第31話 如意棒と筋斗雲
「あぁ、マコちゃんの筋斗雲って、孫悟空の雲のことだったよね?」
「そうそう、ドラゴンボールの筋斗雲も同じようなものだけどね」
「あら? マコちゃ、孫悟空といえば、如意棒とか、分身の術なんかを思い浮かべちゃうけど、そんなのもあるの?」
「おぉ、そういえば?!」
マコは左手のひらを右拳の下部を打ちつける。えーっと、耳の中から取り出す素振りで、オーラからマッチ棒くらい小さめの棒を造形、可視化して、両手で引き伸ばす素振りで1mくらいの如意棒をDIY!
「こんな感じ?」
「え? もしかして、今初めて作ったの?」
あぁ、そういえば如意棒って、自由自在に長さを変えられるんだっけ?
「うん、そうだよ。えーっと、伸びろ如意棒! だっけ?」
如意棒を堅い棒のまま、3mくらいに伸ばしてみた。しゅっ。ん? おぉ? なんかいい感じ。
さらに部屋ギリギリの6mくらいに伸ばす。しゅぃん。んふっ。この伸び方、なんか気持ちいい。機械的に無機質に高速で伸びる感じではなく、人の感覚に訴えかけるように「伸びるぞぉ」って加速し、途中は超高速で、伸びきる瞬間、「伸びきったぁ」ってな反動を手元に小気味よく返してくれる。ゾクゾク。
続いて、10cmくらいまで縮めてみた。ひゅん、パシっ。縮む速度に驚いて握る手を緩め、縮みきったところで掴み直す。
あれっ? この小気味良いシュッシュ感、力強いくせにかなりの軽快感。縮みきるときの、すべての勢いがこの一点に集約し、「縮みきったよぉ」って完了を主張するかのような、パシっ感。ゾクゾクゾク。
ただの道具のはずなのになんか意志を持った生きてる感。なんかすごく良くない?
「パパァ、この如意棒、なんかすごくない? 武器にも道具にも使えそうな予感? それに気のせいかもしれないけど、本物の如意棒の意志が宿ったのか、ってくらい小気味良いの」
「あぁ、マコトもそう思うか? オレも今驚いてるんだ。不可視化すれば、近距離なら、つぶてよりも使い勝手が良さそうだな? っと、それより生きてる感じがするってこと? うーん。要検証だな!」
「うん。あと分身の術?」
そうそう、分身の術は髪の毛だっけ? あー、マコの髪は短くないけど、まぁ、振りだからいいか? 髪の中から数本髪の毛を抜き出す素振りで口の前に持っていって息を吹きかける。フゥーッ。
そしたら今度は触れないでイメージのままに風船を膨らませる感じでマコの形をDIY! 身体だからちょっと複雑そう? でも勝手知ったる自分の身体。イメージあるなら何でも形作れそう。
「でけた! どうだ? 分身の術」
マコ自身の身体のイメージがものすごいスピードで形を整えていく。とりあえず3体分。ぎゅるぎゅるぎゅる、ぽるるるん!
「あれっ? やっ、裸? ぃゃ、見ないでー!」
慌てて自分の局部を両手で隠す。自分は服着て隠せてるのにね。きっと分身ちゃんは見られ放題? もしやお嫁にいけないんじゃ? って思ったら、あれっ? 分身ちゃんたちも同じように隠せてる? あれあれっ? もしかして、無意識に動かせたの?
周りを見回すと、そうだった、家族しかいないじゃない。あられもないプルンと全裸が3体分。当たり前だけど、思いもよらない極度の恥ずかしさに顔面紅潮し、ちょっとだけ? ううん、周りが見えないくらい、激しくパニック。あは?
