第20話 祝杯 〜 Sofia Awake ep6
記憶のアルバム鑑賞をすることになったが、休憩を挟みたいというジンの申し出から、軽くお茶会の時間となった。
「何飲みたい?」
そういえば、乾杯でビール飲む、って言ってたのに、うっかりいつもの調子でジュースを飲んでしまってたのを思い出した。そう、お酒飲まなきゃ!
「じゃあ、ビール」
「ん? あれっ? 16歳じゃなかったっけ?」
「あれっ? そうだっけ?」
あれれ? 年齢言っちゃったからか、いきなり苦戦中だ。今日は人生で一番幸せな最高の日なのだから、愛する人とグラスを傾ける。ずーっと夢だったんだ。まぁ、グラスはなさそうだから、諦めるけど、お酒は譲れないなぁ。
「ビール飲んだことあるの?」
「ないです」
「他のお酒は?」
「ない。誰も飲ませてくれなかったの」
「じゃあ、ダメだ。酒の耐性がないのにいきなり飲むのは、ちょっと危険だな。それに今日は相当疲れているはず。やめたほうがいいと思うよ」
私、正直過ぎたかしら?
「それなら、あなたも飲まないの?」
「オレはいいの。大人だし、酒の嗜み方もわかってるからね」
「えー、ずるーい。だったらソフィアも飲むーっ」
「だーめ。だって、たぶん意識をなくして倒れちゃうと思うよ。それに飲んだことないなら、もしかしたら急性アルコール中毒になる可能性だってあるし、何より法律でダメって言ってるわけは、成長期の飲酒は身体に良くないからじゃなかったっけ?」
うぅ、旗色悪そうであります。
『ソフィア、なかなか難航しておるの?』
脳裏に語りかけるその声は、シャ、シャナなの?
『そうじゃ。よくぞ戻ってきたのぉ。良き人に巡り会え、ホントに僥倖じゃ。ちとスケベじゃがのぉ』
そうでしょ? 恥ずかしすぎて……。って、えぇーっ、もしかして全部見てたの?
『あぁ、久しぶりに胸が熱く滾ったわい。良き婿殿に巡り会えたものじゃ』
アワワワ、ハズい、恥ずかしすぎる。どこに隠れたらいいの?
『仕方ないじゃろ。あまり見ないようにはしておるが、その辺におる犬猫や虫たちも見ておるはずじゃが気にならんじゃろ? 神様だっていたら見ておるかもしれん。わしもそれと同じじゃし、これまでもずっと見守ってきたわしにはいまさらじゃろ?』
……わ、わかりました。シャナには隠しても仕方ないことなのですね? これからも恥ずかしいところをいっぱい見せちゃいます。代わりに相談にも乗ってくださいね。恥ずかしいことは、これまで誰にも話せなかったけど、相談窓口ができたと思えば、逆に心強いです。
『おう、もっと頼るといい。それにスケベと言ったが、誉め言葉じゃよ。それがなければ、マグワイは成立せぬ。むしろ我慢させ過ぎかの? ソフィアを大切に思うあまり、極限まで我慢しておる。これ以上の我慢は、やつの男性機能にも支障をきたすぞ?』
えぇ? そうなんですか? それはいったい……
『精神的に追い込まれると、マグワイそのものが不可能になるものじゃ。最悪こどもを作れなくなる。ソフィアもそれは望まぬじゃろ? あとわしに敬語は要らぬ。疲れるだけじゃ。友達くらいに思ってくれればいい』
そ、それは困る。こどもはもちろんのことだけど、つながることもできなくなるの?
『うん、そういうことになるの。うん、わかる。マグワイそのものも大事で悦びも大きいが、ただつながっているだけなのに、計り知れぬ幸福感。ずっとくっついていたくなるよな。うんうん』
こんなことを話せる相手ができて嬉しい。シャナ、ありがとう。これからも頼らせてね。でも、そうならないためにはどうすればいいの?
