第29話 アイドルユニット構想

 ……

 マコトの生い立ちのエピソードから戻る。


「と、まぁこんな感じかしら? マコちゃ、大体わかった?」

「うん。やっといろいろ繋がった。確かに。生まれた頃からの断片的な記憶があって、その頃は周りのことを見聞きして知ることができても、それを適切に判断できる自我ではないから、何をしでかすかわからないのは確かにそう。ママとパパ。キチンとマコを守り通そうとしてくれてたんだね。今更だけどありがとう。でも、マコはそんなに自然にまりょくを揮えたんだね。今のマコはまだ何ができるのか、イメージがさっぱりだけどね」

「そこはオレが一緒に検証しながらやっていくつもりだから、たぶん大丈夫じゃないか?」

「そうじゃの。婿殿が一緒なら危険なことにはならないだろうし、まずはまりょくを出せるかどうかの初歩的なところからじゃから、順番にやっていけばいい。まりょくを出せる下地ができた頃にソフィアから手ほどきを受ける、そんな流れになるじゃろ」

「うん。パパもシャナもありがとう。後でママから本格的な手ほどきを受ける手筈かぁ。そのときが来たらママよろしくね」

「わかったわ、マコちゃ」


 マコトの生い立ちも明らかとなり、皆が皆、一通りの疑問が晴れた状態となる。そんな雰囲気を捉えて、今度はソフィアが別の話題を切り出す。


「あのね? みんな。ちょっと聞いてくれるかな? さっき私のエピソードを振り返ってくれたから、大事なことを思い出しちゃった。結局私は交換留学生になれなかったから、おじい様との約束を果たせなくなったけど、いくつか心残りがあるの。N国の未来に向けてエンタメ促進するってのと併せてやるつもりだったアイドル育成のことなの」


「え? アイドル? 突然また何の話なの、ママ?」

「え? アイドル知らないの?」

「いや、知ってるけど、話跳びすぎでしょ?」


 いっつもママの話は跳び幅が大きいんだよ。まぁ、ずいぶん慣らされたけどね。ただ、そこで終わらないのがママの常なので、少しだけ身構えておこう。


「そう? うん。まぁ、当時の話だけど、N国の金髪碧眼の可愛い女の子ユニットを作って、なんて思考を凝らしているうちに、なんだか自分もやりたくなっちゃって、日本に行ったら、アレやってコレやって、とか考えてたのに、結局行けなくなったでしょ? 「見た目」的には、私、まだまだイケそうな気がするんだけど、さすがにマコちゃ産んでアイドルはないかな~、って思うの。でもね、N国に根付かせたいお仕事でもあるの。そこでマコちゃ? アイドルになってみる気はない?」

「えぇぇ!?」


 来たー、びっくりドン。そう来たかー。あ! パパも目が点になってるよ。


「マコちゃ、私に似て可愛いもん。すぐにじゃないわ。5歳じゃさすがに幼すぎるから、8歳位からかな~? だから3年後に向けて準備を進めるの。あぁ、でも、別にマコちゃをアイドルにしたい、っていう夢があるわけではないのよ。あくまでもN国の女の子たちによるアイドルユニットを立ち上げるのに、牽引役が必要だと思うの。アイドルも甘い世界じゃないわ。アイドル志望も可愛いだけなら五万といて、成功するのはホンの一握りしかいないから、そんな激戦区の中で、日本人の感性がわからないままでアイドルとして勝ち残れるわけがない。直ぐに目標も見失って潰れてしまうのは、目に見えているから、なんとかそれを回避するためには、教え導く旗印の存在が欠かせないわ。その点、マコちゃは、もう無茶苦茶可愛いし、賢すぎるし、日本人の感性も染みついているし、身体を動かすのも得意そうじゃない? 何より、精神的な支柱となりえる強さを持ってると思うのよ。ほら、歌って踊れるとびっきりのアイドル誕生でしょ?」


「この愛くるしい、伸びのある声が、きっとたくさんの人の心を鷲掴みにするのよ。あぁ、なんて罪作りなのかしら? はっ! とっても大事なところが未確認だったわ。マコちゃ、あなた歌うのは大丈夫だったかしら? 音痴じゃないわよね」


「えぇ? ちゃんと歌ったことないからわからないよ。それに自分では歌えているつもりでも、外しているのに気付いていないから音痴って言うんでしょ? だから誰かに聞いてもらえないとわからないよ」


