自動筆記実験 8

 ジャニスがくわえたフォークの先にはイノシシの鼻がくっついている。とうせんぼする大きな彫像はしかめっ面でアイスクリームをなめながら、こどもに目配せする。山肌にならんだ家々はジャンプを繰り返している。きっと縄跳びをしているのだろう。高速道路を形作るコンクリートはカフェラテを飲み干したライオンの指から派生した発明品。近代を作り出した幻影は、倒立した常識の音楽から、ジャズのエッセンスだけを取り出した。スポーツを一度も理解したことがない子どもは、恐竜のひとみにうつるふうけいをみてかなしみにくれる。チーズケーキを分割するフォークの先は、走るチーターの尾の先から作られた観念に過ぎないことを誰もが知っている。土器で飲むコーラは美味しいかい。海の模様の自動車の中には、サバンナが広がっている。移動する地球の速度は、青い色の残像を残したセーターの模様に似ている。ひし形チェックの毛糸の血管は、街中に張り巡らされた謎のパイプの延長線上にある。ワニ革のバッグはカバの散らされた汗の色で染められた。天から降る水の謎を解いたものは、未だにどこにもいない。雷は地中深くから生まれる木々と属性を一にしている。そういえば聞いたことがある。弁当には上下左右がすべておなじ角度で作られたものと、異なるものがあると。数字は問題ではない。公式だけが問題で、それはつまりスープには常に玉ねぎを入れるべきだという自明の発見を誰もがしたことがあるということである。

 ナマコを食べるが、ウミウシを食べない理由はどこにもない。パパイヤとアボカドのあいだに本質的な違いはない。はじめて花びらをサラダに使った理由は、美味しそうだからではない。昆虫が止まる花だけが機械翻訳に耐えうる種だといわれているらしい。粘着する菌類はAIによって分類され、ガラスケースの中に、食品サンプルとともに並べられる。ラーメンはそんなに美味しいもんでもないことはドイツ人だけが知っている。グリーンランドに住んでいるのは、実は人間ではなく、人間の形を知った宇宙である。宇宙はドイツ人を包括する概念であり、常にメガネをかけている。犬のようなヒゲを生やしており、陽気に笑うこともあるが、基本的にはいつも容器におさまって動かない。シナモンロールの軽薄さこそが世界を救う。なんでそんなことをいうの。ラクダだって水を飲めば丁寧な挨拶を心がけているのに。20年先のことを知っているのは僕だけだっていうのに。帽子を被った黒い動物は、黄緑色のカーディガンをちびちび食べている。悪いことじゃあないね。だって道路標識は常に左を指しているもの。昨日からずっと、明日からずっと、そのままさ。


ジャニスがくわえたフォークの先は、明日からずっと、そのままさ。

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自動筆記実験 ピータン @p-tantan

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