暑い暑い。腕で汗を拭いながら、もう片方の手のうちわでパタパタ扇ぐ。
「って。フィーッ。家族だけなら焦ることなかったよぉ、というか、何もないところから、裸プルンって、なんか無茶苦茶エロい。とんだ想定外。しかも皆の視線も釘付けだから、天にも昇りそうな恥ずかしさ! びっくりし過ぎて、心臓、縮んじゃったかも?」
なんとか平静を取り戻せたマコ。ひとまず全裸の分身ちゃんたちを近くにあったパスタオルでくるむ。
「しかし衣服のことは頭になかったよ。超うっかりさんだよね。危ない危ない。家で試せてホント良かったぁ。でもどうしよう。人の身体とか道具とかはイメージできるけど、服なんて全くイメージできないや。衣服作るのはハードル高そうだなあ? 分身の術。なんか使えそうだったけど、こんな落とし穴があったなんてね?」
「マコちゃん、分身ちゃんを一体借りても良い?」
「いいけど、一体なにをするつもり?」
「マコちゃん見てたら、イルにもできそうな気がしてきて、オーラで服を着せられるかも? って思ったの。ダメかな?」
「え? そんなことできるの? 服のイメージって複雑そうじゃない?」
「そう? タオルとっていーい?」
「いいよ」
「ありがとう。わぁ、マコちゃんの身体、可愛らしい! 胸はもうすぐ膨らんできそうな柔らかい丸みを帯びてるね。触れてもいい?」
「いいよ……あ、でもダメ! なんか恥ずかしい!」
あぁぁ……言うの、遅かった。マコの左胸は、イルの右手にすっぽり包まれた後だった。
「触っちゃった! あん、柔らかい! すごいね、分身ちゃん、肌の質感、本物みたい」
マコ自身じゃないからか、遠慮などかけらもなく、分身ちゃんは揉まれていく。うぅ、自分自身じゃないのに、容赦なく揉まれるさまを見てると、自分がされてるような既視感? あぁん、そんな経験ないはずなのに、心がふよふよする。
そんな様子を傍らで見ていたケインが食いつき、混じりたそうに介入してきた。
「あらホントね。膨らみかけてるわ。もう、直ぐよ? 羽化してまだ間もない蝶だもの。あぁ、尊い瞬間よね? 私も触ってみても……」
そっち方面がベテランっぽいケインに許したら、暫くはこの状態から戻れなそうな予感。ケインの言葉に被せ気味に……
「だ、だめぇ」
ケインへの却下の意味もあるけど、自分自身の防壁崩御の危機に、もう崩れ落ちそうなメンタル。なんかもう涙目だ。自分じゃないけど、マコにそっくりな分身ちゃん。
見られるだけでも恥ずかしくて堪らないのに、あぁ、そ、そんな風に触られたら、ぁん、ドキドキ、バクバク。鼓動がぁ……分身の術がこんな羞恥プレイになるなんて……
「うんうん。マコちゃ。綺麗よ?」
あぁママも参戦してきた! もうどうなっちゃうの?
「そ、そんなマジマジと見ないで! それに触るのも禁止! あっ、そんなとこ、そ、そんな見方、恥ず、恥ずかしすぎるよ」
頬の紅潮もマックスだ。あぁ、マコはどんな顔してるの? 自分でも見たことのない、恥ずかしい表情だと思うと、さらに恥ずかしさもヒートアップしていく。
そんなテンパりをよそに、イルはなにやら作ってくれていたようだ。もしかして助かったかも?
「あははは、可愛いマコちゃん。まだ膨らみかけだから、こんな感じのスポーツブラっぽいのでいいかな?」
え? ブラ? マコが?
「あ、うん。よくわからないから任せるけど、これからそういうのを着けなきゃダメなの?」
「そうよ! 学校に行くようになったら、そのうち習うことだけど、5歳でこの丸みを帯びてるなら、発育いいほうかもしれないよ? 良かったね、マコちゃん。いろんな意味があるみたいだけど、将来、垂れたりしないように綺麗な形を保つためにも必要なのよ。ね、ソフィー?」
「そうよぉ。あ! あなた? ジンも引っ込んでないで娘の成長を見届けなきゃ? こんなタイミングにはそうそう巡り会えないし、マコちゃの良き理解者でもあって欲しいもの」
「オ、オレもその輪に入るの?」
「当たり前じゃない。あなたが理解しないで、誰がマコちゃを理解するのよ?」
「お、おう」
「マコちゃ? 今度下着を買いに行こうね! あっ、買うならここより日本かN国よね? どっちかで、マコちゃとイルちゃ、それからケインもね? ちゃんとした下着をみんなでお買い物しましょ!」
「うっ、、うん」
「イルの下着も? ほんと? 嬉しいなぁ」
「え? ソフィア、私も連れてってくれるの?」
「もちろんよ。ケインもせっかく瑞々しい身体に生まれ変わったのだから、大切にしたいでしょう? 特に日本製品の下着は良いものが沢山あるから、キチンとした下着を揃えましょう? ちょっと値は張るけどね」
「そ、それはいかほどで? というか、うーん、私とイルはいいわ。借金返済プランがまだ終わりそうにないから」