「それもそうね。あら? そういえば日本にいたとき、聖子ちゃん歌ってたわよね? あー、思い出したわ。ふーん♪ふ、ふん♪ふん♪ふん♪、♪ふんふふーん♪。あー、イケルイケル大丈夫。問題ないね。うーん。なんて愛らしいのかしら?」


 ママは、マコが歌っていたときの情景を思い出しながら、声、音程、リズムが大丈夫だったか反芻し、その懐かしさと愛らしさに頬を緩ませる。


「そ、そぅなの?」

「うん。声も可愛くて伸びのあるいい声だったわ。それから、金髪碧眼の女の子って、お年頃を過ぎて凄く綺麗になるけれど、ターゲットとする日本人市場だと、傾向的に日本人男性より背が少し大きめだったりするでしょ? たぶん圧をかけてしまう気がするの。だから日本人を意識するなら、9~12歳くらいのあどけないふわふわ金髪碧眼の女の子たちのユニットだったりすると、もうドッキドキな妖精たちにしか見えないと思うの。名前は、碧い妖精たち『Azure Pixies』なんてのもいいかな? そういうタイプのアイドルユニットって、確かなかったと思うから売れそうな気がしない?」


 うん。確かに金髪碧眼のゆるふわ可愛い幼い女の子なら、見た目だけで日本のアイドル熱狂男子も、もしかしたら女子にも、受け入れられるかもしれないね? でもそれだけだと一過性アイドルで終わるから、しっかり刻み込める、覚えて貰いやすい曲と、ゆるふわな静のイメージに、キレや躍動を動のパフォーマンスを加えられれば、あぁ、ところどころ、要所を捉えて天使の微笑みを混ぜれば、ズキューンとハートを射抜ける可能性はあるかな?


「うーん、ノリのいい曲に、キレのいいダンスと、甘い笑顔が出せるなら、売れるかもね?」

「ほら、そういうところよ。今、頭でシミュレーションしてくれたでしょ? 金髪碧眼の少女たちが売れそうなイメージを。その発想力と頭のキレが、牽引するための指標を指し示せるってことよ!」


 なるほど、そういう役割かぁ。確かにアイドルになる女の子たちは、自分のことで手一杯になりそうだもんね。


「あぁ、うん。なんとなくわかったよ」

「それと、そこから発展して思い付いたのだけど、さっきのアイドルユニットとは別に、魔女の里からもメンバー選抜して、魔女だけのユニットを作ろうと思う」


「だ、大丈夫なの? 表舞台に出して」

「こちらは、性格や考え方、家柄、何よりも信頼性を厳しく審査して、何かあったときにN国のために力を貸してくれるメンバーにしたいの。どうやるかはこれからだけど、どうにかして漆黒因子を付与して、黒髪黒眼で活動させる。そういう特別な力と名声が得られる代わりに、通常は魔力や正体は封印・隠蔽するよう厳しい誓約は課すわ」


「その誓約。次の世代にも適用されるの? 普通の契約とかと違って、血は勝手に引き継がれるから、拡散させることは好ましくないのではない? 一歩間違えば、魔女の暗黒時代が始まる可能性が否めないよ? 一時的な力付与というのができるのならいいけど」


「あぁ、そうか、そうだね。漆黒因子の扱いは含まないほうがいいのかな? うん。マコちゃは良いアドバイザーだね? でも、魔女の血脈も強化しておきたい気持ちはあるのよね。方法はもっと考える必要があるわね。話が聞けて良かったわ。それでも、魔女の里に活気をもたらすことができるから、漆黒因子はなしでも、やってみたいわ。それでみんなに楽器持たせてバンドにするのはどうかしら? わからないくらいの魔力を混ぜて、ちょっと神秘的なステージを演出するの。バンド名は漆黒の妖精たち? 『JET BLACK Pixies』なんてのはどうかしら?」


「妖精なのに黒、みたいなギャップ狙いなの? まぁ、神秘性は売りの要素になれそうだけど、アタリハズレが激しい気もするね。まぁ、マコは関係ないからいいけどね」

「もちろん、こっち、黒のユニットを立ち上げるときは、マコちゃもメンバーよ。漆黒バンドだから、マコちゃがやらずに誰が纏めるのよ? そのときは、碧のユニットはときどき様子を見る程度でいいわ」


