第31話 力の理 〜 魔力修練 ep2 【閑話】
「パパとのお話も、けっこう楽しそうなことがわかったから、また今度お話ししようね。今日は、こっちの方が大事だから、話を戻すね」
「お、おぅ、そうだったね。で、マコトのいう
ジンから
「あはは、さっきパパが少し言ってたことだし、そのほかもパパの受け売りなんだから、目新しいものはないと思うけど、パパの見たての基になっているのは、斥力が使えて、揚力にとって代われるのなら、翼もエンジンも必要ないから、大きくならなくて済む。その理屈なら、エアボードでも問題なく空を飛べそうだということなんでしょう? でも、どうしてそこに思い至ったの?」
照れてしまった理由として、マコトが返した内容には、自身の知識は含まれず、ジンからの借り物の言葉を組み立てただけの説明だったからだ。
「マコト、お見事。パチパチパチ」
しかし、ジンはそんなマコトの言葉を絶賛した上で、問われた思い至る理由を返す。思いがけない絶賛の様子に恥ずかしさが増すマコト。
「そうだな。根幹にあるのは、一番最初に確認した『魔女の定番はほうきにまたがって空を飛ぶ』っていう一言だよ」
「え?」
「ほうきにもともとそんな機能が備わっているはずはないから、魔女が力を付与するしかないのかなって思うんだ」
続くジンの言葉があまりに意外で誰でも知る当たり前すぎる言葉だったことに驚くが、そこに解を見い出すジンの続きが気になるマコトだった。
「ほうほう、それでそれで? それが斥力なの?」
「お? よく知ってるね!」
「あ、うん、でも、それ知ってるも何も、さっきパパが言ってた言葉じゃん?」
再三、誉めてくるジンに、流石に続けて3度目となれば、違和感を感じてマコトは指摘する。
「そうなんだけど、興味ない人の心には残らないよ。マコトはキチンと聞いて認識して、使いどころを間違えていないのは、概念的に理解しているってことだよ。それを嬉しく思ったんだよ」
―― え? 使いどころ? 概念的理解かぁ、なるほど、そういうことね。
ジンの誉めるポイントがわかり納得するマコトは、嬉しそうに言葉を盾に照れ隠す。
「ん、まぁね。パパの娘だもん。当たり前だよ。ウフン」
「嬉しいこと言ってくれるね。でね、そう、さっきまでパパも、斥力が働いているのかと思ってたけど、うん、やっぱり違うね」
「ほぅほぅ」
しかし、その斥力も違うのだとする見解が耳に入り、マコトは続きの言葉を期待して頷きを返す。
「斥力は引力の対極、反対側にある力で、磁石が一番わかりやすい例なんだけど、重力に対する斥力は観測されたことはないんだよ。言葉としては「反重力」という名前もあるみたいだけど、観測はされたことがないらしい。斥力が存在するのは、引き合う部分を極とする、その対極が存在する場合の同極同士の間なのだけど、星や物同士が引き合う重力の場合は、対極が見つからないからね」
ジンの口から、何やら小難しそうな言葉が流れ始めるが、磁石を例に、斥力とその存在が未確認であることしか言っていない。ジンの説明はいつも要点が絞られた簡潔な文章になるから、マコトにとってはとてもわかりやすい説明となっている。そこで斥力が事実上ないに等しい現状を初めて知るマコトは驚きで返す。
「ほぇ~。そーなんだ。斥力って言葉があるくらいだから、磁力以外にも存在するのかと思ってたよ。マコも初めて知ったよ」
「ああ。仮に斥力が利用できるとしても、その得たい反発力に相応の現実的な大きさの引力といえば、地球の重力くらいしかないことと、磁石の反発の仕方を見ればわかりやすいけど、離れるほどに力が弱まるし、力の分布が不安定だよね。だから、魔女のそれには、存在するとしても斥力は向いてなさそうかな? という結論なんだ」
今、魔女が飛ぶための力として、斥力は該当しないことをジンは結論付ける。その説明を聞きマコトも納得で返す。
「そうか~、なるほど」
「それを受けて考えられるのは、物を向かわせる力だと思う。念動力とか、サイコキネシスとかの名称で呼ばれている、いわゆる超能力のことなんだけど、やっぱり、というか、まぁ、行き着くところはそれなのかな?」