イルが少しだけしょんぼり。
「心配無用よ! 私からのプレゼント! ついでにお洋服も買わなきゃだね?」
イルの顔が急にキラキラし始める。
しかしケインは遠慮がちな態度を固持。
「え? いいの? いや、悪いわよ、そんなの」
「うふふふ。お買い物に行くってことは、日本かN国にいるってことでしょう? ということは? そう! 皆頑張ったってことでしょう? だからそのご褒美よ」
イルとケインの顔からキラキラが弾け零れ出す。
「キター、ご褒美。なんとも罪悪感が薄れてしまうそのお言葉! 素敵な言葉でうっとりしちゃうわね? なんて、冗談はさておき、本当に甘えても大丈夫なのかしら? まさか裏? 黒い事情があったりなんてことは?」
「あははは、ホントに疑り深いわね? みんなN国プロジェクトに携わってもらうつもりよ。当然その活動経費で落とせるから大丈夫!」
「あとで手違いが発覚なんてことは?」
「そこまで疑り深いと逆に清々しいわね? ホントに大丈夫だから。なんなら私の個人資産から出してもいいわよ? 他ならぬ家族のための支出なら惜しいとは思わないわよ。でもそうするとケインの場合は反対に気が引けてしまうでしょ? これからはN国のために公のお仕事として駆り出されるのだから、ある程度、品位が求められるもの。そのための衣装代ってわけよ。それなら心も痛まないでしょ?」
「あら、とても素敵な大義名分のもと、身なりを調えられるってわけね。わかったわ。思いっきり甘えさせてもらうことにするわ。というか、すごく嬉しい、ありがとう、ソフィア」
「どういたしまして。というか、もうもらえるつもりでいるようだけど、借金返済関連とパスポートを何とかできた先にある話よ? 頑張ってね?」
「うぅ、そうだった、頑張るわ」
「もう、また脱線しちゃったわね? それでマコちゃとイルちゃも可愛い下着と衣装。ひらひらの服なんかも買うから、今のうちによく考えといてね?」
「う、、ぅん」
「そういうお買い物、イルは初めてかも? 嬉しいソフィア」
「あら、マコちゃの分身ちゃん、下着は決まったみたいね。あらあら、清楚で可愛らしいわ。イルちゃ、あなたセンスあるわね? というか、オーラからここまで作り上げられるものなのね。とても驚きだけど、あなた魔女としての才能もなかなかのものよ? でもここまで作れるのならお買い物も必要なかったかしら?」
誉め言葉にはにかみながらイルは返す。
「やたっ! ソフィーに誉められたぁ。すごく嬉しい。でもイメージできるなら何でもつくれる、っていうマコちゃんの言葉通りなのね。ただイルはマコちゃんみたいなダイナミックな造形には向いてないみたいなんだけど、裁縫は得意だから、こういうのはカンタンに作れるみたい。だけど、元はオーラなので、時間が経って魔力が尽きると消えちゃうから、下着や普段着はダメっぽいよね? 魔法が解けて裸になっちゃうのはまずいでしょう?」
「ありゃあ、シンデレラみたいね? でもそのスリル、ハンパなくドキドキしちゃうよね?」
「え? ドキドキって、いやそうだけど、ソフィー? 見られちゃうかもしれないから、そんな選択はないでしょ?」
「あははは、そうよね。でも下着が消えても、上に服があるか、服が消えても下着が残ってれば、最悪見られることはないじゃない? だったらスリルも楽しめるかもだよ」
「えぇ? ソフィーは下着は見られても平気なの?」
「あ、いや、そりゃあ恥ずかしいけど、下着なんて見られても、次の瞬間に魔法で戻せるなら、気のせいで済ませられそうだし、実際、下着も水着もさして変わらないわよ? 透けないのならね?」
「そりゃあそうだけど・・なにかサラリと引っかかる言葉が? あ? え? す、すすす、透けるって言わなかった?」
「言ったわよ?」
「そそそ、そんな、し、下着、ソフィーは持ってるの?」
「いやぁ、興味はあるけどさすがに持ってないわよ。そんな下着、裸を見られるよりも恥ずかしそうだわ」
ママ、興味はあるんだ。
「そうよね」
「それでさ、イルちゃ? あなた才能がありそうよね? そういうのも作ってみない? まずは身内用の下着を魔法で仕立てる練習を積み重ねて、いつかその集大成をキチンとした布で仕立ててランジェリーショップを立ち上げるのよ。どう? ワクワクしない?」
「面白そう! ソフィー? それやってみたいかも? でもイルにできるかなぁ?」
「そんなのやってみなきゃわからないし、要は好きかどうかじゃない?」
「ジ、パパに続いて、ソフィーもまた私に可能性の扉を開いてくれるのね? なんて素敵な人たちなの?」
「ん? どうしたの? なにか言った?」
「ううん。イルは挑戦してみたい!」
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