第30話 流星衝突の夜が明けて
流星落下騒動のあと、眠りについたみんなは暫く目覚めることがなく安眠を貪ったが、お昼過ぎに来客の訪れで目を覚ます。
ピンポーン!
「ジェイムズです。ミスターイチノセはご在宅でしょうか?」
「あぁ、はい。おはようございます」
「あ、あぁ、こんにちは。今お目覚めですか?」
「ま、まぁ、夕べは遅かったもので……」
「昨夜、というか今朝方未明の時間帯ですが、近くに隕石が落下したとの報告を受けたため、確かご近所だったことを思い出しました。心配で訪問させていただきました。特に被害はなさそうですが、何か変わったことはありませんか?」
「いえ、たぶん裏山、というか岩山に墜ちたみたいですね。深夜に凄い音がしましたが、幸いこちらには被害はなかったようです」
「それはよかった。にしてもお話ではお聞きしていましたが、本当にキャンプ暮らしをされているのですね。なんとなく奔放な暮らしぶりが想像できてうらやましいしだいですね」
「はぁ、まぁ、それなりに愉しんで暮らしてますよ」
「あ、刑事さん、こんにちは」
「え? どちらのお子さんですか?」
「あ! あのとき一緒にいた娘ですよ。あのときは黒目のコンタクトを入れて、髪を黒髪に染めてたんですよ 以前、コスプレが好きでしてね」
「あぁ、そうなんですか。あぁ、あちらにいらっしゃるのが奥様ですか? おぉ、金髪碧眼でお美しい方ですね。本当にお美しい。おっと気を抜くと心が鷲掴みにされそうなほどです。それでお子さまも金髪碧眼なんですね? あのときはお父さまに合わせて黒髪黒目にコスプレしていたと。なるほど。いやぁ、何から何まで羨ましい限りですな。はっはっは。ほかにもいらっしゃるのは、先日の事件の当事者の親子さんですか?」
「えぇ、あぁ、ケインとイル、ちょっとこっちに来てくれるか?」
「はーい」
「あぁ、あのときの刑事さんですね? 私はケインです。こっちは娘のイル。あのときは大変お世話になりました。今もいろいろとお手数をおかけしていると思いますが、どうぞよろしくお願いいたしますね」
「刑事さん、イルです。先日はありがとうございました」
「おぉ、こちらの娘さんもなかなかしっかりしていらっしゃる。お顔もとても可愛らしいですね。それでおかあさんのケインさん? なんか先日お見かけしたときと雰囲気が違いすぎる気がするのですが……」
「あぁ、ジェイムズ。ケインはあのときは病に伏せていて、こちらで療養しているうちに健康を取り戻したんですよ」
「あぁ、そうだったんですか。それにしてもこんなにお若くお美しかったとは驚きです。髪色もストロベリーブロンドっていうんですか? 本物のそれですよね? 顔も髪もお美しい。そういえば娘さんの髪もストロベリーブロンドなんですね。将来が楽しみなお嬢さんだ。いやぁ、ミスターイチノセ。息を呑むほどの美女、愛くるしい美少女に囲まれて、本当に羨ましいですな。いやほんとに」
パパは気恥ずかしくて話題をそらそうとする。
「いやいや、あぁ、それよりベラドンナ商会と警察署長の件はどうなりましたか?」
「あぁ、ベラドンナ商会は事実上解散になりますね。今もまだまだ余罪が隠れていて吊るし上げている最中なんですよ。その件はもう少し調べが進んだら、また纏めてお話しさせていただくつもりです」
「あぁ、それはよかった。人を不幸に突き落とす輩は厳罰が下って然るべきですから」
「えぇ。それと警察署長ですが、当然のごとく解任し、取り調べの真っ最中ですわ。こちらもかなり以前からあちこちの悪徳業者との癒着が明るみに出てきて、芋づる式に関係者を炙り出している最中でしてね。あぁ、新しく赴任してきた警察署長は、今のところ可もなく不可もなくといったところですが、まぁ、悪い人間ではなさそうです」
「おぉ、それは良いニュースです。この街も少しは暮らしやすくなるといいですね?」
ジェイムズは、自身の話をするためか、少し照れながら話を切り出す。
