第16話 僕、家の整理をしてみます

「じゃあ、今日もなるべく早く帰るからね。」

「はい、お気をつけて。いってらっしゃい。」


 毎朝恒例となった福江さんとのハグをして、仕事に行くのを見送った。


 今は淡いピンクのドレスに身を包んでいる。もっとも、この後部屋の整理や家事をするつもりなので例のメイド服に着替える予定だ。

 実は昨日も夕食の買い出し以外はずっと家で整理や家事をしていたのだが、朝も夜も、彼女が家に居る間は外出時と同じ格好で居た。もちろん寝間着の時以外は。つまり彼女の前でメイド服はまだ一度も披露していないことになる。


(別に見せたくないわけじゃないけど、なんとなく恥ずかしいよね。)


 そりゃあ透け透けの寝間着のほうが恥ずかしいのは恥ずかしいが、あれは夜の営みのためにいやらしい格好をしていると割り切れる。対してメイド服は家事をする時に毎回コスプレしているような感じで、恥ずかしさの方向性が違うというか。まぁ恥ずかしさに種類があるのかは知らないけれど。


 あとは昨日注文した荷物が届いたが、買い物から帰ったら宅配ボックスに入っていたので、配達員とは顔を合わせていない。しかしまだ大きめ収納用品が届いていないので、メイド服で配達員に応対する覚悟はしておこうと思う。


(さて、それじゃ着替えて家事から始めよう。)


 とりあえず着替えるために、作業部屋へ向かった。


§


 配達をする時、大きな荷物というのはそれだけでげんなりする。これでさらに重い荷物であったり、エレベーターが無い建物の高層階だったりしたら面倒この上ない。だが、幸い今運んでいる荷物はそこまで重量はないし、大きなエレベーターが使えるので、台車ごと移動出来るので助かった。


 配達員になってもう数年、この辺りを担当しているが、それなりに高級なマンションが多いおかげか、宅配ボックスやエレベーターがついていて、楽に運べるところが多く助かっている。

 今日のマンションも宅配ボックスはついているが、あいにく入らない大きさだった。幸いコンシェルジュが居て、確認してもらったら在宅で持ってきてほしいとのことだったので向かっている。


 エレベーターを降り、短い廊下を進んで、ドアの前の呼び鈴を鳴らす。連絡してあるのですぐに出てくれるはずだ。案の定すぐにガチャリとドアが開く。


「はーい。ご苦労様です。」


 出てきた人物に一瞬面くらう。小柄でとても可愛らしい美少女。髪はぎりぎり肩にかからないくらいの黒髪で白いフリルのカチューシャをしている。服はメイド服。少し翻っただけで下着が見えるのではないかと思うほど短いスカートだ。もっとも、スカートの裾から何層ものフリルが見えていて、パンチラ対策はばっちりのようだ。前にオタクな友達に誘われて行ったメイド喫茶の店員もここまで短いスカートではなかったと思う。


「どうかしました?」


 はっ。いけない、仕事をしなければ。


「す、すみません。設楽様でよろしかったでしょうか?」

「はい。間違いありません。」

「それではこちらにサインを。」


 端末のタッチパネルを向け、指でサインを書いてもらう。小さくて可愛らしい手。だが案外しっかりして指の皮が厚そうだ。見た目だけではなく普段から家事をしているように見える。

 なにせこんな高級マンションの最上階だ。家政婦くらい雇っていても不思議はない。さすがに子供ではないと思うが、見た目は15~6歳くらいか。声はもう少し年上の感じ。中卒で家政婦をしているのか。あるいは自宅で家事をするのに趣味ででもコスプレしているとか。いやいや、変なこと考えている場合じゃない。サインの終わった端末を受け取る。


