背の高さも身体のライン、胸の大きさや形、ウエストもヒップの形も」

「だって、自分じゃないし、そこまでよく見たことはないから……」


「そう、キチンと見てないからイメージが湧かないってことね? わかったわ。ちょっと待ってね」


 ママはいきなり脱ぎだし、全裸でマコの前に仁王立ち。


「これでどう? よぉーく隅々まで見てちょうだい。正確にイメージしてくれないと、イルちゃが困るもの」

「わかった。ちょっと待ってて」


 見ることは見たけど、正確にと言われれば、ちょっと自信ないなぁ。自分の身体はあれほど忠実に再現できたのになぁ。


 ……

 ……


 あっ、そうか! 自分の分身を作り出すときの自分はどう認識したか、というと、自分が纏い包み込むオーラで自分の大きさや形、表面の詳細を測定してた気がする。


 それなら、今の認識対象であるママをオーラで包み込めばいいのでは?


 そうと決まれば早速測定開始だ。


 ママをオーラですっぽり包んで、その大きさを狭めていく。けれど、なぜかママの表面にたどり着く少しずつ手前でそれ以上狭められない。


 あれっ? うまく認識できないや。あぁ、ママのオーラが邪魔してるっぽいな。


「ママァ、そのギンギンに放っているオーラを引っ込められる?」

「え? 私そんなにオーラを放っているの? え、どうすれば抑えられるのよ?」


「さぁ? でも大きな魔力を使おうとするときと反対の向きのことを行えばいいのじゃない? 例えば、力を抜くとか、心を落ち着けるとか、何も考えないとか?」


「うーん、あまり意識したことなかったなぁ。脱力。これでどう?」

「うん、少し収まった。けどまだだね?」


「じゃあ、心を落ち着けて、……深呼吸して、……思考停止。……これでどう?」

「うーん、大体いいけどまだ放ってるね? でもまぁ、やってみる」


 もう一度、ママをオーラで包んでみる。


 あぁ、オーラがうっすらと残る分、少し曖昧なところもあるけど、大体トレースできそうかな?


 解析中……


 ママの身体の表面にうっすらと光の粒子が漂う。

 とともに、刺激を受けるママからの声が漏れ始める。


「うわっ? あははは、こそばゆいマコちゃ、あははは、あは、あは、あ、うん、んん、ふーっ、んんっ、あん、うん、んん、ふーっ、んんっ、んんんん、うん? ……あれっ? 終わったの?」


「うん、大体。ママ分身、てい!」


 ママの身体のイメージが、ぎゅるるる、ぽるん! っと飛び出す。


「でけた! どう?」


「うわぁ、エロいわ、マコちゃの気持ちがちょっとわかったよ」

「そうでしょ?」


「あぁ、でも、いい感じじゃない? なかなかリアルなボディだわ? マコちゃのその能力、スゴいわね。それにリアルすぎて、なんか変な気分になるわ」

「エヘヘ」


「ソフィー? 本物は当然美しいけど、こちらもうっとりするくらい綺麗。触れても大丈夫なの?」


「もちろんいいわよ? そのためにマコちゃに作ってもらったのだから」

「やったぁ! ありがとう、マコちゃん、ソフィー。それでこの分身ちゃん、名前をつけていいかな? ひとまずソフィアを縮めてソアなんてどう?」


 イルは早速ママの分身ちゃんを舐めるように触り始める。


「マコは何でもいいよ、好きにして」

「私も拘りはないから、イルちゃの好きにしていいわよ」

「やったぁ、ありがとう。それじゃあソアさま座りましょうねぇ」

 ん? ソアさま?