『そうじゃな。ソフィアは拒みすぎじゃ。減るものでもなし、愛する婿になら、すべて見られてもかまわんじゃろ? あと、好きなようにさせてやれ。お主を大切にしすぎるあまり、つながるだけしかしておらぬ。マグワイとはその先にある終着点。フィニッシュ? というのか? そこに向かって悦びを高めていく行為だ。今お主を大切に思うあまり、そこへ進めぬ婿殿はおあずけをくらっている犬のようなものなのじゃ。そんな状態でスケベ心を維持できなければ、つながることも難しくなる。それでも維持しようと、ソフィアにお願いする婿殿は、健気じゃが、ちと哀れじゃのう。最悪の方向へ向かおうとしているのが、わしは心配じゃ』
でで、できるかな? 恥ずかしさでいっぱいになりそう。それでも、今のままでは、あの人を困らせているのね。満足させてない。むしろ不満だらけな状態ってことね。恥はかなぐり捨てる必要があるのね。ふんぬぅ、わかった。努力する。
『あぁ、ちょっと待て。早とちりが過ぎるぞ。さらけ出せとは言ったが、羞恥心をなくしてはだめなのじゃ。ちと矛盾するようじゃが、スケベ心とは心の持ちようであって、羞恥心なき裸は死んだマグロと同じで、スケベ心もなくなってしまう。その塩梅も難しいが、要は恥ずかしがるが、こじ開けさせる。まぁ、チラリズムみたいなものじゃが、簡単には見せないから、見られたときの喜びがあり、その過程にドキドキがある。いつも簡単に見れるとわかっていれば、初めてのときはドキドキしても、以降は気持ちだだ下がりじゃ。いずれ飽きられて終わるというオチじゃ。かといって、ガチガチに防御しても気持ちは失われていく。結末も想像できるじゃろ?』
あぁ、そういうことかぁ、恥ずかしがってもいいのね? その先で恥ずかしさに死ぬほどドキドキしながらも、いいよ、って、もじもじしながら許してあげるような感じかな?
『おぉ、わかってきたようじゃな。さすれば、婿殿のハートもズキューン。うん、安泰じゃのう。まぁ、そのさじ加減はこれから経験を積んで掴んでいけばいい。それはそうと、お酒を飲む、飲まないの話じゃったな?』
そ、そうだった。えっちも大事だけど、今日だけは譲りたくないんだぁ。でもなかなかに鉄壁の防御で押し返されそうなの。助けてシャナ。
『む、そうじゃのう。ワシもお主を見守る立場として婿殿に全面同意なのじゃが、ワシはお主のここ数日の活躍や苦労と、得た幸せの大きさも知っておるから、今日だけはソフィアの意を汲んであげたいと、思っておる。やるとすれば、情に訴える。生還、身体回復、記憶奪還、プロポーズ、それに初めても捧げたのじゃろ? それでもだめなら、婿殿が知らぬ、撃墜事件での活躍を教えてやったらどうだ? 凄すぎてノーは言えなくなるじゃろ。まぁ、王女ってのもバレてしまうから、恐縮されては逆効果になる可能性もあるがの。ああ、そうだ、王室にはしばらく戻らぬほうがいいと思うがそれでいいか? 婿殿の件もあるし、いろんな陰謀やマスコミ対応が今はいろいろ危険そうじゃ』
わかった。ありがとう。それでいいと思うわ。じゃあ、戦ってくるね。
時間にして15秒ほどの高速脳内会議を終えて戻ると、ジンからダメ出しされて、私が反論するターンだったことを思い出す。さぁ、反撃開始だ。
「でも、今日はおめでたい日なんだよ? オトナの階段も登ったんだよ? プロポーズもされたんだよ? 順序逆だけど、ソフィア、死んでたのに生き還ったんだよ」 (あなたが助けてくれたからだけど。){←横向き呟き}
「でも、ボロボロの身体から、頑張ってこんなに元気になったんだよ」 (ほとんどあなたの力で回復させてもらったんだけど。){←横向き呟き}
「あらら? なんか私自身はあまり活躍してないっぽい気がしてきた。でもでも、そうだ思い出した。またまた遡っちゃうけど、たぶん一昨日の話になるのかな? 私、地中海でたくさんの人の命を救ったんだよ。それこそ何百人もの命だよ。そのおかげで、私は死にかけたし生き還ったわけだから、ソフィアにだってご褒美あってもいいじゃない。今日くらいは法律を超越したって罰当たらないと思うの。あなたがビール飲むなら、私だって隣で一緒に飲みたいよ」
