第30話 お浚い 〜 魔力修練 ep1 【閑話】
今日は初めての魔法の修練を行うことになり、ジンとマコトの2人は誰も近寄ろうとしない岩場と草原が
人が近寄らないその理由は、少し奥に進んだ厳しい岩場付近に、ハイエナやその他の猛獣が潜んでいる確率が高い場所だからだ。マコトも一人では決して近寄らないところだ。
今日はジンがいるからか、マコトの顔色に全く不安は感じられない。一応、念のための銃もジンが携行しているが、ジンいわく、魔力の扱いの修練にちょうどよい練習相手になるらしく、襲ってくることを期待しているとのこと。さらに今日は大きな音を立てることになるから、たぶん近寄らないだろうとのことだ。ジンの言うことはいつも間違いないからと、マコトは修練に集中するようだ。
ここまであまり触れてこなかったが、ジンはソフィアのことはそれとなく察していたようだ。ただ、今回のマコトの相談をキッカケに、ソフィアとマコトが魔女であることを公然の事実として、話題にすることができるようになったらしく、ジンは早速その話題に触れる。
「魔女の定番はほうきにまたがって空を飛ぶことなんだよね?」
「そうそう、実はマコも知ったばかりだから詳しいことはよくはわからないのだけど、飛ぶことにはすごく興味深々なんだ。マコも魔女らしく飛べるかなぁ?」
ジン自身は魔女と関係ないから自分で飛べるわけじゃないが、ジンも興味深々らしい。ただ修練開始にあたって、マコトと意識を共有するために確認したいことがあるようだ。いわゆるお
「うーん、飛ぶことの前に大事なことだと思うから話するけど、魔女認定されると、たぶんこの時代でも迫害される可能性は大きいと思うよ」
「あぁ、先日の家族会議でも同じようなことを聞いたね。でもアニメとかでは魔女が愛される側のキャラだったりするよ?」
マコトは魔女の歴史も聞いて理解しているつもりだが、それでもアニメなどで知る魔女への親しみは捨てきれないようだ。
「確かに昔よりは親しみがあるかもしれないけれど、どんな時代でも必ず騒ぎ出す人はでてくるんだよ」
「そうなの?」
マコトが疑問系で返すあたり、まだ飲み込みきれないことがわかることから、ジンは一つ一つを解きほぐすべく言葉を続ける。
「うん。人は、わからないもの、特に得体のしれないもの、それらに異常なくらい敏感に反応して怖がったり、意に添わぬものは排除したがる生き物なんだ」
「うん、ママも、シャナも言ってた。器ちっちゃ過ぎだよね」
「そぅ。基本的に人間は臆病なんだよ。パパもママもマコトも含めてね」
「マコは怖くないよ!」
マコトの怖さの概念は、どうやら眼の前に在る直接的な恐怖であることを感じ取ると、ジンは別の角度から見る怖さについて付け加える。
「ん、そだね。でも怖いと思う感情は、“知らない” ことから生まれるもので、知っていて、不安要素の対応ができているなら、何も怖がる必要はない」
この一言はマコトの意識の扉をひとつこじ開けることに繋がったようだ。
「あ、そっか。マコも知らないのは怖いかも。マコの場合、海が怖い。何がいるかわかんないもん。でも陸はたぶん平気。自分の目で見えるから。それにサバンナのライオンもまともに闘ったら負けて食べられちゃうけど、早く見つけられるし、習性も知ってて、必要な武器や道具とマコの脚力があれば、絶対逃げられる自信がある。だからライオンが怖いとは思わない……」
そう言いながら、ふと視点を変えた考えがマコトの脳裏をよぎり、マコトは少し意見を変える。
「でも普通は怖いと思うよね。それでも檻の中のライオンなら近付ける。これは檻があれば危険が及ばないって知ってるからだ。サバンナのライオンも、マコは危険回避できる
素養が優秀なだけに、一つの突破口を見つけられたら、自身の思考の中での論理展開は急速に進むマコトだった。
それを耳にしながら、ジンは幼き我が娘ながら驚きの思考力なのだが、展開されていく一つ一つの論理考証の在り方が秀逸、というよりも、自身の思考回路に似たところがあることを感じ、一つ一つに頷きを返しながら、もしも自身に優秀な弟子がいたなら、こんな感じなんだろうと、嬉しさに頬が緩むジンだった。