次の候補として、ジンは念動力を挙げる。マコトにとっては、斥力よりもそれっぽく思え、マコトの瞳は輝く。そんな力を使えるとしたらと考えるとワクワク感が止まらないのだが、なぜかそれを話すジンの表情にやや陰りを感じるマコトだった。
「なるほど。というか、なんか残念そうだね、パパ」
「うん。まぁ、これまでもそうなんだけど、ここからは想像、パパの見立てで話するんだけど……」
「おぉ、まるで推理探偵。それでそれで?」
マコトが一瞬感じた、ジンの表情の陰りもなんのそので、話は進んでいく。ジンの推測論が展開されることに強く興味を持ったマコトは先を促す。
「まず念動力には、サイコキネシスとテレキネシスというのがあるらしく、サイコキネシスは物体にエネルギーを与えて、テレキネシスは見えない触手みたいなものを使って、それぞれ離れた物体を動かすというものらしい。これ覚えておいてね」
「了解」
―― サイコキネシスと、えーと、テレキネシスね。後者は聞き慣れない言葉……。
「で、アニメや映画なんかのサイコキネシスで、周囲の物体を乱暴に投げ飛ばす描写が多いけど、見ただけで操っているのは、あり得ないと思うんだ。少なくとも何かしらの方法でその物体に干渉しないと、エネルギーなんて伝わるはずがない。たぶんテレキネシスみたいな方法でエネルギーを送ったり、操ったりが必要だと思っている。そこでだ。マコトが言ってたオーラが関わってくると思うんだ」
突如、ジンの口から”オーラ”の単語が
「オーラが見える、ってやつ?」
「そう、それ。自分のオーラって、マコトはどう見えてるの?」
「うん、いつも見てるから、見慣れて気にならないレベルだけど、うっすら纏ってる感じだよ。それはパパも同じように見えてるけどね」
「そのオーラ、広げたり、戻したりできる?」
ジンからの突然のオーダーだが、絵空事ではない自分に
「うん、やってみる」
これまでそんな発想はなかったからやろうとも思わなかったことだが、マコトは自身のオーラの輪郭を強く意識して膨張させるイメージを思い描く。すると、最初はうまくマッチしなかったのか、ぐずつく感じだったが、自身の認識として、オーラという存在を立体的により強く意識することで焦点が明瞭にマッチするようになり、捉えられた輪郭はスムーズに拡張する。概ね10cm程度まで膨張したところで止める。
「あ、できた。戻してみる」
一度認識できると、感覚的に直ぐにオーラの輪郭をキャッチできるのか、自然な変化、圧倒的な速さで元の状態に戻る。元の状態付近では、その状態を思い出しながら、精緻な操作で微調整を重ね、そこに時間を費やした感じだ。
「あ、できた。こんな感じ?」
そんなマコトの所作とオーラの変化をつぶさに捉えるジンは感嘆の息が止まらない。自分にはできないからこそ、羨望の眼差しでジンはマコトを見つめていた。
そもそもできない人にはオーラすら視ることは敵わない。自分にはできないと思っていたこと、それが
「お! スゴいスゴい。自由自在だね。それ、どうやってやるの? パパにもできるかな?」
とはいえ、つい先程まで可能性すら感じていなかったことだ。振り返るジンの人生の中にそんな
「パパもやってみるですか? Oh! アナタモマジョナカマ、OK? あはは、マコも賛成だよ」
いつもと違うやや弱気なジン、その希望を求める姿を認めるマコトは、おちゃらけながらも、賛成の意と、自らの思いを言葉にする。
「先日の話を聞いてから、ずっと思ってた。マコたちにとって、エネルギーを補給できるくらい高い親和性と、その保有量も計り知れないパパは、普通の人とは一線を画しているでしょ? あとは使い方をマスターできれば、パパにも不思議な力が使えるんじゃないかな? って思ったの」
ジンの後押しをしようとするマコトの言葉は、今にもたち消えそうな可能性の灯りを
「マコトもそう思う? あはは、パパももしかしたら~、なんて淡い期待を持ってたりして。あはは」
