第32話 つぶて 〜 魔力修練 ep3 【閑話】
「せっかく小石を扱ったのだから、そこに関連して、「つぶて」を練習してみようか?」
「あ、なんか日本の時代劇の忍者が使ってたような?」
「お? よく知ってるねぇ?」
「ンフっ。でしょ? パパ秘蔵コレクションの時代劇もののビデオ観たことあるもん」
「い、いつの間に!? ととと、というか、パパの秘蔵コレクションって、ど、どこからそんなものが?」
「アハハハ、その慌て振り、怪しいナァ。8ミリビデオが引き出しに並んでるでしょ? 手前から順番に観てるの。だって奥の方はきれいなお姉さんの写真付きだから、あんまり興味ないしね。『男の人は綺麗な女の人を観るのが嬉しいものなのよ。だから観ないであげてね』って、ママもいうから観てないよ。でもママより綺麗な人いないし、マコトだって可愛いでしょ? なんで他の女の人なんか観たいのかな?」
―― マコの言葉に大慌てだったのが、今は胸を撫で下ろしてる。
―― ん? ヤッパリアヤシイ?
「とと、友達が貸してくれたやつで汚したらダメなやつだから、触っちゃダメだよ。っていうか、パパの秘蔵もの、勝手に観ちゃダメ」
―― あぁ、やましい系かぁ。
「だって日本と違って楽しみ少ないんだもん。アニメのビデオがたくさんあればいいんだけどな?」
「わ、わかった。今度仕入れておくよ」
―― ぬぉーっ! あんなに面倒臭がられてた案件がこうもすんなりといくなんて……こ、これは使える!
―― これが交渉というものか?
―― うん、決してユスリではないからね。
―― うん、交渉だよ、交渉。
―― 次回に繋げるにも今はコトを荒立てないのが得策かもだから、このまま濁しちゃえ。
―― さぁ、次、次。
「でも、つぶてって、危険じゃないの?」
「あぁ、危険だよ。だから、むやみに使うものでもない。ただ、相手が銃や剣、刀を持って襲ってくる場合など、やむを得ない事情があるときだけ使えばいい。そうしなければ、自分や誰かの命が失われるかもしれない。たとえば、ママに銃が向けられて、今まさに引き金が引かれようとしている。そんなとき、マコトは何もしないで指をくわえて見ていられるの?」
「できるわけないよ。マコの大切なパパママの命を狙うのなら容赦はいらない。そんな相手なら死んだってかまうもんか。……でも、殺すのは怖いな」
「そうだろ? 誰だって殺すのは怖いよ。それに別に殺す必要はないよ。相手に殺されないこと、それが絶対条件で、それさえ回避して逃げ切れれば、条件は満たされるだろ?」
「うん、マコはそれで十分。襲われたことは腹が立つけど、何も失わないで済むのなら、それくらい水に流したっていい」
「そうだな。マコト、エラいぞ。それで、そのための策。まずは威嚇。近くの誰にも当たらないところに撃ち込む。武器があるのはおまえたちだけじゃないぞ、って示す。なるべく撃つところは見られないほうがベター。もし狙えるのなら、相手の武器を弾き飛ばす。武器に直接当てても弾かれて終わる可能性があるから、武器持つ手や指を狙うんだ。追いかけられる可能性があるなら、足を狙うといい。まぁ、正確に狙えなくても、顔と心臓以外なら、どこを狙ってもいい。それならケガしてもいずれ治るから、心は痛まないだろ?」
「うん、それなら怖くない」
「よし、じゃあ、実際にやってみよう。パパも初めてやるし、すべては机上の論にも過ぎないから、うまくやれるかどうか。まず、小石を親指の爪の前の位置で、人差し指の第2関節で挟み込むように握り込む。撃つときは、ストッパーになっている人差し指の第2関節を乗り越えるように、親指を押し出しながら、小石を弾く」
そう言いながら、ジンは実際に握り込んだ小石を打ち出してみる。
ピョーーン。ポトッ。
大人とはいえ、忍者ではない常人の放った結果としては当たり前なのだが、
「魔力無しの素でやると、こんなもんだ。当たっても痛くも痒くもない。それどころか多分相手に届かないよね」
「アハハハ、ホントだね。それぐらいが優しくてよいね」
「じゃあ、ここからが本番。あのね、魔力行使ってね、イメージできるかどうかが大きな鍵だと思ってるんだ。だから、できるだけ正確にイメージすることが成否を分けると思ってる。ここ重要なところ! テストに出るからね~」
「テ、テスト?」
「あ、冗談冗談。マコトはまだ学校に行ってないからわかるはずないね」