「さすがマコト。理解が早くて助かるよ。話を戻すと、アニメのキャラの場合、もうすでにほとんどの視聴者は、キャラクターの心模様に至るまで良く理解して、というか、もう感情移入までしちゃってるんじゃない? キャラに共感できてるなら、たとえ悪魔であろうと魔女であろうと、キチンと理解した上で、たぶん応援してるんじゃないかな?」
「ほぉ~……」
おそらくまた一つ新しい視点の扉が開かれたのだろう。マコトは目を一瞬大きく見開くと脳裏に刻み、視線を落としてマコトの脳内で過去に観たアニメシーンの記憶が超速で展開される。そうしてジンの意見の正しさに納得しながら肯定で返す。
「……うん、確かにそうだね」
「じゃあ、話を戻して、ある日、ほうきにまたがった人が空を飛んでいるのが目撃された。ふつうの人はどう感じるかな?」
「え? あぁ、「魔女?」とか、「誰だろう?」とか?」
怖さや共感への理解が進んだところで、ジンは魔女の話に立ち返る。すると、マコトはアニメを見る側の意識の言葉を返す。
「うん、近代のアニメや物語に通じているとそういう反応かもしれないね。だけど、そうじゃない、たとえば太古の人なら、人が空を飛んでいることに驚愕や畏怖の感情でたぶん大騒ぎになると思う」
先ほどとは反対の、共感なき存在に対する知らない状態について、ジンは問いを促す言葉を返す。
「あー、ナルナルー、そうかもしれないね」
マコトの認識・理解が進んだこともあって、ようやく意識が近付いたことが確認できたからか、ジンは頬を緩めて満足そうな表情を見せる。
「だからね、魔女ってことを知られることはできる限り避けた方がよいと思う。魔女裁判の歴史も知ってるはずだから、恐れおののく人達がどれほどの狂気を振るうかも計り知れないと思うよ。反対に、もしもみんなに上手く知ってもらえたとしたら、知らないことによる狂気が無くなるかもしれない。だけど、今度は別の厄介な問題が浮上すると思う」
「別の問題?」
「そう。今度は正しく理解した上で、その特殊な力を軍事利用しようとする輩が出てくることになる。人殺しに利用されるのも嫌だし、その研究のために実験動物にされかねない」
「人殺し? 実験動物? ……。イヤー! ありえない。ありえない。ありえない」
軍事利用については、ソフィアからもシャナからも、似たような話を聞いたが、様々な理解の進んだ今が最も響いたようで、想像するだけで震えがきそうな話だと、マコトは両肘を抱え込み目を固く瞑る。
この話は今これ以上深堀りする必要はなく、魔女について、今認識すべきことが十分に理解できたものと判断し、ジンはお
「まぁ、どう転んでも、魔女って知られることがよいことにはならないって、わかってくれたのならそれでいいよ。マコトもママも、パパの大事な宝物なんだから。もう他の誰かに打ち明けようなんて思わないでしょ?」
パパの思いにくすぐったさを感じながら「うん」っと呟くマコ。頬がニヘッと、目もへの字だ。
「あとね、パパは「魔女」って言葉があまり好きじゃない。まぁ、いまや定着して、通りも良いから、パパも使うけど、この「魔」って文字は「悪魔」のことなんだよ。悪魔との契約によって、仁智を超えた力を得たものと見なされているから、宗教世界で忌み嫌われる対象になっている。でもママもマコトも、悪魔になんて会ったこともないでしょ?」
ジンは、そもそもの魔女という存在の由来にも触れる。これはスンナリ理解し、マコトは心に不満を漏らす。
―― 全く関係ないのに魔女呼ばわりされていることが納得のいかないところだね。
「それと、ただ飛ぶだけなら飛べると思うよ。人に見られなければいいのだから、アフリカの草原は見通しが良いし、マコトの超視力なら、10km先のものが何かくらいわかるんだよね? それに加えて、マコトの気配感知? じゃない、オーラだっけ? それなら人とそれ以外もカンタンに色識別できるってことなんだろう? でもね、現代は飛行機の登場とそれに関わる進化が激しかったせいで、迂闊に飛んだら、ぶつかる危険もあったり、航空法にも抵触するし、空は航空管制という世界で、常にレーダー監視されているから、見つかったらいろいろ大変なんだよ」
今度は現代の空事情について、ジンは話を進める。レーダーで空が常に監視されていることは、マコトもアニメを見て知っていることだから、大変さはすんなり理解を示す。
「うぇーっ、がんじがらめの金縛り状態だね」
