第5話 ネコミミ恋人

 今日の完城美々はわかりにくい。


 あの休み時間のメデューサタイムは終了しており、いつも通りフードを被った美々は、放課後のチャイムが鳴るとそそくさと帰ろうとする。


「あ、待てよ美々。今日一緒に帰ろうぜ」


 誘うと、ピタッと止まってから数秒硬直。

 すると、フードがはらりとはだけてネコミミが表れる。


「や。今日は大切な用事あるから」


 ネコミミで言われると、ツンデレってわかってるからついしつこく誘っちまう。


「そんなこと言わずに一緒に帰ろうぜ。あ、そうだ。この前気になってるカフェあるって言ってたろ。一緒に行こうぜ」


 そう言うと耳をぴこぴことさせていた。よしよし、効いているな。


 次のセリフは、『しょーがないから行ってあげるよ』かな。


「うるさい……」

「へ?」

「仁。うるさい。今日は用事あるって言ったでしょ」


 冷たく言われて俺はその場で固まってしまった。







 まさかネコミミ状態の美々にあんなこと言われるとは。


 わかりやすいとか知った気でいた自分が恥ずかしい。


 彼女も年頃の普通の女の子。


 耳だけで判断したらだめだよな。


 罪悪感を感じ、先に帰って行く美々を走って追いかける。


「美々!」


 正門の辺りで追いついた時、彼女はまたフードを被っていた。


 振り向いた時、鬱陶しそうな顔で俺を見る。


「なに?」

「いや、ごめん。さっきの誘い方しつこかったよな」

「別に気にしてない」

「それに、俺、美々のこと耳だけで判断してた。幼馴染で付き合い長くてさ、ネコミミの時はこうだとか、イヌミミの時はこうだって」

「……」

「でも、違うよな。耳だけで判断なんかしちゃだめだよな」


 だからさ。


「俺、もっと美々のこと知りたい。耳だけで判断するんじゃなくて、隣にいるだけで分かり合える関係になりたい」

「……ッ!?」


 あれ、俺はなにを言ってんだ? でも、繰り出した言葉を引っ込めることができない。


「俺は美々がずっと前から好きなんだ! だからもっと美々を知りたい!!」


 勢いのまま告白しちまった。


「仁……」


 美々の顔が赤らむと、フードがはだける。


「嬉しい。私も昔から好きだよ」


 照れ顔と共に表れるネコミミはツンデレなんかじゃなく。


「仁っ!」


 デレデレだった。


 抱きついてくれる美々は甘えてくるネコみたいに可愛い。


 彼女の頭を撫でると、気持ち良さそうに耳をぴこぴことさせている。


 数秒の幸せな抱擁を解いて、互いに距離を取って顔を合わせると互いに恥じらってしまう。


「あ、あのさ。教室の時のメデューサみたいな時あったじゃん。あれ、どういう感情だったの?」

「あれは……。だって、今日は仁の誕生日で私がお祝いしたかったのに、他の女の子とばっかり喋って。嫉妬してた」


 なるほど。嫉妬の感情だったのか。めっちゃこえーな。


「つか、今日俺の誕生日?」

「そうだよ。忘れてた?」

「すっかり」

「もう。今から誕生日ケーキ買いに行くところだったのに」

「用事ってそれか」


 なんだかそれが非常に嬉しくって彼女と手を繋ぐ。


「じゃあ今日は誕生日と恋人記念日だな」

「なにそれ。恥ずかしくないの?」


 そんなことを言ってくれる彼女の耳はぴょんぴょんと跳ねていた。


 やっぱり完城美々はわかりやすい。


 でも、これからは耳を見てじゃなく、隣にいるだけで分かり合えるように、彼女との愛を育みたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

完城美々は感情が耳からもれちゃってる すずと @suzuto777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画