「あ、そういうこと? わかるよぉ。マンガでも、よくそういうフレーズあるもん」
「アハハハ、そっか。そうだったな。マコトはマンガオタクだったっけ?」
「オタク? ち、違うよぉ……? あぁ、違わないかも? アニメ・マンガ、大好きだしね。というか、まだ学校にも行ってないマコにとっては知識の宝庫なんだからね? もしマンガが無かったら、言葉も文字も知らないから、パパとこんなに喋れないんだからね」
「そっかぁ。あぁ、パパも好きだから、偏見あるわけじゃなくて、むしろ感心して出た言葉だよ。ゴメンゴメン。じゃあ続けるよ。撃つ前に、小石をオーラで包んでおく。撃つ前にどこを狙うのかを決めて、親指と狙うところを結ぶ直線をよーくイメージする。指の弾く動作で初速を与え、このはじく瞬間に直線通りに弾き出すイメージで加速する。実際にやってみるよ? 周囲に人や動物はいないね? じゃあ、的は目の前の岩……」
そう言いながら、今度は小石を打ち出し魔力で加速する。
「てぃ」
シュッ……ドーン。
大きな音を立てて、見事に岩が割れ、直撃部分が砕けちらばる。
「え?」
あまりの驚きにマコトの瞳はこれ以上ないほど見開き、しかし視点は数cm先の宙、即ち何も視えていない状態で一瞬フリーズ……
「あ……ぐっ」
と、直ぐに我に戻って結果の状態を見渡すが、あまりの凄さに声も出ずひとまず動かせる手だけ拍手喝采……
パチパチパチパチ……
……遅れて動揺も落ち着きようやく声になって出ていった。
「おーっ、スゴいパパ……び、びっくりしたぁ……たまげたよ、パパァ」
「お、大丈夫か? うん。思ったよりもうまくいったな? これなら銃にも対抗できそうだろ?」
「そ、そうだね。はぁーふぅー……マコにもできるかな~?」
「うん、まぁ練習次第かな? 重要なことは3つ。照準、初速、打ち出す力だと思う。目と、打ち出す位置は違うから、その脳内補正する、これが矯正。手のひらの静止した小石でも、同じように打ち出せるけど、ほら、最初のグズグズ感とともに打ち出しが遅れる感じになるだろう? 物理的な話になるけど、ものが動くためには加速する必要がある。0からの加速が大変なのは今見たとおりで、それを補うために弾き出しでできるだけ勢いを与えてやる、それが初速。撃ち出した後に、脅威の瞬発力を思いっきり与えてやる。これはそのための魔力量にもよるし、イメージ力にも大きく影響される、これが打ち出す力だ。わかったかな? 試しにやってみてごらん」
「うん、照準、初速、打ち出す力、っと」
そう言いながら、マコトは手順確認のテンポと、幼女の弾く力で打ち出し、それを魔力で加速する。
ひゅん。ひゅーっ、ポテッ。
ジンに較べて初速が弱いことと、魔力加速への繋ぎがスムーズでないため、飛び出す小石はやや遅い。また加速もまだ要領が掴めていないのだろう。結果、目に追えるスピードで、しかし放物線ではなく、真っ直ぐに進んで狙い通りの位置に当てることはできたようだ。
「まぁ、最初はそれでいいよ。徐々に力の込めどころと、流れるような動きが身に付けばOKだよ。じゃあ、ちょっと応用ね」
ジンは何度か両手を見つめながらグー、パー、グー、パーしたあと、オーラを纏わせながらふんわりと握りしめる。キュキュッっと固めるように握った
シュッ、シュッ、パスっ、バァァンッ。
左手分は岩を軽く揺らすが、右手分は岩を割った。
「な、なな、何したの? 小石じゃないよね?」
「お! 正解。空気砲だね。堅い岩だからかなり強めに当てると割れるみたいだけど、空気だから、一点に絞りさえしなければ、人に当たっても強く殴られた程度で、殺傷能力は低いよ」
「く、空気って? 小石もいらないってこと?」
「うん、できるか不安だったけど、使えそうだね。ただ、予備動作が必要だから、咄嗟には使えないけどね。そのままの空気じゃ当たってもすり抜ける、というか、風が吹くだけだから、事前に圧縮しておく必要がある」
「マコもそれがいいな?」
「そうか気に入ったか? でも、ちょっと勉強が必要かもな? 理科と、その先の物理の。ちと難しいぞ?」
「マコ頑張るよ」
「わかった。その意気やよし。じゃあ、次はさらに応用。できるかな~? 成功したら誉めてよ」
「わかった。なになに?」
