第21話 一番欲しい能力
……
ソフィア旅立ちのエピソードから戻る。
「本人たちを前に語るのも気が引けたが、ソフィアが王室を離れるキッカケから、ケネトの謀略、北の軍事大国:V国調査員の動き、民間機撃墜事件とソフィアの奮闘、死にかけて、婿殿に救われ、脅威の回復と覚醒、いや? 5割増くらいの強化回復と言えるか、そうして心の強い結び付きとともに大きく愛を育み、今に至るための愛の巣が出来上がったと、まぁ、ワシしか知らぬ情報も交えた、だいたいのあらましはそんなところかのぉ? ただ、ソフィアを死に追いやったテロリストの首謀者たちは、本来は憎むべき存在なのじゃが、ヤツらの犯行がなければ、ソフィアが婿殿に巡り会うことも、マコトが産まれることもなかったことを考えると、憎むに憎めなくてのう。むしろ感謝の念が絶えぬほどじゃ。皮肉な話じゃがな。それほどに、婿殿という存在の大きさ、約800年を経て引き寄せられたがごとき、運命的とも言える邂逅。嬉しくて、嬉しくてな。うぅ、ズズ。おぉ、涙腺が止められぬわ。ズズ」
「テロリストに関しては、亡くなった方たちには大変申し訳ないけれど、私も概ね同意よ。何かがひとつでも違っていたら、私は今生きていないし、当然、ジンを知ることさえなかった。ケネトやV国調査員たちは余計だったけど、いえ、南へ舵を切ったのは彼らの影響かもしれないわね。ともかく、ジンに出会えたことの喜びのほうがすべてに勝ると思っているわ。けれど、シャナ、ちょっと赤裸々すぎたわよ。ジンが恥ずかしげな表情、驚きの表情が、シャナの語りの中に時折入り混じる、ひとり福笑い的な表情の変化は楽しめたけど、16歳の頃の私、そこまで天然だったかしら? 笑いを狙ってちょっと盛ったでしょ?」
「盛ったじゃと? この阿呆もの! これでもかなりひた隠しにしたほうじゃぞ! まったく未だに自覚がないんじゃのぅ?」
「まぁまぁ、そこがソフィアらしさですから、シャナ?」
「うん、まぁ、そこもワシを楽しませてくれる才能みたいなものじゃから、これからも変わらずにいて欲しい一面でもあるがのう」
「うん。ママにもあどけない一面があったんだなぁってわかって、マコは嬉しい。でも、見知らぬ二人が運命的な出会いで恋に落ちる、その感覚がよく分からないなぁ? パパとママがお互い好きすぎて、仲睦まじいのはマコも嬉しい。でもたったの1日でどうしてそこまで好きになれるんだろう? それと、恋をすると、ただくっついてるだけで、いろいろ伝わったり、回復できたりするんでしょう? 恋の魔法、って言葉があるのは、そんな不思議な体験ができるってことなのかな? あと、どうしてか裸になる必要があるんだね? パパとは違う男の人に見られる恥ずかしさを想像したらドキドキしちゃった」
マコの言葉に、なぜか、パパとママは胸を撫で下ろす。それとともに嬉しそうな笑みを浮かべる。
「マコトのソレもソフィア譲りかのぅ。ったく、退屈させない親子で嬉しいヮ。もはや才能としか言えぬのぅ」
「フフフッ、マコちゃもマコちゃのままでいてくれて嬉しいわ。あぁ、そう、恋の魔法、確かにそう思える心の変化があるのは確かだけど、それにはそこまでの力はないわね。たぶん、魔女因子とパパ因子? が巡り会ったときだけの化学反応みたいな不思議な現象だと思うわ。だから他の普通の人は経験することはないわね。それにね、いつかマコちゃも恋をするときがきっと訪れる。そうすれば自然に理解できる。そういうものよ? 焦ることはないわ」
「うーん。なんかマコだけがわからない部分があったような、ちょっとだけ解せない感が残るけど、まぁ、いいや。ともかく、パパがスゴいんだってことだね。ママずるいよ。パパのお嫁さんだなんて。マコはパパのお嫁さんにはなれないんだよね。あぁ、でもママがお嫁さんになったから、マコが産まれたのか。ふみゅう」
「そろそろ良いかのぉ? なんか、今のマコトの一言でパパ殿のハートがズキューンと射抜かれたような気がするが……。話を戻すぞ」
