自動筆記実験 2

 千年機構は鉛の芳香。連続した焦熱は、九と三の音に並び、亀は四足のかもめを撃つ。まどろみのなかにあって、窓ガラスを展開すると、回る緑青が叫びを上げて沈む。用途がわからぬ紺碧の、たたんでまわった波型の層は山間のつらなり。かつては動物たちが駆け巡り、黒い粘土をまるめて遊んだ鋏と玉光。民には見えぬ王の目の、空から降りた足と手が、燦々燦々降り注ぐ。転がるのは回転、黒く細い束をもって香りを放ち、呼ぶ声は遠くに消える。

 平面には滑るように広がり、垂雲は人を拒む。唇はあくまで甘く、夕暮れは柘榴色にまかれる。これは偽りである。これは偽りである。点が面に至るまでのあいだに、歩行は困難になり、両の車は回転をはじめる。穴は多く、壁は高い。亀裂は酸性を帯びて、平伏した犬たちは転覆した船と化す。粘ばつくのはひとりでよいというのに、顔の凹凸は二つ三つと増えてゆく。漕ぎいでる狐の群れ。あくまでも勇猛な雄叫びを上げながら、鋭角なひげをぴいんとのばし、波と波の隙間に生えた魚の骨の柱をよけて、いけやいけやと亀をめざす。猛毒を持つのは蠍か蟹か。聞いたところで渦は生じぬぞ。玉を転がせ玉を転がせ。空から光って落ちてくる。僕はあなたが大好き。優しい竜巻は、それまさに龍のすみか。さらさらと雨が溶けて、このまま時がたてばおいしいわらびが取れるでしょう。

 とってもとっても甘いの。涙が出るほど透明なの。噛めば噛むほど弾ける音は、咲いて放って飛んでくの。信じられないほどにまん丸で、やわらかくって、ピンク色。水を沢山たたえて、少しの魚が泳いでる。はねてはねて。はねてはねて。ほうら、僕らは色彩、鼻なんて必要ないの。山は減って、青色が九つにわかれても、羽の生えた生物たちはするりと沈んでゆくの、楽しいの。

 そこには飛行機が飛んでいる。でも音がない。音のない飛行は飛行ではない。酸素がなければ燃焼ではない。水素は軽いと聞いた。点はあくまで点。飛んでゆくには角度が必要。弧を描くのは一回でよい。そこに意思はない。昔の鳥はよく飛んだ。今の鳥は乗ってるだけさ。それに比べてきのこはどうだ。蟻に育まれ笑っている。きのこだけが幸福を知る。舞踊の本当の意味を知っている。春が来る前の霜柱を蹴って、胞子と胞子の間をゆれる振り子を知れ。強い力と弱い力。なぜそんな関係ない薬草を育てるのか。それを知った若僧は、姿を消してあらわれず、隣の村に太った赤子が生まれる。その声は空気を割って、その隙間からのぞく顔、こちらを見て何も言わず。

 俺はお前を知っている。なぜそんな嘘をつくのだ。瞳と虹彩の色、柘榴は熟れて、腐って落ちた。腹に種を埋め込んで、牛とともに生きよ。紙をめくって目にもの見よ。そこにある大いなる彫像はすでに回転をやめて水面を滑るように立ち去った。ここに残っているのは何か。無いを有るというか。無いを無いというか。卵が二つある。どちらも無い。これは石だ。いずれ飛びたって、遠い異国に降るだろう。火花は紅の子供となって、散り散りになって広がるだろう。柔らかい若草の音。黄色になるまで待つことはない。触ってはいけない。だから触ってみよう。それはきっとよいこと。


千年機構は鉛の芳香。それはきっとよいこと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る