「ありがとうございます。お荷物はこちらで大丈夫ですか?」

「ええ、ここに置いてもらえれば。」


 彼女がドアを大きく開き、玄関を手で示す。上品なしぐさで、コスプレのような服装と違いしっかりした家政婦に見える。とりあえず示された場所へ台車から荷物を置く。重量はそれほどでもないが、大き目なので彼女一人で荷物を運ぶのは大変ではないだろうか。いや、自分の仕事はここまでだ。心配してもしょうがない。


「どうもありがとうございました。」

「ご苦労様でした。ありがとうございました。」


 こちらのお辞儀に、彼女も丁寧にお辞儀を返して来る。今日はいつもより少し頑張れる気がした。


§


(さて、収納ケースも届いたし、整理が終わってるとこから仕舞って行こう。)


 作業部屋の机からカッターを取ってきて開ける。それから、風呂場のボトル類、作業部屋の裁縫道具類、化粧道具類とそれぞれ仕舞っていく。


(あとはクローゼットと靴箱と古い資料か。)


 クローゼットはとりあえずサイズ別で福江さんが着るもの、自分が着るものとそれ以外に分けた。そしてそれを種類毎に分類して、夏物を中心に使うものをハンガーかけに、冬物や、自分も福江さんにも合わないサイズ――おそらく手直しのために持ち帰った試作品等、着ないものは衣装ケースに仕舞ってクローゼットの奥へ置いた。

 服の方は大まかに整理できたが、問題は靴、帽子、ウィッグ、鞄類だ。とりあえず靴箱の靴から片づけることにする。


(収納方法を検索してみたけど、すぐ出来ることから始めるしかないよね。)


 まず使っていない物や使えないものを分ける。といっても福江さんがどれを使っていて使っていないかは分からない。ただ明らかに傷んでいる靴があれば別にしておいて彼女にどうするか聞けば良い。

 次に使用頻度別に分けること。しかし、これも聞かないとわからない。季節物や冠婚葬祭に使うもの等すぐ使わない物はクローゼットに、よく使うものは玄関に置く、という理屈は分かる。だがそもそも女性用の靴を分類出来ないのであとで勉強しないと。


 あとはそれぞれの箱に入ったまま置いてあると、箱の大きさがまちまちで上手く仕舞えないので、シューズボックスのような統一された収納ケースへ仕舞う方がスペースを取らない。ということでシューズボックスも取り寄せてある。

 もっとも、靴の量が膨大なので、今回買った分では仕舞い切れないだろう。それでも靴箱の分だけでも仕舞えれば違うと思う。あと、靴箱に入っていた掃除機は例のダンボールの有った収納の隅へ移動して、靴箱には靴だけ入れるようにした。これだけでも多少は違うはず。

 靴だけでなく、帽子やウィッグ、鞄も専用の収納ケースを買って入れた方が場所を取らないだろう。


(さすがに物が多すぎてすぐには片付かないな。まぁ来週、家事の達人さんに教えてもらえるみたいだし、少しずつ整理していくしかないよね。)


 気が付けば自分の格好が気にならないくらい没頭していた。


(もうお昼だ。とりあえずご飯を食べて、午後も整理して、一段落したら写真を撮って福江さんに送ろう。あとは夕飯の買い出しにも行かなくちゃ。)


 こうしていると主夫のようだ。見た目がメイドさんなのを意識しなければだが。しかし、来週から彼女の会社で仕事を手伝うことになっているし、時間が取れなくなる可能性もある。今のうちにできることはやっておこう。そう思って、昼食の準備のため、片付けを中断した。


§


「うん、いい感じね。コンセプト通り涼し気な印象が出ていると思うわ。」


 撮ったばかりの写真を見て頷く。ポップな背景に、パステルグリーンのセーラーロリータに身を包んだ女性が優しく微笑んでいる。実に爽やかな一枚だ。


「イメージは掴んだから本番までに調整しておくよ。」


 柔和な顔立ちに割とがっしりした体形の包容力がにじみ出たようなおじさん、カメラマンのまことは今日も優し気な笑顔だ。撮影中の真剣な表情とは別人のよう。


「うん。背景はもうちょい飾り付けた方がいいかな。来週は、つばさちゃんも来るんでしょ?」

「ええ、その予定よ。」


 撮影スペースから出てきた実奈みなは、真の妻でモデルをしている。先ほどまで被写体だった彼女だが、撮影のセッティングもしている。まぁうちに撮影スタッフなんていないので、モデルだろうがカメラマンだろうがスタジオ内の雑事は全部自分達でやらなければならない。もっとも、代わりにうちの会社の撮影スタジオは好きに使ってもらっている。言わば二人の城だ。


「衣装は間に合いそう?めぐみちゃん根を詰めてるようなら私も手伝うからね。」


 スタジオの隅にある化粧室兼衣裳部屋から彩子あやこが出てくる。撮影の時、彼女がモデルにメイクをするスペースとして簡易的な部屋にしてあるが、中は彼女の使いやすいようにしっかりと整えられている。この階でもあの一角だけは彩子の場所だ。


 3人とも起業前からの付き合いで、年下だが気心の知れた友達だ。うちの会社で使う写真の撮影も当然してもらっているが、何分そこまで沢山の撮影が必要なわけではない。なので名目上は3人ともフリーランスとして、うち以外の仕事も自由にしてもらっている。もちろん、この会社内のスタジオは自由にしてもらうかわりに優先契約してもらっている形だ。


「すでに2着目も上がりそうだし大丈夫だと思うわ。本当は今日も仮縫いで撮影の予定だったんだけど、めぐみちゃんがもう仕上げてくれてたのよね。」

「さすがね。めぐみちゃんの腕も大したもんだわ。」


 うんうんと頷きながら言う実奈。


「まぁ、それでも福ちゃんの腕前を知ってるとねぇ。」


 苦笑する彩子。


「福ちゃんは別次元だからね。比べるものじゃないと思うよ。」


 真も苦笑している。まぁ比べるものではないという意見には賛成だ。めぐみは十二分に努力している。だが、私のほうが長くデザインも縫製もやっているのだ。年季が違う。いや、別に年寄りというわけではない。年齢なんて気にしていない。

 と、スマホが鳴る。見てみると鈴からの「家を少し整理した」というメッセージと、クローゼット前に立つメイド服姿の彼の写真が。思わず顔がほころぶ。


「どうしたの福ちゃん?ニヤニヤしちゃって。」

「別にニヤニヤなんかしてないわよ。」


 覗きこんで来る実奈にスマホを隠しながら言う。


「なーんか今日機嫌良いよね?真君も彩子ちゃんもそう思わない?」


 実奈がジト目で見てくる。別にやましいことは無い。いや、実奈には鈴のことは秘密にしていたのだった。というか、典子と真にしか言っていない。


「そうだね。まぁそういう日もあるんじゃない?」


 真が言う。恋愛事となると妙に感が鋭い実奈に、そんなはぐらかしが通用するのか。


「でもたしかにニコニコしてるわね。なにか良いことでもあった?」


 彩子は実に自然に聞いてくる。だからこそ余計なことを言わないよう気をつけなければ。


「別に大したことはないわね。せいぜい仕上げがスムーズに言ってイライラしてないって事くらいかしら。」


 ちらりとスマホの画面を見る。写真は後で楽しんだほうが良いだろう。


「さっきから何見てるの?」


 実奈が身体を寄せてくる。彼女も女性にしては長身のほうだが、頭が目線辺りに来る。自分がかなり背が大きい自覚はあった。それを活かして手を上に挙げれば届かないだろう。だが、無駄に隠し立てすると彼女のしつこさに火を付けてしまうのは明白。なら素直に見せたほうが良い。鈴の写真を見て、私の婚約者だと思いはしないだろう。


