第38話 離着陸 〜 魔力修練 ep9 【閑話】
「うん。じゃあ、今日の修練の特別テーマ「筋斗雲に乗るぞぉ」の説明をするよ」
「はーい。お願いしまーす」
「あぁ、特に筋斗雲とか関係なくて、航空機の離発着訓練、いわゆるタッチアンドゴーをやってみたいと思ったんだ。これは滑走路の延長線にある離着陸経路と左右どちらかの方向に直角に旋回する第一旋回、ファーストターンで第一レグへ。一定高度に達したらレベルオフ、水平飛行。そして一定間隔開いた滑走路の反方位となる第二レグ、ダウンウインドに旋回し、滑走路を横目に一定距離過ぎてから
―― たくさんのニューワードだ。
―― 頭が付いていけるかな?
「グッと小さいサイズだけど、それでも結構広いね?」
「うん、まぁ、様子を見て、もう少し小さくしてもいいかもな? この訓練は繰り返し行うことにより、地表への接近と離脱の対地感覚を掴むこと、特に進入では進入角、パスの保持、減速などが難しいから慣れて感覚を掴むこと、上空からの地表物の見え方を掴むこと、など、けっこう修得するものは多いよ」
「うぅ、覚えること盛り沢山だね。頑張る」
「それで、離着陸なんだけど、ここからが筋斗雲バージョン。何をするかというと、乗り降りをする。まず、誰も乗っていない筋斗雲を離陸させ、
「頭の中の整理が追い付かないよ。ちょっと休憩していい?」
「あっ! そうだな。疲れるよな。それに、いくらマコトが優秀だからって、初めてのことがポンポン頭に入るはずがないよな」
「そ、そーだよ。経験のない名前はイメージが湧かないから、どっかに飛んでいっちゃうよ」
「悪かった。それに飛ぶこと事態が危険な行為なのだから、一度は手本を見せたほうがわかりやすいもんな? じゃあ、今から
「えっ? ホント? やったぁ。パパとデートフライトだね?」
「あははは、そだな。可愛いマコトと一緒に飛べるなんて、パパも嬉しいよ」
「マコも!」
「じゃあ、スケボーじゃなかった、筋斗雲、借りるよ?」
「OK、いいよー」
「あ、そっかぁ、マコトのオーラでデコっているから、うまくできないかもだけど、あ? 大丈夫かも。オーラの相性がいいみたいで、パパのオーラで丸ごと包み込めるみたいだ。ボードにホールド完了。マコトはパパの太ももに座って、よし、ホールド完了。ゆっくりホバリング。筋斗雲では必要ないけど、せっかくだから、ここが飛行場だった場合の管制塔との模擬交信も交えてみようか?」
「えっ? パパはそんなことできるの? やったぁ、やってみて、パパぁ」
「じゃあ、滑走路に入る前から。
『
すると管制塔から、
『
『
じゃあ離陸するよ?」
ゆっくりと滑り出すように発進する。
「エアボードのスタイルだと、抵抗が凄くて、あまり速度は出せないし、練習でもあるからゆっくりめでいくよ?」
「はーい」
「はい、右回りでいくね。
「空にあがるとね、方向すらもわからなくなるから、前後左右に遠目の目標を見つけておくといいよ。今だいたい仮想滑走路の真横くらいかな? 飛行機で本物の飛行場なら、ベースターンで管制塔と交信するんだよ。こんな風にな。
『
すると管制塔から
『
と承認されたら、
『
と復唱するんだ。あとはファイナルターンでしっかり滑走路にアラインして、コースとパスの高さ、スピードに注意しながらアプローチしていく。タッチアンドゴーだから、接地したら直ぐに離陸に移行するよ。これは筋斗雲だから接地はしないけどね。はい、接地ポイント。引き続きテイクオフ」
発進アンド上昇する。前回と同じ要領でダウンウインドまで進む。
「今度は着陸ね。
『
『
『
このまま着陸するね?」
「うん」
接地ポイントに向けてゆっくりと沈んでいく。接地ポイント直上でホバリングとなるような流れるような減速動作で停止し、ゆっくりと高度を下げ接地する。
「ほい、着陸っと。お疲れさま。あぁ、飛行機、飛行機って言ってたから、つい滑走路をイメージした説明だったけど、むしろヘリコプターで、滑走路じゃなくヘリスポットのほうがイメージは近かったね。じゃあ、休憩しよう」
マコトは興奮気味で、目からたくさんの星が零れ落ちそうな、瞳キラキラな表情だ。
「パパ、パパ、パパ、パパ。パ、パイロットだったの? すごすごすごーい。マコ、パイロットが憧れなんだよ? なんで教えてくれなかったの?」
マコトは感激してるが、少し不満顔だ。
「えっ? 言ってなかったっけ? 前から飛行機関連の話やパイロットしか解らないようなことも沢山話してきてたはずだけど、気付いてなかったの?」
「んみゃーん。言ってないよぉ。ぴえーん。だって、パパはいつもなんでも知ってる風な感じでしょ? してくれた話っていうのなら、パパは宇宙飛行士なの? 警察官なの? 弁護士なの? お医者さまなの? それとも学校の先生? 天下の大泥棒? いろんなことを詳しく話せるパパの正体が、そのどれかだなんてわかるわけない。だいたい研究職の調査員じゃなかったの?」
「あー、ごめん、マコト。そう怒るなよ。そういやキチンと話す機会はなかったかな? 細かくはまた話すけど、パパは操縦士の資格も持っている。今はそれだけで充分だろう? マコトがパイロットに憧れていることも知っているから、それに関連する、教えられる機会があれば教えたい、そう思っているから、さっきも交信例をやって見せた。そこまで動揺するのなら、そういうのは控えようか?」
「だ、だめーっ。怒ってるんじゃないよ? びっくりして、ちょっと興奮しちゃったの。大好きなパパが憧れのパイロットだったと知って、本当は嬉しくて、ドキドキして、感動しているの。ごめんなさい。パパの機会教育は、いろいろ中身が詰まってるから、聞いてて楽しいし、いろいろ知れて嬉しいんだ。これからもいろいろ教えてね? パパ? ムギューッ」
感極まったのを抑え込むように、ジンに強く抱き付くマコト。するとジンはおでこにキスをする。そして相好を崩しながら、ジンはそれを悟られないようにか、マコトを強く抱き締め返す。
「当たり前だろう? さぁ、一休みしたから、疲れも、頭の中の混乱も回復した頃だろう? 今日やるのは
「頑張った分だけ、ごはんもおいしいぞ。頑張るぞ! 「おー!」」
「ママのごはんはおいしいぞ! 「おー!」」
そうして、マコトは修練を始める。ジンはそれを見守り導いていく。
力を蓄える修練、という名の、繰り返される、父と娘の温かき交流の一幕。
Jet Black Witches - 1萌芽 - AZO @AZO_ky
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