今度はバスケットボールくらいの大きさを両手で描くように形作りオーラで包む。っと、ギュウギュウに押し込めるようにたぶんピンポン球くらいに固めたものを手のひらに持って軽く包み込むように握る。
「誰も近くにいないね。安全確認OK。じゃあやるよ? パパの右手とあの岩を見てて?」
「うん、わかった」
先程の空気砲の凄さを目の当たりにしたから尚更のこと、今度は何が起こるのかと、マコトは興奮を隠せない。一度、岩付近を確認すると、瞬きをしないようにギンギンに見開きながら、今か今かとジンの右手に集中している。ジンは、的の岩と右手の空気の固まりを交互に見た後、軽く深呼吸。次の瞬間、ピンポン球大の塊を握り込んだと思った瞬間、親指で弾き出す。
シュッ、ボッ、ボボボボッ……バァンッ。
手から放たれたそれは、この一瞬のうちに焔となり、バンっと軽い爆発音とともに岩が砕ける。瞬間的に燃え上がったが、岩は燃えないため火はすぐに消える。この当たった瞬間の空気の炸裂音が大きくはないが派手だったため、マコトの瞳にはとてもカッコ良く映ったようだ。
「スゴーい、スゴい、スゴーい。なにをしたの? どうやったの? パパスゴいよぉ! カッコ良かった」
「おぉ、そ、そうか? カッコ良かったか」
「これ、炎魔法とか、爆裂魔法とかなの?」
「それって、アニメとかで、魔法の属性の水とか火とかがあって、その上位に炎とか爆裂とかのランクがついたやつ。それって、そのアニメ・マンガの原作者が作り出したやつでしょ? 本当にあるの?」
「えぇ? そうなの? そんなのないの?」
「うん、特に一番面白げな日本のアニメなんて、和製ファンタジーとも呼ばれていて、空想の世界をどんどん広げていってるんだよ。特に宙にうかぶ魔法陣なんて、和製ファンタジーそのものなんだけどね。あ、ごめん。夢壊しちゃったかな?」
「ううん、薄々はわかってたから大丈夫」
「そっか、でも、ちょっとデリカシーなかったかもだから、ちょっと反省。でも、パパは和製ファンタジーな日本アニメ大好きなんだ。わかりやすいし、見てて心地良いし、楽しいし、おもしろいよね」
「そうだよね~。いくら本当のことでも、難しかったり、わかりにくかったりだと、見てて楽しくない。和製ファンタジーを発明した人たちに感謝だよ。面白いエンタメありがとう、って」
「だな。で、その炎魔法がどういうものかも、そもそも魔女の使う魔法がどういうものかもよく知らないから何とも言えない。ただ、パパは空をとべるような不思議な力を使って、それ以外の世界で培われてきた物理的思考を掛け合わせただけだよ。もしかしたら炎魔法というのが実際にもあって、でもその中身はパパと同じことをしてたのかもしれないね。ただ、大きな違いは、たぶん××魔法って、呪文を唱える必要があるんでしょ? パパのは森羅万象の
「あ? そういえば、呪文なんて、何も関係なさそうだよね」
「そう。まぁ、それはいいよ。それで、どうやったのか、だけど。今度は、ちょっと大きめの空気を集めて、あらかじめ圧縮しておく。弾き出す瞬間に一気に豆粒くらいまで圧縮して弾く。うん、違いはそれだけかな? この一気に圧縮することで、断熱圧縮という状態になり高熱を発する、という現象を利用しているだけなんだ。まぁ、宇宙から隕石が落ちるとき、火の玉になるのと大体同じ理屈かな? オーラで包んだ強制高圧縮による熱でオーラの外側が燃え始めて、対象にぶつかるときオーラの包みが弾けて燃えながら瞬間膨張するから、あんな炎や炸裂音が出るんだと思う」
「うぉーっ、パパすごい。なんでそんなこと知ってるの? 学校に行けば習うことなの?」
「おぅ、ありがとう。うーん、高校の物理か、気象が含まれる科目で、言葉と模範的な説明文は習うかもしれないけど、先生も含めて、多分本質的には理解できるやつはそうはいないかな?」
「そっかぁ、でも、爆裂魔法モドキできるんじゃん! おー、かっこいい!」
「こらこら、そんな動機で使っていいものじゃないからね! わかってる?」
「わかってるよぉ、もう。できるようになったらママに自慢しなきゃ。ウキウキ」
「まぁ、もしもハイエナたちが襲ってきたら、良い標的になったんだけどな」
「さんざん爆発音が聞こえてただろうから、もう出てくることはないと思うよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます