自動筆記実験 4

 屋根をはねてわたる人の群れ。暴徒は四角形をかじりながら芝生の平面を染める。のこぎりはそれほど便利とはいえない。三重の扉は、すべてこの鍵で開くだろう。葬送曲の香りは黒。木々は硬直して果てる。抑揚のない音を犬とともにかじれ。空をゆくのは金属の花。咲いた咲いた蝶の羽。歩いてゆくのは綱のない獣。牙のある豚だけが本当の豚だ。木でできたそりは花に削られて、薄い膜をおとす。水面に浮いた顔の連続。波紋とともに分裂して、海底を照らす。

 洗われた線は美しく、天を魅了する。音は寧金を叩いて、その広がりに包まれるものは眠りにつく。弾ける球体は、粒と点の隙間を飛ぶ。爪を持つ動物。羽を捨てた虫。木からはいでた長いもの。この中に、球体を落としたものがいる。

 木の葉でできた鳥が一番高く飛ぶ。ぼろぼろと下から崩れ落ちる煉瓦の塔。ビスケットは雨にも風にも弱いのだ。波打つのは大地、分厚い煙は回転しながら、蟻の道をも吹き飛ばす。あれ、なんとあっけないことか。この日のためにと、積み上げてきた穴が、すべて食べつくされてしまった。あちらへ行っても、こちらへ行っても誰かにぶつかって、ちっとも進めはしない。足をたたんで少しでも四角形に近づこう。こうすればちっとは気分が良くなる。歯の調子が悪ければ、歯医者にいくのもよいだろう。扉を開ければ甘い香り。いざ凱歌をあげるのだ。

 すでに西の半分は燃やされた。巣にある卵は石卵。石炭から生まれるのは足のない鳥。いつでも椅子に座ってる。水から生まれるのは月と太陽。空に映ってはりついた。よく聞いて、その声を。あれは言葉なの。それとも泣いているだけ。雀と燕が歌う。

 ふたりのあいだに浮かぶ雲。それは船。石楠花は双翼を広げて飛ぶ。木星は遠く、金星は近い。線と線を結べ。球と球をぶつけろ。連星は引き合って、いずれ一つになるだろう。青と緑は混じりあい、色を失って落ちてゆく。終わりのない調べを聞け。音は回転しながら永久に落下を続ける。狂った魚の歯の奥の、毒の軛のその裏の、轍にはまって腐って死んだ、声と祈りは穴の中。迷路の奥に連れられて、並べておかれて、そのまんま。みんな忘れて静かになった。

 地表をすべって進む鉄。冷蛇は濡れたままねじれる。今日は丸いものを四つ穴に入れた。酔っぱらってもよいだろう。幼い泉は水滴を待ちちつつも、散逸した知恵の全てを求めて歩きだした。春の香り。宇宙は風をくれた。猪は二重らせんをくれた。鍵は机の上。発泡するのは液体だけではない。雫は透明でなくとも美しい。


 屋根をはねてわたる人の群れは、透明でなくとも美しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る