「うん、思うよ。それも強くね」
仮定の言葉でも、ジンは言語化したことで、着実に意識に刻み込むこととなるが、さらにマコトが力強く後押ししたことで、それはよりいっそう明瞭化する。
「そ、そう? ただ、もしも斥力みたいな力を利用するなら、ワン・チャンあったかもだけど、自分の内部から発動する系の念動力だとすると、実現できそうなイメージが持てなくて、少し落ち込んでたんだ」
ただ、ジンの中では、ここまで話を繋げる論理展開の中で、マイナスに働く要素があったことを吐露する。
「ああ、だからさっき残念そうにしてたんだね? 普通に考えると、魔女にはできるけれど他の人にはできない。これは当たり前なんだけど、パパの場合はママと同調したとかで、ママにできる何かが共有できた、とか何とか言ってたじゃない? たぶんそのせいで、魔女因子を取り込めたんじゃないかとマコはみているの。だから、それが成長して、オーラも見えたり、放ったりできるようになったのではないかなぁ? まず視えなきゃどうしようもないけど、視えるは扱える一歩手前ってことではないの? そうだとすると、もしかすると、もしかするかもよ?」
「そ、そっかぁ。マコトは優しいね」
マコトの言葉が超絶ヒントとなり、ジンの中の自身が納得するための図式が小声でスラスラと構築されていく。
「うん。なるほど。視えるは扱える一歩手前かぁ。確かに。視えなきゃ始まらない
この時点で自身内の可能性評価はかなりの高さまで上がっていた。しかし、そんなジンの小声の呟きに追従していないマコトの中では、応援する意思を前面に励ましの言葉をジンに投げかける。
「ほら、マコトも初めての特訓なんだから、パパも同じ視点で一緒に悩みながらマスターしようね。さっきのオーラの操作は、視えるオーラの輪郭を立体的に焦点を合わせることが大事だったと思う」
「焦点? 立体的? お? なるほど。わかった。ありがとう。えっと、オーラを広げて、お、お、こういうことか? おぉ、できたできた。戻してみる。おぉ、こんな感じなんだな」
またもマコトの超絶ヒントがジンの感性にピッタリフィットしたのか、ジンは自らのオーラにフォーカスをジャストフィットさせる。意識でしっかり掴んだならば、もう後は自由自在に操れることをジンは自覚し、嬉しさが瞳から零れ落ちるように輝きを放つ。そんなジンの急変に、おっとりしていたマコトは目を見張り、喜びの声をかける。
「あれ? パパ! いけそうじゃない?」
精緻な操作で微妙な域までオーラの変化を操る姿は先程までと打って変わって、愉しそうだが真剣そのものでもあった。ここまで自身の力を振るえることが確認できたなら、ようやく次のステップへと進めることから、ジンは話を前に進める。
「ありがとな。マコトのヒントのお陰でやり方が掴めたみたいだ。じゃあ、本題に戻るぞ。この小石を持って、手のひらの上で浮かすことができるかやってみて?」
「こんな感じ?」
ジンに指示されて、早速マコトは小石に自身のオーラを纏わせ浮かそうとする。小石はオーラに包まれると、一瞬ホァっと灯り、グズグズ感の揺れを感じていると、浮かす要領を得たのか、小石は宙に浮かび停止する。その間、その変化の表れが見えるたびにマコトの瞳は少し大きく見開き、空中停止する頃には口も開いて声にならない感動の声色が漏れ、すっかりそんな浮揚状態に酔いしれる状態だった。
「さすがだな。ホントに魔力を行使できるんだね。ホントはオーラに包まないでの挙動を確認したかったのだけど、そこまで自然に包めるようならそのままでいっか」
「あ、そうだったの? ごめんなさい」
「あぁ、大丈夫。じゃあ、今度はパパがオーラに包まないでやってみるよ。これができれば、他もできそうな気がするから、ちょっと緊張するなぁ」
「落ち着いてやれば大丈夫よ。パパ」
「おぅ。やってみるよ?」
ジンの手のひらにある小石は、マコトと同様のグズグズ感に小さく震えるところから始まるが、そこから浮き始めるときも、ガタガタ小刻みに震えながらゆっくり浮揚していく。
―― お、浮いた?