「ソフィアが今日この場を設けたのは、これからいろいろなことが起こりそうな予感がすることもあるが、今初めてわかったようなこともあるから、マコトにもキチンと説明して、マコト以外には情報のすり合わせをする必要があるからなんじゃ。特にマコトに関しては、パパ殿の支援がたぶん重要になるとワシとソフィアは考えておる。最終的にどう行動するかはマコト次第じゃが、全体的なことを理解した上で、やるやらないの決断のときに、周りがやる選択を望んでいるときに、やらない選択をしたとしても、仮にそれでワシたちの誰かが命を失うことに繋がったとしても、ワシたちはマコトの選択を尊重する。うん、今最後に言ったことは、まだピンとこないだろうし、難しい内容だから、今は覚えてなくていいぞ」
「今現在、気にしておるのは、ソフィアの母親である、アイリ妃のことじゃ。先ほどの話にもあったように、撃墜事件以降、飛び火を恐れて、ヤツら、ケネトやV国調査員たちのことじゃが、しばらく平穏の中に身を潜めておるようじゃ。しかし、あれから七年。ほとぼり冷めて、そろそろ動き出すような予感がしてならぬ。それがあるから、ソフィアの死亡説が上がったままにしてあり、それでソフィアの身は安泰なのじゃが、そうなると、つぎにヤツらが狙うとしたら、アイリ妃になることは想像に難くない。わかるじゃろう?」
「うん」
「そのためには、今のうちにできることを増やしておきたい。今、まだことが起きておらぬうちにじゃ」
「できること?」
「そうじゃ。マコトを危険には晒したくないが、マコトに頼るしかない場面も必ず出てくるし、たぶんこの中で、鍛え、能力を引き出せるなら、一番スゴいのはマコトだと思っておる。万一、マコトが危険に遭遇した場合に、自身の身を守る術も身に付けておく必要もあるしな。それにもしも一連のアイリ妃救出作戦が起こった場合に、誤ってソフィアのことがヤツらに知れたとき、当然マコトのことも知れよう。そうなったときに慌てても遅いからな」
「うんうん。マコがんばるよ」
「それと、ワシら魔女の一族には不思議な力があるけれども、それはいつも力任せでのぅ。そこにパパ殿の高度な知見が加われば、何から何まですごいことができそうな予感がある。だから、パパ殿にはすごく期待しているし、これから成長していくマコトに、知的な観点での補助をしてもらえないかと思っておる」
「あぁ、そうですね。私も同意見です。今の仕事の区切りがついたなら、マコトのサポートに掛かろうかと考えているところでした」
「うんうん。そうか、ありがとう。それから、ここからも重要じゃ。これまでは魔力の扱えないパパ殿を戦力として数えていなかったが、ソフィアとの交わりでソフィアに力を供給したように、ソフィアからも魔力を扱える能力が伝承されているのではないか? とワシは睨んでおる。その根拠が、オーラが見えるようになっていることと、今まさにワシが身体を借りることができておることじゃ。そして、だからこそ感じる、奥底に秘める凄まじい量の魔力。ソフィアの力を5割増に底上げできるほどの良質高純度なパワーじゃ。この引き出しから自由自在に魔力を操れるようになったとしたら、もう、今のアニメ風でいうところの魔王が誕生するやもしれぬな。その期待も込めて、自らの研鑽も念頭に入れながら、マコトの成長に付き合って欲しいと思っておるのじゃ」
「え? やっぱりそう思いますか? マコトの成長が楽しみなのはもちろんですが、私自身の能力開発に繋がる発想はなかったから、むしろ仕事なんてしてる場合じゃないですね。いや、しかし、むむぅ……」
「それで、これから先、どのような能力が備わってほしいかという話じゃが、あっても困らないが、戦う力、というものは、その存在を他者に知れてしまうと、別の心配が生まれる。軍事力として狙われるということじゃ。もちろんないよりは在ったほうがよい。身を守るためにも重要な力じゃからのう。ただ、それよりも、一番欲しいと思っておるのは救出能力じゃ。大切な誰かを探し特定する能力や、他に見つからずに迅速に移動して、全く気付かれることなく連れ帰れる能力じゃ」