「スクランブルなんてかかったら、国家レベルの問題に発展するかもだし……。昔は人が空を飛ぶことなんてありえなかったから、こっそりひっそり飛ぶこともできたけど、今は飛行機の飛ぶ速度間隔と空間間隔でひっきりなしに飛んでいるから、航空管制をキッチリしないと空中衝突の危険があって、管制レーダー網がビッシリ張り巡らされている時代なんだ。特に日本なんかはレーダー管制圏でほとんど覆われているから、自由に飛べる空域はほぼ皆無といえるくらい。そんなだから、迂闊には飛べないというのも理解できるだろう?」
そんなジンの話を聞けば、昔なら飛べていた魔女だけど、今から飛ぶことを考えていたマコトにとって、そもそも飛ぶことすら困難であることを知って、マコトは自然に肩を落とす。
「飛べない魔女ってわけかぁ……」
「諦めるのはまだ早いよ。レーダー網があるのなら、それを掻い潜れる方法だってきっとあるし、そもそもレーダーに反応しないなら検知されることはないはずなんだ。だから金属を使わないことはもちろんだけど、今はステルスといって、レーダーに捉えられにくい技術も進んでる。やり方によっては何とかなると思ってる」
「え? そ……なの?」
肩を落としていたところに、一筋の光明が差す感覚から、途端に目を輝かせるマコト。難しいところは不明だが、絶大な信頼を置くジンの言葉で、いつも控えめに表現するから、マコトにとっては、『なんとかなる』はイコール『絶対できる』と同義であった。それゆえに、マコトの中で『飛べない』可能性は立ち消えたことと、そんなジンに対する『凄い』への尊敬、『なんとかする』頼もしさ、多忙の中で、なんとかしてくれようとする愛情を感じて、マコトは心を震わせる。
「ああ。パパだって、本当は自分も飛んでみたいけど、できないものは仕方ないし、そこは割り切ってて、こんなに間近に存在する魔女の起こす奇跡を素直に感動したいんだ。だから飛べるようにサポートするつもりだから、たぶん大丈夫。それと、その不思議な力がいくらすごいとしても、未知の新しい力とはいえ、そこに影響されるものは自然の摂理から逃れることはできないはずなんだよ。そこに物理の法則が適用されるのなら、パパにも力になれることがあるはず。魔力? というのか、その不思議な力を闇雲に振るっているのはすごくもったいない話だと思うからね」
今度は、どうやって飛ぶかというフェーズだ。自然の摂理や物理の言葉が出てくるが、ソフィアからも似たようなことを聞き、表面的知識だけで中身には理解が及ばないマコトだった。今一歩前進する流れの中で、飛ぼうとする直前の今、具体的な理解が必要なものとマコトは考え尋ねてみた。
「なんか難しそうに聞こえるけど、それってどういうこと?」
「魔女のこと、パパはほとんど知らないから、わかるとすれば、最初に言ったほうきにまたがって空を飛ぶって話くらいかな? その路線で説明した方がわかりやすそうかな? それで魔女はどうやって飛ぶのかな? って、考えてみたんだ」
早速ジンは講義のような説明を始める。ジンの説明はいつもわかりやすい。だから絶大な信頼を置いているマコトだが、今回も話の中の注目点は小さな一文に集約されている。優秀なマコトにとっては少しだけ簡単すぎる内容なのだが、だからこそ焦れったさを生み、食い付きもよく、先を促すマコト。ジンの導入説明はまず一つ成功する。
「ほぉ。それでそれで?」
「いったん魔女の話は置いといて、普通に飛ぶためにはどんな仕組みが必要かというと、誰でも思い付くことだけど、翼か羽根が必要だよね」
「うんうん」
これも簡単だ。誰もが知っている、普通に飛ぶために欠かせないものが語られる。マコトは頷きながら続きに耳を傾ける。
「鳥や昆虫にあるそれは、そんなに大掛かりには見えないよね? 鳥も昆虫も身体が軽いから、自分の力だけで羽ばたけるんだ。それに対して人間は大きく重いから、羽ばたけるには大きな翼と筋力が必要なんだけど、かなり厳しいよね。大きくても空を飛べた恐竜が大昔にいたみたいだけど、体はガリガリだった。鳥なんかだって、毛がなければかなりガリガリだよ」
「おー、そだね」
羽ばたくために、自重が軽い必要があること。昔いたらしい飛竜を例にするから、余計に納得するマコトだ。
「もし人間が鳥のように自分の翼で飛びたいなら、ガリガリにならないと軽くならないし、寒くても重たくなるから服は着れない。それがクリアできたら翼ありの進化も可能かもしれないけど、それ、もはや人間じゃないよね」