とマコトが思っていると、どこかにフワッと弾け飛ぶ。マコトの表情は『あーーっ』と残念がるものだったが、ジンの表情は満足げだった。
「よし、もう一回」
今度は最初も浮揚時も小刻みな震えなく浮き上がる。しかしまたフワッとどこかに弾け飛ぶ。またマコトは残念そうに、ジンは満足そうに対象的な表情を見せる。
「よし、OK」
「パパ、ドンマイ!」
「あ、あぁ、うまくいってないと思って心配してくれてるのか?」
「うん」
心配するマコトに、そうではないことをジンは告げる。
「違うよ。バッチリ想定通りなんだよ。もう一度やってみるよ。今度はマコトの目にもうまくいっているように見えると思うよ。ほら、マコト、どうだ?」
今度は、マコトと同様の空中静止状態だが、マコトには先程までの状態に対するジンの意図が見えずジンに理由を尋ねる。
「うん、きれいに空中静止してるね。でもどういうことなの?」
「うん、最初、弾け飛んでたのは、オーラに包まないで浮かそうとしてみたけど、うまく静止できなかった。最後のは、マコトと同じようにオーラで包んでやってみた。全部思った通りの結果で満足したよ」
説明を聞かされても、全く理解できないマコトは再び尋ねる。
「いやいや、わかんないよ。何がどう想定通りなの? パパ」
「んふふ、気になるかい?」
「うん。もぉ、焦らすのはなし。早く教えてっ!」
「あいよ。えっとね。オーラで包まないと、浮かそうと加えるエネルギーのベクトル、あ、力の矢印みたいなものがただ刺さって弾け飛ぶんだ」
「ほぅほぅ」
ジンは、手を使ったジェスチャーで説明し始める。左手の指で小石を模した◯を作り、右手の人差し指を加えるエネルギーのベクトルに見立て、真下から突き刺すとその芯からのズレによって決められる方向に弾け飛ぶ様子を見せる。
「普通に小石を指先に留めるのって難しくない? 力は一点に向かうのだから、ホントは針でやるのがより近い状況になるんだけど、そっちのほうが難易度が高くなるのもわかるでしょ?」
「うんうん、なるほど?」
今度は突き刺すほどの力ではなく指先に留める程度で圧を掛けるが、うまく仮想小石の◯の芯を狙えていないため、留めようとしてもグラグラと不安定となり、いずれかの方向に零れ落ちる。
「さらにオーラなしで空中静止させるには、重心真下から正確に射抜くように合わせた上で、飛ばず落ちずの微妙なコントロールが必要になる。まぁ、精緻な制御の練習したいならおススメだけどね。例えるなら、細く高速に噴出する水の上に停止させるようなものかな?」
続けて細かく細かく制御することでグラグラしながらも、仮想小石の◯の中心付近を絶えず調整し続け静止に近付けるが、いずれ零れ落ちる状態を示して見せる。
「なるなる。そういうことだったのね」
「今度はオーラで包むほうだけど、包むことで小石の重心はあまり気にしなくても良くなるし、オーラで繋がった状態に等しいから、力をぶつけるのではなく、包んだオーラ全体に対して力を付与できるし、離れる近付くの細かな制御と感知が可能になるから、とても簡単に空中静止させられるって寸法さ」
今度は、左手の指で形どる◯を大きく包み込むように、右手で大きな◯を作る。これがオーラで包んだ状態であることを示し、さらに仮想小石の左手は抜いて、右手の仮想オーラの大きな◯を左手の手のひら全体で持つように支えるイメージを見せる。
「おぉぉ、スゴい、なるほどぉ。理屈が通っていて、しかもわかりやすい。さすがパパだね」
「そっか? ついでに言うと、オーラに包まないほうは、もろ、サイコキネシスの説明になるね。オーラで包むほうは、サイコキネシス+テレキネシス+α、って感じかな?」
ジンは説明に合わせて、先程の2種類のジェスチャーを織り交ぜる。
「スゴーイ、わかりやすい。パパ頭いい。その+αが肝心なところっぽいけどね」
「おぉ、理解が早いね。じゃあ、今日はもう一つ挑戦してみようか?」
「そうしよう、そうしよう」
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