「はい。それと、私ですが、今回の一件が高く評価されまして、副署長に就任することが決まりました。私も叩き上げの出身なので、分不相応なスピード出世に少々戸惑っているしだいですわ。話は少し変わりますが、前にも言ったように、私はあなたに凄く興味を持っています。あなたのおかげの出世というのもありますが、あなたには何か特別なものを感じています。それが何かはわからないのですが、私という人間がこれから成長していくにあたって、あなたという人間を知って学んでいくことが、私自身の向上に繋がるものと勝手に想像しています。事態が落ち着いてからでいいのですが、いつか一杯付き合っていただけませんか?」
「あぁ、そうですね。いいですよ。私も警察に顔が利いたほうが、やりやすいことも多いですから。あぁ、変な意味ではなく、外国人の私が何かをしようとするときに、ときどき反感を持ったような接し方をされる場合が多くて、つまらないところで躓くことも多いですからね。そういう意味で現地のしかも警察官との伝手があるなら、今後はいろいろとスムーズにことが運びそうな気がしますね」
「あぁ、そういうことでしたらいくらでも融通を利かせますよ。任せてください。今回のあなたの功績は目を見張るものがありますから、多少のはばを利かせるくらい融通があってもバチは当たりませんよ」
「了解です。心強いですね。それよりも、暫くここを空けるので、また帰ってきてからになると思いますが、そのときはよろしくお願いしますね」
「え? ご旅行ですか?」
「いえ、引っ越しになります。娘の学校もあるので、私の母国の日本か、妻の母国のN国のどちらかで学ばせたいと思っているんです。それでベースはそちらになりますが、私はお仕事でこちらに時々出張してくることになります」
「え? そういうことなら、離れる前にぜひ一度、席を設けさせていただけませんか? ご家族ともども招待させていただきたいです。実は私があなたに興味を抱いているというお話はしましたが、その話を署内でしているうちに、実はうちの署内の全員があなたに興味を持ちましてね。それどころか娘さんの可愛らしさも目撃していますから、まだお会いしていない奥様も含めて、みんながお話ししたいとの突き上げが凄いんですわ。だから署に勤務で居残りするものは除いて、署の全員が参加する宴を開きたいと思うのですがいかがでしょうか? もちろんご招待しますから、それぞれ身ひとつでいらっしゃるだけですよ?」
「いやいやいや、それは買い被りすぎですって。それにうちの家族といえば、こちらのケインやイルも家族なんです。元々親戚だったから、今後は同居することになり、引っ越しでも連れていく予定です。だから3人ではなく5人になります。だから負担も大きくなると思いますよ?」
「いやいや、それくらいなら大丈夫ですよ。思いっきり美味しいものを振舞いますから、ぜひいかがですか? それにこちらのケインさんも超絶美少女ともいえる若さと風貌ですし、娘さんのイルちゃん? も本当に可愛らしく、聡明な雰囲気も伝わってきます。実はうちの何人かの署員の子どもがイルちゃんと同じ学校に通っているらしくて、イルちゃんの物おじしない大人顔負けの振る舞いに感動しているという話も聞いています。ぜひうちの署員にがつんとご指導を賜れるなら、うちの署の未来も明るくなると思うんです」
「もう、ジェイムズは強引だね。どうする? ケイン、イル、マコト。ソフィアも聞いてた?」
「私はかまわないけど、うーん。当日はサングラスして行ってもいいかしら?」
「え? それは何か理由がおありで?」
「え? あぁ、街には昔迷惑をおかけした人たちがいて、身バレNGなのよね?」
「あぁ、そういうことなら変装でもなんでもされてけっこうですよ」
「あら、そう? なら私は大丈夫よ」
「イルは大丈夫。少し警察というものに興味があるから。お母さんはどう?」
「私は警察ではよくされた記憶がないからちょっと複雑だけど、まぁ、ジンさんたちが主体に招かれるのなら、悪いことにはならなそうだから、いいわよ」