人間が飛べたならの仮定の話だが、人間というスペックである以上、翼で飛ぶ未来は不可能であることが語られる。人間の顔で、身体がガリガリの姿を想像してマコトは思わず吹き出す。
「プッ。アハハハ、そだね」
「それで、昔の人は鳥の翼を真似た動きの飛行機を作ったけど、やはり構造や強度に無理があってね。人間とさらにそれを支える構造物の重さがドンドン増しちゃうからね」
「うん。なるほど」
今度は鳥の翼の構造を模した昔の人の話だが、やはり重さの関係で困難であったことが告げられる。マコトもすんなり納得する。
「そこでたどり着いたのが、空力的浮揚の方法なんだ。高速の空気を纏う翼の上下の気圧差で浮力が生まれる特性で、エンジンで推力=前へ進む力を得て、スピードで浮力を得て、梶を切って思い通りに飛行する、という寸法さ」
「おぉ。空力的浮揚っていうの? マコもよく知ってる飛行機の話だよね?」
ジンは現代の飛行機の話に入るが、その仕組の詳細はマコトも知らなかったから、真剣に耳を傾ける。深く詳しい内容は他にあるものの、マコトが理解を進めるには、『空力的浮揚』という言葉がピタリとハマる。エンジンで前に進むことも、舵を切って進行する向きを変えることも、紙飛行機やお風呂で遊ぶ船の
「ああ、そうだな。でも、その結果、飛行機は小さくない。重さに関する同じ理由だね。ただし、その代わりに大きくすることで、たくさんの人を運べることと、スピードもさらに速くすることができた。ただ、その分沢山の推力が必要だから、エンジンも燃料も、どんどん大きく重くなっていった」
「おー、なるほど。『空力的浮揚』を見つけられたことで発展したってことね? 流石だね。凄いね人類」
大きくはなるが、成功する糸口発見から研鑽を重ねて、そんな発展を遂げる人類にマコトは心内で絶賛する。
「そういうことだな。マコトは理解が早くて助かるよ。それともう一つ、推力重量比というのがあって、進む力と重さの比率なんだけど、重さよりも推力の方が大きいと、ロケットみたいに天に向かって進むことができるんだ」
今度は別の切り口でロケットの飛行方式について触れる。この場合は、『空力的浮揚』ではなく、推力のみによる力任せな浮揚だ。ここで必要とされる推力はあまりにも大きいため、通常の飛行機にはそのような能力はないことも付け足す。
「おぉ、そういうことか」
「でも、ほとんどの飛行機はそこまでパワーがないのが普通で、一部の戦闘機くらいかな? 垂直上昇ができるのもあるにはある」
「ふーん」
ジンはもう少し飛行機改良の変遷などに触れていくつもりだったが、マコトの興味が乖離していこうとする雰囲気を掴み取ると、自身の熱の入れ方を顧みて、方向修正を図る。話の要点だけは網羅されたはずだからと、本題の魔女が浮くための考察に話は移行する。
「あ、何が言いたいかというと、浮く、ということが難しいから、翼が必要という話になるけど、浮きさえすれば、翼は必要なくなるよね」
「なるほど。でも、魔女が飛ぶのに翼なんて使ってるっけ?」
ここからが本題となるが、現実的に飛行機が飛ぶために必須の翼が、浮くならば必要ないということに着目した説明を聞き、マコトも見たことはないが、文献上で知る魔女の飛行スタイル=箒に跨る飛行を思い出しながら問いかける。
「そう、それで本当に飛べる、ということは魔力で浮いている、ということ。これはおそらく魔力で斥力を付与できているのだとみている。そうであれば、すごい飛行が可能になる」
ジンは魔女が浮く仕組みの推測論を投げかける。ここまでくれば、本当かどうかは別として、そういう理屈しかありえないことをマコトは理解しジンに確認する。
「えーと、ということは、ほうきに浮く力を与えているってことなの?」
「うん、そういうことになるね。ほうき自体に特殊な力があるとは思えないし、たまたま周りにあるものの中で、跨がるのに都合がよかったのじゃないかな?」
ジンの中では、セオリー通りに、箒に対する力の付与を進めるつもりだったが、マコトは別の視点を思いつく。
「じゃあ、パパ、別にほうきじゃなくてもいいってこと? そうなら、マコはエアボードができるようになりたい!」
