第5話『頑張っている子どもへ~いつか、良い思い出になりますように』
運動会の日程が決まり、運動会の練習が始まった。
しかし、起立性調節障害の子どもは、その日その時にしか体調は分からないので、決まった時間に練習に参加することはかなり難しかった。
できることは、許可を得て練習している様子を私が動画撮影し、それを見ながら子どもが家で練習すること。
全体練習の時間に合わして学校に行けたこともあったが、みんなと練習できたのはたったの1回のみだった。
前日、担任の先生と保健室の先生と打ち合せをした。
運動会のプログラムを見ながら、
当日の朝、学校に行く時間、待機場所、参加競技、演技の入退場の方法、並ぶ順番など本人と私と先生とで細かく確認をした。
いざ、当日。
子どもの学年の参加種目は3種目。
今日の調子は?
朝、家では比較的頭痛の訴えは少なかった。
他の児童より遅れて、開始前の時間に合わして9時に出発。
学校の近くになると、他の観客の姿が見え、緊張してきている様子。
学校に到着し、子どもは救護テント内の椅子に保健室の先生と座って待機していた。
しかし、30分後。
保健室の先生に私が呼ばれた。
その日の天候、気温が、蒸し暑い。
全校児童と観客と大勢の人たちがいる。
待機場所の近くでは、予想していなかったマイク放送があり、かなり大音量であった。
たちまち、頭痛レベルMAXになったようだった。
たったの30分。
どうしようと私は不安に思っていたが、
保健室の先生の配慮で、保健室を利用させてもらうことになった。
窓を閉め放送の音を遮り、部屋を涼しくし、保冷剤で頭を冷やし、横になる。
涼しく、静かな落ち着く空間、楽な体勢、に整える。
すると、子どもの表情がだいぶ和らいできた。
しばらく、出番まで休憩した。
そして、まずは、本人が一番出たかった80m走の準備。
みんなと一緒に走って入場すると体力がもたないので、打ち合わせ通り、並んでいる途中に横から入り並び、順番になったら走る。
順番になると、ちゃんと走り出し、無事、最後まで走り終えたのでほっとした。
万全ではないので結果は5位。
本人的には、元気な時、走ることには自信があったので思うように走れなかったようで少し落ち込みぎみ。
ほっとしたのも束の間、私は、退場門で待機し、すぐに子どもを保健室に連れて行き休憩させる。
次は、2種目、棒引き。
練習には一度も参加できなかった。頭痛もある。
子どもは、しり込みをし、参加する気持ちはなかったようだ。
しかし、「何事も経験、棒引きなんてすることはこれから大人になってないから。」と私が話すと、子どもも参加する気持ちになったようだ。
みんなが入場後、並んでいる中、横から途中、入場。
横から入るタイミングを見計らって子どもと待っていると、保護者と子どもがいるので、事情の知らない先生からの変な視線を感じていた。
そんなことには気にしていられない。
子どものことに必死な私は、子どもの手をひき、打ち合わせで聞いていた同じチームの子を探していると、
「ここやで。」と教えてくれる優しい子がいたので、無事、競技に入ることができた。
私は、その場を離れ見ていると、なんとか、みんなに混じり棒を引っ張っている子どもの姿があった。
その後は、退場後に、最後の沖縄民謡の『エイサー』の演技に備え、すぐに家に連れて帰り、家で昼食、ゆっくり休憩。
そして、2回目の学校へ。
到着後、保健室で待機。
いよいよ、最後の演技の『エイサー』。
準備して最後は、みんなと一緒に入場。
入場し演技が始めた我が子を見ると、涙がどんどん溢れてくる。
運動会に向けて、練習時間に子どもの体調を見ながら学校に連れていくこと、練習に参加できない分、家で子どもが動画を見ながら一人で練習すること、当日の体調を見ながら参加種目のプログラムに合わして動くこと、すべてが大変だった。
みんなが普通に学校に行くこと、『運動会』や他の行事に参加すること、一つ一つのことが病気になってこんなに難しいか、どれだけ大変か、といろいろ抑えていた気持ちがどんどん涙と一緒に溢れてきた。
みんなと練習できたのは一回だけ。
練習は家で動画を見ながら一人で。
隊形移動もある。
ほぼ、本番勝負。
疲れと緊張でさらに頭痛は増強。
その状況で少々の間違いがあったが、『エイサー』を精一杯、立派に踊りきった子どもの姿がそこにあった。
退場後は、子どもをいっぱい褒めて子どもと一緒にすぐに帰宅。
子どもも私も疲れ果てた1日。
人は人。
同じようにできないこと同じように過ごせないこともある。
分かっているけれど、やはり何も気にせず、元気いっぱい笑顔で楽しそうに走り回っている他の子をみると、正直羨ましくて仕方ない。
子ども一人一人物事に対して、その子その子のハードルの内容も高さも違う。
今日の運動会。
天候、人混み、大きな音、決められたスケジュール、当日本番の緊張。
頭痛が増強する息子にとって、かなり高いハードルだったが、
みんなの輪に入れたこと、やりきったことはとても凄いことだと私は感心した。
子ども本人は、早く走れなかった、演技を少し間違えたと言っていた。
なかなか達成感にたどりつけない。
そもそも達成感を感じる余裕もなく、それを超えるしんどい波が押し寄せてしまう。
今は、しんどかった思いが勝ってしまう。
しかし、いつかあの時、よく頑張れたなぁ。
そんな良い思い出になれたらと思っている。
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