「えぇぇっ! 無茶振りしすぎでしょ?」

「マコちゃなら、なんとかなるわよ」


「それとね、一度、ジンとマコちゃの御披露目を兼ねて、王室のお父様、お母様と、おじい様、おばあ様に会いに行こうと思ってるの。もちろん人知れず、密会にするけどね。4人とも、2人にスゴく会いたがってるそうよ。この4人は魔女の事情もわかっている人たちだから、立場さえわきまえれば、本音で語り合える人たちなの。そのときに、アイドル育成の話をしてみようかと思ってるし、それが通るなら、その中に魔女の里のプランも混ぜ込むつもりよ。もしやるなら、私がマネジメントする必要がある、というかもうプロデュースよね? ただ、私は世界中に面が割れてるから、黒髪にサングラスすれば大丈夫だと思うんだよね」


「う、うん。ど、どーかな?」

「あら? 心配? じゃあ、もう少し検討が必要ね? それから、これからの生活ではマコちゃの学校のこともあるから、ここS国じゃあ、ロクな教育が受けられないから、日本かN国に拠点を移さないといけないわ。ジンの今後の仕事の予定はどうかしら?」

「あぁ、もう少しで一段落するから、それ以降は必要に応じて、出張として一時滞在する形になると思うから、ここの施設はそのまま残すけど、拠点は日本に移す予定だよ」


「じゃあ、日本拠点がいいかしら?」

「それに、N国に行くのは、今はまだ王室の関連からまだ厳しいのじゃないか? もし行くとしたら、オレとマコト、それに、ソフィア自身だって、どういう形になるんだ?」


「そうね。N国の経過はもう少しだけ見てみたい気がするから、やはり日本かしらね。まぁ、前みたいに三人でアパート暮らしも悪くないわ。ちょっと狭いのもガマンできるわ。それか、あなたの仕事が問題なければ、日本だけど、郊外の田舎に広い土地を買って、ここみたいな大らかな生活するでもいいわよ?」


「あぁ、日本で問題ないなら、今度は長めになりそうだから、都心のマンションでも買うつもりだよ。ほら、拠点を移すと言っても、ここにはちょくちょく舞い戻る予定だから、空港に近いほうがいいかと思ってね。それに、今後は王女として振る舞う場面が多くなる可能性もあるだろ? そうなると、侍女さんたちの生活空間も考慮しなきゃならないかも? だから、思い切ってマンションの最上階でも買い切っちゃおうかな、って思ってる」


「そ、それ、とてもいい考えだと思うけど、日本のマンションってバカ高いでしょ? そんなお金はあるの? それに王室関係者かぁ。それはお父さまもお母さまも気にしてくれてて、ここに住むことに関しては、大袈裟になるし、今さらだからって断っていたけど、日本に住むなら確かに断りきれないなぁ。じゃあ、ジンが最上階のマンションの一部屋を買うのなら、残りの部屋は王室に買ってもらおうか? うん。それがいいよ。あ! もしも、アイドル育成プロジェクトもやることが決まるのなら、最上階のひとつ下の階まで買い取って、メンバーや関係者の宿泊施設も兼ねればいいんじゃない?」


「あー、そこまでの考えがあるのか。ならさ、かなりの大人数なことと、そのまま、そのアイドルたちもオレたちも、あまり人目につかないほうがいいわけでしょ? 特に魔力絡みなんて、人目につくのは問題あるし、アイドルの鍛練だって、パパラッチされないほうがいいよね? さっきまでは都心の高層マンションの最上階をイメージしてたけど、今の話を聞いた状況なら、伊豆の海岸沿いか、伊豆諸島の砂浜がある島に大きめの土地を買ってヘリポート付きの低層マンション建てても予算的にはそう変わらない気がしてきたよ。もしも、無人島なら、誰の目も気にならないし、海の幸にも困らないし、都心に用があるならヘリをチャーターすればいいしね? まぁ、N国王室からお金が出るならの話だけどね」


「あぁぁぁ、それ、すごくいいね? 無人島なら、誰の目をはばかることなく、お父さま、お母さまを呼ぶことも気兼ねなくできるわね? 日本に居ながらにして、隔離された世界なのね? しかもヘリで都心に1時間かからないなら、通勤しても問題ないわね。うん。相談してみようかしらね?」


「そうか。じゃあ、その返事次第でどうするかは決めることにしよう。あぁ、でも伊豆諸島の無人島ってのは難しいかな? 無人島がそもそもないかもしれないからね。色々調べる必要はありそうだな」

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