第5話 ネコミミ恋人
今日の完城美々はわかりにくい。
あの休み時間のメデューサタイムは終了しており、いつも通りフードを被った美々は、放課後のチャイムが鳴るとそそくさと帰ろうとする。
「あ、待てよ美々。今日一緒に帰ろうぜ」
誘うと、ピタッと止まってから数秒硬直。
すると、フードがはらりとはだけてネコミミが表れる。
「や。今日は大切な用事あるから」
ネコミミで言われると、ツンデレってわかってるからついしつこく誘っちまう。
「そんなこと言わずに一緒に帰ろうぜ。あ、そうだ。この前気になってるカフェあるって言ってたろ。一緒に行こうぜ」
そう言うと耳をぴこぴことさせていた。よしよし、効いているな。
次のセリフは、『しょーがないから行ってあげるよ』かな。
「うるさい……」
「へ?」
「仁。うるさい。今日は用事あるって言ったでしょ」
冷たく言われて俺はその場で固まってしまった。
♢
まさかネコミミ状態の美々にあんなこと言われるとは。
わかりやすいとか知った気でいた自分が恥ずかしい。
彼女も年頃の普通の女の子。
耳だけで判断したらだめだよな。
罪悪感を感じ、先に帰って行く美々を走って追いかける。
「美々!」
正門の辺りで追いついた時、彼女はまたフードを被っていた。
振り向いた時、鬱陶しそうな顔で俺を見る。
「なに?」
「いや、ごめん。さっきの誘い方しつこかったよな」
「別に気にしてない」
「それに、俺、美々のこと耳だけで判断してた。幼馴染で付き合い長くてさ、ネコミミの時はこうだとか、イヌミミの時はこうだって」
「……」
「でも、違うよな。耳だけで判断なんかしちゃだめだよな」
だからさ。
「俺、もっと美々のこと知りたい。耳だけで判断するんじゃなくて、隣にいるだけで分かり合える関係になりたい」
「……ッ!?」
あれ、俺はなにを言ってんだ? でも、繰り出した言葉を引っ込めることができない。
「俺は美々がずっと前から好きなんだ! だからもっと美々を知りたい!!」
勢いのまま告白しちまった。
「仁……」
美々の顔が赤らむと、フードがはだける。
「嬉しい。私も昔から好きだよ」
照れ顔と共に表れるネコミミはツンデレなんかじゃなく。
「仁っ!」
デレデレだった。
抱きついてくれる美々は甘えてくるネコみたいに可愛い。
彼女の頭を撫でると、気持ち良さそうに耳をぴこぴことさせている。
数秒の幸せな抱擁を解いて、互いに距離を取って顔を合わせると互いに恥じらってしまう。
「あ、あのさ。教室の時のメデューサみたいな時あったじゃん。あれ、どういう感情だったの?」
「あれは……。だって、今日は仁の誕生日で私がお祝いしたかったのに、他の女の子とばっかり喋って。嫉妬してた」
なるほど。嫉妬の感情だったのか。めっちゃこえーな。
「つか、今日俺の誕生日?」
「そうだよ。忘れてた?」
「すっかり」
「もう。今から誕生日ケーキ買いに行くところだったのに」
「用事ってそれか」
なんだかそれが非常に嬉しくって彼女と手を繋ぐ。
「じゃあ今日は誕生日と恋人記念日だな」
「なにそれ。恥ずかしくないの?」
そんなことを言ってくれる彼女の耳はぴょんぴょんと跳ねていた。
やっぱり完城美々はわかりやすい。
でも、これからは耳を見てじゃなく、隣にいるだけで分かり合えるように、彼女との愛を育みたい。
完城美々は感情が耳からもれちゃってる すずと @suzuto777
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます