自動筆記実験 3

 鴉頭は連なってひとつの重力を作り上げる。死んだ魚の目には空に浮かぶ球体三つ、映っては消えて、何度も線形は乱れる。連続は泣かない。口腔から覗く景色はあくまで青。終わりを告げる鐘こそが、飲み干されたこの盃をふたたび溢れさせる。自転車の真ん中には天から授かった重点が置かれる。巻かれた蔓の、その向こう。スポンジは水をふくんで歌う。なめらかに空気をなでて、ミルクの香りに酔って舞え。前後の分からぬ祝日は、黄色をはさみながら続いてゆく。

 大きなリボンをつけて歩こう。くちばしは結んで行こう。爪は磨くだけ。肩からのびた触覚は、十字をきったセミの声。膝をついては、胸を開く。トントンと音が聞こえる。ここを掘ったらきっとニシンがとれるだろう。のうのうと暮らしていたアナグマは、鈍器をもちあげて転がる。亀裂がなおることはない。それを知らないのは家の中で寝るものだけだ。あとは空を探してみればよい。通せんぼした音楽隊、バッグパイプを知らなくて。寝ても覚めてもそのことばかり。休日は明日まで。いや明後日まで。三重卵の夢を見る。

 白髪白杖の老猫。夕闇をおろして、夜を迎える。星は小さいが、雨がふればよく見える。雨の中には流れ星。腹の赤子の夢の中、千本続けて降り注ぐ。あの点はなにか。あの天はなにか。咲いた真珠のくもりを見るな。真鍮は溶けてなお真鍮。呼んでも変わらぬその色を、束ねた長い髪に祈れ。祈りは羊の巻かれた角の先。螺旋は終わらぬ転回。裏と表をくりかえし。裏裏表裏、表表黒緑、単純な回数を投げる。朦朧とした鼠は、犬とともに毛皮を脱いで、浴びた酒は床にたまる。それこそが天の盃。

 芯はどこにある。中心こそ飲み込むための器。呼んだのはだれか。ここにいないのは手の長い猿ではないか。あそこにいるのは石をつかんだアリクイではないか。早く翼のある生き物を呼んでこい。白くて長くて穴がたくさん開いたのを。もう夕暮れは飲み干された。滝になっておちてゆく。この長い長い滝に底はない。どこにも至らぬこの滝に名前をつけてはならない。

 それ以外はなにをしてもいいの。そうなの。すくってなげてぶつけてみよう。かためてならべてめでてみよう。書いてもいいし、裂いてもいい。困った顔をもっと見て。切れる鋏は良い鋏。それでも丸いさじを持て。笑ってみてもよいのです。怒ってみてもよいのです。ほら、よく似合っている。赤い満月、とってくれろと泣く子のために梯子をかけて落ちた君。よく透けた長い衣がさらさらと揺れて。もっと軽い列をならべてくれてもよかったのに。こんなに笑っちゃいけないかしら。音も香りも、ますます柔らかくなって、サンダルを履いていっちゃった。

 川に住む純粋な怪物はすでに起きた。川に住む純粋な怪物は、川よりも長くて、海よりも大きい。空よりも透明で、星よりもたくさん。僕たちは呼んだけれど、声がきこえて散らばって、午後にはもう名前がなくなっていた。とても美しくて、涙がでるの。そこに白い糸が、一本だけ残っていて、風もないのに飛んでった。きっともう落ちてくることはないの。白い糸は透明だったの。もう誰も、見ることはないの。


鴉頭は連なってひとつの重力を作り上げる。もう誰も、見ることはないの。

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