「え? ちょっと待った。今サラッと凄いこと言ったでしょ? 地中海で人を救ったって、本当なのか?」
「調べてみれば? 私も行く末が気になってるし」
「わかった。ちょっと待ってて」
あっ、うちにもあったんだ、テレビ。しかも衛星放送。あっそうか、この辺のローカルテレビ、なさそうだし、あっても世界的な情報は無理そうだね。って、「うち」って言っちゃった。アワワワ、恥ずかしい。まるで押し掛け女房みたい。まぁ、変わらないか。
「ざざー、ぴぴー、ぐぎゃぉぅぅ、一昨日、地中海、航空機撃墜事件の続報です。
……イタリアに降り立とうとする航空機に搭乗する国賓級VIP一行を狙った、国際テロリストによる犯行であることは、現地で捕らえられた、ロケットランチャーを発射した実行犯の証言から……
……撃墜により、爆発の直撃を受けた後部座席の14名の身元が判明し……
……それ以外の乗客については、行方不明者一名を除く全員が奇跡的に軽傷で生還しています。唯一の行方不明者は、N国のソフィア王女で今もなお懸命に捜索が続けられています。一部の乗客の証言によると、ソフィア王女に助けてもらった、という情報が相次いでおり、ソフィア王女の女神伝説がまことしやかに囁かれ……
……ソフィア王女のあまりの美しさに世界中から……」
「ソ、ソフィア、映ってる、というか、N国王女? プリンセスだったの? この数日、衝撃的過ぎる出来事だらけだったから、そんじょそこらの突発事故だって、笑い飛ばせる自信があったはずなんだけど……クフフフ、ハハハハハ、どんだけ規格外? アハハハ、今度はそうきたか? アハハハ、ハハハ……」
あ、なんか思考力崩壊しそう。その勢いだ。頑張れ、私の事件。
「まぁ、そんじょそこらの子どもとは格が違うし、その偉業は法律なんかじゃ縛れるものでもないことは確か。うん、もう、今日だけだよ。ソフィアの身体が心配なのだからね」
おぉ、シャナ殿、城壁瓦解に成功しそうです。
「んーん。じゃあ、最初はお茶かジュースで楽しんで、お腹もおつまみとかで和ませて、もう今日は寝るだけって状態になったら、一口だけ飲んでもいいよ」
「え? ホント? やったー。あ、でも、一口だけなの? 大好き、あ・な・た、チュ」
「あ! モゴモゴ」
いきなりチュー作戦敢行。敵は大変動揺した模様。
「プハー、もうズルいぞ、ソフィア。オレはキミにそんな風に迫られたら……。わかった。二口まで」
頬を膨らまし、納得いかない表情で顔を覗き込む。
「ゎ、わかったよ。でも、オレがこれ以上はダメと言ったら従える?」
「従います。神に誓って。シャナに誓って」
「シャナ? だれ?」
「あぁ、あとで話すよ」
シャナ殿、今日の飲酒権、もぎ取り成功です。
その後は、今日の出来事を振り返りながら、おつまみをパクパク食べながらお茶で潤す。やっぱりお腹も空いてたみたいで、おいしくじんわりいただいた。
そろそろ頃合いかと、ビールと、別の軽いおつまみセットを準備して、ベッドサイドに移動する。
いつ寝ても良いように、布団を掛けて座った状態でお酒をいただくつもり……あ、そうだ。
一緒に記憶のアルバム鑑賞会もしながらだから、裸でくっつく必要があったね。未来の旦那様に服を脱がせて貰う。何度見られてもやっぱり恥ずかしい。でも、今、見られて嬉しい気持ちが混じるのはちょっと不思議だ。
あぁ、そうか。例え写真でも他の誰かを見て喜ぶ彼の姿は見たくない。それなら私を見て、という思いなのだろうか? いや、それもあるけど、私を見る視線は恥ずかしい気持ちに直結するけど、私に気持ちを向けていることへの安心感、私を見て感じ入ることへの満足感、少なくとも私が今彼を独り占めできていることの喜びなのかな、それが合わさって嬉しい気持ちになっているのかな?