「おぉぉ。うん、それいいかもね。お手軽感もあるし、なんか、サクッとカッコいいね。パパの見たてが正しければ、たぶん実現できると思うよ」
そんな目から鱗が落ちるようなマコトの意見に、ジンは感嘆を隠せない。この一瞬で、ジンもすっかり乗り気でその方向性を基軸とするようだ。マコトの思いには、過去に映画やアニメで観たシーンが関係していたようだ。
―― マコがやってみたいのは、映画やアニメでも登場したことのあるエアボードだ。
―― まるでスケボーで地面を走らせるような感じで、地表スレスレだけれど、宙に浮いたまま滑るように進むアレ。
―― 実際にアレを実現する機械の開発は、今の科学じゃ絶対にムリだと思う。
―― パパの説明を聞く前は「できないのかな~? できたらいいなぁ」の疑問系的願望だったけど、これまでに聞いてきた機会学習も併せて、説明を聞いた後の今なら断定できる。
―― 「今の科学では絶対無理。不可能」っと。
―― しかし、魔女なら、それができるってことだね。
マコトはこれまでの経験や聞き知ったことから、詳細な理屈はわからなくとも、いろんな物の性質や量、そこに加わる力の性質や向き、速さ、強さがあるとすると、それらのザックリとした概念の関係図のようなイメージを持てるようになってきた。
そして真っ直ぐ考えればできないことも、知恵を絞ればできることが多いこともわかってきた。例えば、紙の紐が一本あり、穴に落ちた三人の子どもを救いたいけれど、それほど時間は残されていない。紐はひとりの子どもを引っ張る途中で切れるほどの強さしかない。
適切な例ではないかもしれないが、何ができて何ができないのかの見極めが重要になる。何がどの位できて、できない理由はこうだから、と突き詰めていけば、自ずと答えは浮き彫りになって還ってくる。
特に力を考える場合は、見た目のイメージだけでは測れない
しかし現代人なら、いくつかの技を既に知っている。紐に長さがあるなら、二本、三本に束ねればよい。もっと余裕があるなら、編むこともできる。バカでかい船を繋留する頑丈なロープも解けば細い糸からできている。
そう、知恵と工夫でいろいろ解決できることは多い。穴が深いときは、長い紐と括り付ける木と滑車のようなものが利用できるなら小さな力でも引き上げ可能だ。他に利用できるものがあれば、別に紐にこだわる必要もない。梯子や踏み台があれば、それを投げ込んでも解決できるかもしれない。浮き輪や水があれば浮力も利用可能だ。
知恵と工夫と言ったが、それは発芽できるイメージ力なのだと思えるようになってきた。
森羅万象、すべての物事には、常に「
しかし、マコトたちのこの特殊な力があるなら浮力と機動性を確保できるわけだ。そう、常識的な理には、この魔女の不思議な力は加味されていない。磁石の同極の場合に反発する力のような「斥力」を使えるのなら、浮力問題は解決して、翼やエンジンを含む大型化は考慮不要となるはずというわけだ。
できるかもしれない光明が差してきているように感じるマコトは、乗り出すように問いかける。
「パパの見たてって、魔女の不思議な力を
「お? おおぅ、まさにその通り。マコト!! おまえ凄いな! 驚いたよ」
「エヘヘっ、パパの娘だもん。当たり前だよ」
―― ちと嬉しい。
―― 誇らしくなってくる。
「ママの頭脳の優秀さにも驚かされるけど、ママは物理系は得意じゃないんだ。マコトはパパに似たのかな? うんうん」
「うーん、ママにも同じようなごとを言われたよ? たぶん両方に似たんだよきっと」
「そ、そっか。嬉しいような、ほんのちょっとだけ寂しいような」
「あれぇ? パパはママが可愛くって仕方なくて、一目惚れで即日プロポーズしたって聞いたよ? だったら、マコもママに似たほうが嬉しいんじゃないの?」
「そ、そうだけど、パパの娘でもあるんだから、パパに似たところもあったっていいじゃん?」
―― アハハハ、パパ、膨れっ面で拗ねてるよ。
―― ママの言った通りだ。弄りがいがありそうだよ。
―― あ、いかんいかん、脱線してしまう。
「パパとのお話も、けっこう楽しそうなことがわかったから、また今度お話ししようね。今日は、こっちの方が大事だから、話を戻すね」
「お、おぅ、そうだったね。で、マコトのいう
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