「マコも大丈夫。ねぇ、ジェイムズさん? 警察官って頭がいい人たちの職業なんでしょ? それなら少々意地悪しても大丈夫かな?」
「ん? それはどういうことかな?」
「んーとね、いろいろ沢山の質問をするの。頭がいい人たちだったら答えられるはずだよね? うーんと、ほんとはね、街で見かけた警察官の人が、まるで気が利かないっていうか、あぁ、わかってないなこの人、みたいな人がいたのね? そこで注意する人もやっぱりいたんだけど、その警察官は本当に知らないのか、プライドがあって引くにも引けないのか、元々そんなことを思ってもいないのか、超不機嫌な態度で対応してたのね。今回こんな会席みたいな場があるのなら、パパとジェイムズさんの庇護下で、私たちのような子どもでもきちんとお話できるような気がするの。ねぇ、イルもそう思うでしょ?」
「そうねぇ、私も似たようなことを考えたことがあるわ。これがそういう機会なのなら、私も協力するわよ、マコちゃん」
「あぁ、ジェイムズ? やっぱり止めたほうがいいような気がしてきたよ。前にもマコトについては話したような気がするけど、マコトもイルも、見た目は可愛らしいし、口調も子どものそれだけど、そんじょそこらの大人じゃ太刀打ちできないくらいの頭脳を持っているから、その警察署員たちはボコボコにされる気がするよ? 自信を失くすことにならないかが心配だね」
「あぁ、そういうことなら是非叩き直してもらいたい、とも思うのですが、ミスターイチノセがそういうのなら、きっとそうなんでしょうね。会席の件は一度持ち帰らせていただきます。また近いうちに立ち寄らせていただいてもいいですか」
「はぁ、どうぞ」
「じゃあ、今日は用件も全部伝え終わったので、これにて引き上げます。あっ、そうそう、隕石落下の件で、この近くにTV局が出入りすることになりそうです。奴らもスクープ絡みなどでは目の色を変えて出過ぎた行動をとる可能性もあります。もしも何かこちらに迷惑をかけるようでしたら、いつでも言ってくださいね。そのほかにも、また何かありましたら、いつでもお電話くださいね。それでは」
「TV局の件は承知しました。それでは、お気をつけて」
ジェイムズは引き上げていった。
「あら、あなた? 私も身バレはちょっと怖いけど、警察を言い負かすのも楽しいかなって思っていたのよ? 無くなりそうなのは残念ね」
「まぁまぁ、もう少ししたらこの地は去るのだから、立つ鳥跡を濁さず、という日本の諺もあって、去るのにかき回すのはどうかな? って思うよ?」
「まぁ、それもそうね。縁がなかったと思って諦めるしかないか、美味しい料理たち」
「ああ、残念がるのはそこ?」
「そりゃそうよ! 美味しい料理も出ないのなら参加する価値なしよ?」
「マコはね、質問することも目的だったけど、警察官って武器を持ってるでしょ? 拳銃とか警棒とか。あと護身術か、そのほかの武術の何かはできる訓練をしているんでしょう? それも聞いてみたかったな? 特に警棒の使い方なんて、なかなか知る機会なさそうだよね」
「イルはね、一度だけ婦警さんに憧れてた時期があって、婦警さんの仕事について聞いてみたいとも思った。あと、警察無線。ときどきドラマなんかでもやるのだけど、警察無線って隠語が多く使われていると思うけど、どんな隠語があって、どんな風に使っているのか、生の声を聞きたかったかな?」
「そ、そうか。やらないとしたら、それは残念だね? まぁ、ジェイムズとしては、やりたそうだったから、形を変えてやるかもしれないけどね。たとえば、署員全員参加ではなくて、問題なさそうな人間に絞るとかね」
「まぁ、マコはどっちでもいいや」
「イルも」
「それに、前はパトカーをカッコいいと思ったこともあったけど、マコの筋斗雲のほうが凄いから、今は全く興味ないや」
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