 イルはソアをソファーに座らせて、抱き付いた。すると、ちょうどイルの目の前にはソアの胸が揺れている。それに呼応するようにイルの目はキラキラが止まらない。


「イルちゃには、ひとまず下着、それが落ち着いたら、その後でワンピースとかシャツなんかを作ってもらえると嬉しいわね」

「はい。……ほゎーっ」


 目の前で揺れる誘惑についぞ抗えず、イルの手は禁断の実に触れてしまう。


「でも、練習なんだし、元はオーラで材料費がかからないのだから、どんどん失敗するといいわ」

「……うふん」


 イルは肌の感触を確かめるように、手のひらで包み込むように優しく滑らせながら、丘の反対側に頬を寄せゆっくりと優しく、擦りあげる。目はもう恍惚状態だ。


「沢山の経験を積み重ねた先に、良いものができたら布を使ってキチンと縫製しましょう」

「……ふゎぁ、吸い付くみたい」


 イルはソアの肌の質感に驚きを隠せず、滑らせるだけじゃなく、軽く圧を加えたり、揉んだり、忙しなく触っていく。


「すごく良いものが安定して作れるようなら、それこそお店を持つことも考えましょうね?」

「……イヒヒヒ。あっと、よだれが」


 感情に素直に振る舞った結果、緩んだ口元から思わず零れたよだれに気付いて、慌てて拭うイル。


「あぁ、パンツとブラは、そこそこのものができたなら、早速着けてみたいからよろしくね? うーっ、楽しみだわ?」


 ひとしきりの説明を終えたママだが、やや不謹慎にも見えるイルの挙動に、思わず声を上げる。


「って、イルちゃ? 話聞いてる?」


「聞いてますよぉ、エヘヘヘ、幸せぇ」


 イルは聞いてると言いながらも、ソアの肌感触を堪能してやまない。


「イルちゃの下着や衣服を作る助けになると思ってマコちゃに分身ちゃんを作ってもらったけど、イルちゃには毒だったのかしら?」


 ピシッ。っと、わずかだが空気が揺らぐ。


 ほんのちょっとだけ不機嫌オーラを放つママ。


 普段は感情の起伏など見せることが少ないママだったから、その珍しさに目を見張るマコ。


 少々惚けた感のあるイルも、ふと我に帰る。


「ち、違うの。誤解よ、ソフィー。下着はとてもデリケートな大切な部分を守るものでしょう? そんな大切な部分を知らないで下着を作ることはできないと思ったの」


 ……


 ママの感情の起伏がやや丸みを取り戻したように見える。


「知らない相手を手っ取り早く知るためには、まずは触れ合うことが最善で最速だと思ったし、今まさに作れてしまうのなら、直ぐにでも着けてみたいと思っているから、ソフィーは全裸のままなんでしょう?」


「うっ、その通りよ、そこまで気付いていたわりには、惚けているように見えたわよ?」


「だ、だからなの。そういう目の前のオーダーに応えるための最善手かと思ってなりふり構わずソアにスリスリしてたの。ただ憧れのソフィーの身体だもの、肌の質感から、張りや柔らかさ。素敵すぎてちょっとだけ我を忘れかけるのは仕方ないでしょう? 本当に罪作りなボディなんだもの。うっとりもしちゃうよね?」


「そそ、そんな誉め返し、誰に教わったのよ? 疑ってしまったわ、ごめんなさい。それと、あ、ありがとう」


 イルの優しいカウンターパンチ。とてもソフトにクリーンに決まったみたい。


「ううん。おまけにソフィー本人だったら、そんなに触ることが難しいと思っていたけど、ソアさまなら嫌がらずに触らせてくれるから、ちょっとだけハメを外しかけたかもしれないけど、思いっきり触れたから成果は高いと思うわ」


「ソ、ソアさま? やはり聞き違いではなかったのね? イルちゃの崇拝癖は健在なのかしら?」

「ちょっと待っててね。まだ技術や経験が全く伴わないけど、素人のイルなりに感じたことを取り入れたものを今作ってみるね」


 そそくさと、肌に優しそうな布っぽい素材をオーラから練り上げ、手の感触に残るイメージからブラを形作るイル。


「サイズや形の詳細は感覚でやってるから、少々誤差もあると思うけど、とりあえずブラを作ってみたの。ちょっと着けてもらえるかな?」

「あら? もうできたの? ありがとう。早速試着してみるわ」


 さっきまでの空気はどこへやら? 喜び勇んでブラ装着にかかるママ。その表情はしだいに綻んでいく。喜びオーラがきらきらと零れ、いや、まき散らしていることにママは気付いていないの? 誰の目にもママの上機嫌さは伝わっていると思うよ。