「なるほどぉ、「見つからずに連れ帰る」ですか。まさに隠密行動ですね。もし正面切って戦えば、誰かを傷付け、何かしら失うことがあるけど、何も失いたくないなら、それが一番の解決策ですものね。多くの場合、戦いは悲しみしか生みませんからね。我々にとっての勝利は何も失わないことなんですね」
「ほぅ、さすが婿殿じゃ、良いことを言うのう。何をどこまでできるのかは不明じゃが、それを目標に修練にあたってはもらえないだろうか?」
「承知しました。私の考えもシャナとほぼ同様のもので、力が他に知られることの怖さも充分理解したうえで、隠密行動により救えるものならば救いたい。日本にはそういう精神が一部に根づいていて、私にも宿っているようです。昔の時代物から、現代のアニメまで、いくつかそんな作品があって、私も好きでよく観てましたから、本質はそこにあるのかもしれません。ただ、ねずみ小僧とか、大体みんな泥棒なんですけどね。結果的にはいつも誰かを助けるための行動だったりします」
「おぉぉ、ワシもいくつか観たなぁ。ソフィアを通してじゃがな」
「そ、そうでしたか。そういう身バレしてはならない隠れたヒーローが本当にいたらなぁ? って思っていましたが、圧倒的な力がなければ実現しないって子供心に思っていました。でも、それらは身バレはしてないけど、存在は知られてるんですよね。今のシャナの話をよく考えると、存在すらも気付かせずに、秘密裏に動く必要がありますね。うーん。ハードル高いけど、この力をうまく使えばどうにかなるかな? ちょっと考えてみますね」
「よろしく頼むぞ」
「はい。まぁ、私も興味が尽きないので、マコトと楽しくやってみます」
「マコもすごーく楽しみ。早く特訓したいね」
様々なエピソードを耳にして、マコト以外の皆の意識の共有が図られたのか、この場の会話が一段落した空気を纏うとき、ひとりマコトだけは記憶の虫食い感が浮き彫りとなり、それを問いかける。
「……それはそうとさぁ、ご先祖さまや、ママの生い立ちやパパママの出会いのエピソードが聞けたから、いろいろとわかったこと、繋がったことがあってよかったなと思うんだけど、マコの生い立ち? だけがなんかモヤモヤしている気がするんだ……マコって記憶力良いほうだと思っているけど、なんかアチコチのピースが抜けているような虫食い状態な気がするんだよね」
そんなマコトの告白に、思い当たるソフィアが返す。
「あ! そうよね。マコちゃの場合、ものごころ着くまでは無用なトラブルを避けたかったから触れないようにしていたことがあるの。今なら。ううん。今こそキチンとお話ししておくべきときなんだわ」
「そうだな。今がそのときで間違いないよ、ソフィア」
「そうよね。ジン」
ジンも今まで包み隠していたことを
「じゃあ、マコちゃ? あなたのエピソードについては、生まれるはずの日の1ヶ月以上前から触れなくてはならないの。今のマコちゃが身に付けている常識的なことから少し離れる話になるから、よぉーっく聞いてね?」
「え? 常識外れなの? なんか異常事態な生い立ちになるってこと? まさか、何かの事件とか? ちょっと怖いかも?」
「いや、それはたぶん大丈夫だと思うけど、あなたの記憶のピースが跳んでいる理由もわかると思うから覚悟して聞くのよ?」
常識から離れると聞いて不安になるマコト。そこは否定しても覚悟だけは問うソフィア。理由もわからずマコトはおどろおどろしい奇妙な感覚を憶える。
「え? 覚悟が必要なほどなの?」
「まぁまぁ、聞けばわかるわ」
「うん」
マコトの気持ちが整ったことを確認すると、ソフィアが語り始める。
「では始めるわ。あれはマコちゃが生まれたクリスマスイブ、初冬の気持ちよく晴れた昼下がりのことね……」
「え? 1ヶ月以上前からじゃ? ……あれ? そういえば、生まれる『はず』って、え? どういうこと?」
マコトの抱くおどろおどろしさは、やや緊張混じりにピリピリとしていたせいか、ソフィアの放つ言葉から早速違和感を感じ取り、マコトは割り込むように指摘を入れる。
「まぁまぁ。そのあたりも聞いていればわかるわ」
「う、うん」
……
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