私は静かに抱き寄せられ、ベッドに寝かされる。そしてキス。これがとてもいい。したことないけど、他の人からは決して味わうことのないと思える特別なキス。軽い同調と共に、ジンワリだけど、癒しのような彼のエネルギーのようなものが流れ込んでくる。このキスだけで、大好きな気持ちが体中に溢れてくるのがわかる。そしてキスは全身に向かい、私の身も心も準備が整ったことがわかったのか、お互い頷き合う。「んっ」まだ数回だが、つながりを持てた瞬間、頭の中が不思議な空間のイメージで塗りつぶされ、言葉にならない幸福感でいっぱいになる。
この状態が二人の同調を表していることを前回確認したが、ここで何かを思ったら、それはそのまま相手に伝わるらしく、外には無言でも、ここでは会話が可能そうだ。ただ、ダダ漏れになるので、タイミングや速さなど、会話が成立しにくそうなので、言葉にするのは口の発声で行ったほうがスムーズそうだ。
このままではお酒が飲めない。態勢が落ち着いたのを見計らって、私を抱きしめ身体を密着させたまま、身体を起こし、彼は長座の姿勢で背中をクッションに預けた、少しだけ斜めになった状態に、私は彼にくっ付いたままなので、彼に少し寄りかかった座った状態だ。
「これならあなたにくっついていられるし、顔もよく見えて、キスもたくさんできる。お酒もちびちび飲むには問題なさそう。それにすでにくっついてるから、ぎゅーっ、も簡単にできていいね? 頭いいね?」
「そうだろう?」
「あと、私が少し自由な感じ? それとなんか、ふ、深いね?」
「嫌か?」
「ううん、あなたがより近く強く感じられて、い、いいと思う。こうやって、自分から抱きしめられるのもいい。大好き~、んくっ、けど、自由に動ける分、し、刺激も……」
「んっ、そ、そうだね」
「あっ、この体勢だと、えへへ、チラ見できないねぇ? 良かったの?」
「あっ、しまった。その考えぬけてたよ。うぅ、失敗した。でもコレはコレで楽しみ方も違っていいんだよ。きっと」
「あなたがいいならかまわないわ。じゃあ、ビールとってと、はいどうぞ」
「あ、サンキュー。じゃあ、乾杯!」
「カンパーイ、ゴキュ、ウワァ、苦い」
「ははは、ゴキュ、ゴキュ。ぷぁー、美味い。いろいろあったあとのビールは格別だね~」
「美味しそうに飲むのね。ウー、ゴキュ。大人の壁は高かったかな~?」
「じゃあ、ジュースに変える?」
「やだ、ソフィアも大人の階段、登ったもの。これが美味しいといえるようになってやる。ゴキュ、ゴキュ。ぷぁー。あれっ? なんか飲む勢いも大事だね。ビールって。おつまみっと、んくっ」
「おっ」
「あははは、ソフィア動くとなんか来ちゃうんだね。ソフィアも来てる来てる? あははは、よっと」
「うう」
「あははは、あなたの反応が面白い、あははは、あん。ゃばい。抱きついていい?」
「ん? あ、ああ、ソフィアは酔うと笑い上戸になるんだな?」
「あははは、ソフィア、ぜんぜん酔ってらんからい……よ、ふぁ、ふぁー。あれー? らんか瞼がおも……・くぅーふ、くー」
「フフ、やっぱり寝ちゃったか。ちゃんと寝かせるか」
「らめー、とっちゃらめー、このまま・ねるのら……」
「ダメなのか、このままがいいんだな? 可愛い、ソフィア。愛してる」
ん? あれっ? 同調してるせいで、ソフィアの夢の中の情景が飛び込んできた。ソフィアの目で見たものじゃなくて、ソフィアが思い描く夢だから、ソフィアがいる。夢の中のソフィアも可愛い。こんな変わった体験、ソフィアに出会えなかったら絶対に味わうことはなかったな。ありがとう、ソフィア。
夢の中のソフィアも、現実の寝顔のソフィアも、どっちも可愛すぎて、考えるだけでとろけおちそうになる。これほどに可愛く、不思議な力を宿す少女。君、本当は天使でしょ? そう、思わざるを得ないほどの可愛さに、時折眩く放つ光が神々しさを加速させる。そう、すべてが純粋・無垢な存在なのだ。それを唯一汚しているのがオレな気がして、時折ダークサイドに陥ることもある。
オレは長い長い夢の中にいるのではないかと錯覚しそうになる。でも、目の前でスヤスヤ心地良さそうに眠る少女は、確かな温もりと肌の感触がその存在感を後押しする。そう、ソフィアは現実に、目の前にいて、オレをドキドキ・ハラハラさせてくれる、確かな存在なのだ。
そんな彼女が、なぜオレなんかを好きになってくれたのか、いまだに謎だらけだが、こんな稀有な出会いを起こしてくれた神様が、いるのなら感謝してもしきれない。ありがとう。神さま。オレはこの子を一生守り、大切にすると誓ったのだ。
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