「まぁー、まぁまぁまぁ、なんてことなの? もちろん微妙な違和感もあるけれど、この包み込むような優しさを感じるのはどうして? そりゃあオーダーメイドならではのフィット感なのかもしれないけど、イルちゃ、あなた素人のはずよね? なのになんなの? この完成度。ううん、あちこちチグハグしてるから、完成度ではないわ。吸着感? ううん違うわ。そう! 説明にはなってないかもしれないけど、そうよ! 幸福感よ。包み込まれる安心感のような、そう包容感? いや、もっと、あぁ、そういえばイルちゃはまだまだ無垢な子どもなのよね? ヴァージンブラとか? いやいやいきなりネーミングだし、既にありそうな名前ね? 無垢? そう無垢感が適切かしら? ヴァージン向けはもちろん、それ以外向けにも無垢な包容感は、心持ちまで生まれ変わらせてくれるような、そんな期待感まで込められそうね? うん、いけるわよ、これ。売り文句は「無垢な包容感」、ネーミングは「可憐」なんてどうかしら? 確か意味は……辞書辞書っと、「姿・形がかわいらしく、守ってやりたくなるような気持ちを起こさせること」だって、まさにこれよね? キャッチフレーズには「魔法のブラ」みたいな言葉も混ぜ込めば、神秘性も伝わるし、本当に魔法から生まれたものだから嘘ではないし、本当の魔法なんて誰も信じる訳ないしね。冴えてるぅ、私。あぁ、いけない、私ったら、ちょっとばかり暴走しちゃったかしら? でも、ここまでできるのなら、もっと本格的に考えてもいいのかもね? じゃあ、思う存分ソアを触ってくれていいから、パンツも作ってみてくれるかしら?」


「一応、及第点はもらえたと思ってもいいのかな?」


「いやいや及第点どころか、大満足よ? もちろんサイズや形状の細かな調整は必要だと思うから、微調整の研究? フィットさせる調整はソアを使ってガンガン進めて欲しいけれどね? ひとまず私の下半身が心許ないから、パンツを作ってくれると嬉しいな」


「わかった、ちょっと待っててね。パンツはこれからだけど、あの、私も大人の女性のアソコがどうなっているのか、よく知らなくて、いろいろ見なくちゃいけないのだけど、その、ソアに恥ずかしい格好をさせることになると思うの。女性同士でもちょっと恥ずかしいものだと思うから、そのかまわないかしら?」


「え? えぇ、かまわない……けど、あぁん、家族とはいえ、ちょっと恥ずかしいわね。でも仕方ないし、うーん。お股を全開するってことでしょう? そ、その、中も開いて見たりするのかしら?」


「基本的にはそこまでは必要ないと思うけど、触れているところを確認したり、フィッティングのために股を開閉するときは見えてしまうかもしれないの」


「うん、仕方のないことなのよね? 産婦人科なんかもそうなんだけど、もう腹を括るわ。好きに見てくれてかまわないわ。ただ、できるだけ最小限にしてくれると嬉しいな。それと、ここには今は家族しかいないけれど、いつなんどきお客様が来ても裸が見られることがないようにしてね? 他の分身ちゃんも同じよ?」


「わかったわ。普段はできるだけ下着も服も着せた状態でベッドに寝かせとくようにすればいいかな? じゃあ取りかかるね?」

「うん、お願いね」

 ……

 

「ソフィー? できたから履いてみて? 遅くなってごめんね? その、形のリクエストがなかったから、さっきまで履いてたのに近い感じで、素材感はブラと同じものにしてみたの。ソフィーは若くてスタイルもいいから、特に補正するような加工は何もしてないけど、良かったのかな? ただ、デリケートな部分はふつう当て布みたいな補強があるけど、一枚のままで、少しだけ厚みを持たせるようにしたの。だから透けたり、形が浮き彫りにはなりにくく、でも肌触りが優しくなるようにしたつもり。もし配慮が足らなかったり、どこか間違っていたら言ってね? 直ぐに直すから」


「ううん。そんな配慮で大丈夫よ。ありがとう。それに思ったより早かったから驚いているわ。あとは履いてみてから、コメントするわね?」

「うん、待ってる」

 

「うん。包み込まれるような優しさは一緒ね。うん。デリケート部分は言うほど厚みなんて感じないし、透けるようなこともなさそうね。とてもステキよ。履き心地も悪くないわ。素材の伸縮性も、まぁ充分だけど、もう少し伸縮性があってもいいかな? あとは形とかデザインのパターン、それから色や柄、リボンやフリルなんかの装飾部分をどうするかね? ありがとう、素晴らしいわ」


「あの、直すところはないのかな? 遠慮なく言ってね」

「うん。いったんこれで大丈夫よ。今日1日過ごしてみて、何かあれば後からお願いするかもだけど、今のところ問題なさそうよ? いい仕事振りだったわよ。ありがとう」


「よ、良かったぁ、スゴく緊張してたから、やっと一息つけそう」

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