「私の服を着てくれた子の写真よ。ちょっと確認してただけ。」


 しぶしぶ画面を見せる。


「えっ、何この子。すごい美人。」


 実奈はかなり驚いている。そうだろう、何せ10年もかけて探した逸材だ。


「どれどれ。うわっ、すごい美少女。」

「ほう。これはなかなか。」


 彩子と真も画面を覗き込んでくる。


「これ福ちゃん家でしょ。誰なの?」


 まぁ聞かれるだろう。想定はしている。


「ふぅ。まぁ見せちゃったからには仕方ないわね。来週からモデルをやってもらうことになってる子よ。」


 嘘は言っていない。


「えっ!初耳なんだけど。見たことないし新人よね?」

「もちろん。というかモデルの仕事自体初めてなの。いじめちゃダメよ?」

「しないしない。むしろ可愛がっちゃう。」


 実に嬉しそうに言う実奈。可愛がりすぎてエスカレートしそうだ。


「セクハラも禁止。」

「しないって。ちょっとハグしたりおさわりするだけだから。」

「そういうのをセクハラって言うのよ。」


 釘を刺しておかないと。彼女は行動力もあって非情に頼れるが、それがいけない方向に暴走すると質が悪い。


「真君も彩子ちゃんも初耳でしょ?」


 二人の方を見る実奈。


「ええ。聞いてないわ。」

「僕も知らなかったよ。」

「でしょ?こういうことは先に教えておいてほしいわ。」


 怒っているのか喜んでいるのか分からない口ぶり。まぁ実奈らしいといえばらしい。しかし、真には言っていたような気がしたが。


「真君には言わなかったっけ?」

「ちょっとどういうこと真君!」

「えっ?いやモデルの子なんて聞いてないけど。」


 実奈に睨まれて手で制す真。とぼけているとう感じではない。婚約者として鈴のことは話したが、モデルをすることは言っていなかったようだ。

 騒いでいるとスタジオのドアが開く音。つられて見ると典子が入ってきた。


「社長。今日は全部署定時で上げますが、こちらはいかがなさいますか?」

「ええ。こっちももう終わるわ。」


 時刻を見るともう数分で定時になる。どうせ来週の月曜から撮影の予定なのだ。電気だけ落とせばスタジオはこのまま土日放置しても問題ないだろう。


「ちょっと典子ちゃん、見てよ!来週からって知ってた?」


 実奈が私の持っているスマホを指す。


「ええ、お話だけは。少し拝見しても?」

「いいわよ。」


 そういえば典子にも話だけで姿を見せるのは初めてだった気がする。


「えっ。この方が?なるほど。」


 典子が今までにないくらい驚いている。いや表情は変わっていないが。


「じゃあ典子ちゃんにしか話して無かったの?」


 実奈が呆れたように言う。


「いえ。私と真さんには話されたとおっしゃっていました。」


 典子の言葉に実奈が真の方を見る。


「えっ?いやホントに知らないんだってば。」


 実奈の表情はこちらから見えなかったが、真はかなりうろたえている。


「しかし、婚姻届の証人は私と真さんが書くとおっしゃられていたのでは。」

「あっそういう。あっ――。」


 真が腑に落ちたという顔のあとしまったという表情になる。まさか典子が口を滑らせてしまうとは。


「婚姻届ぇ!?」


 実奈の絶叫。


「あれ?もう話されたのでは?」


 典子があっけに取られている。頭を抱えるという形容があるが、まさか自分がそうなるとは。もうこうなったら覚悟を決めるしかない。


「ちょっと!ちょっと!どういうこと?何の話?写真の子は本当は誰なの!?」


 実奈が典子の肩を掴んでがくがく揺さぶっている。彼女の顔はいつも以上に無表情というか、やってしまったと呆けているような。


「はぁ。もう隠してもしょうがないから言うけど。私結婚するのよ。写真の人が婚約相手。来週サプライズで会わせる予定だったのよ。」


 嘘は言っていない。が、これで納得して引き下がる相手ではないことも分かっている。


「ほほう。ということは真君と典子ちゃんは知ってて黙っていたと?」

「すみません。口止めされていたもので。」


 典子はすでに諦めたようだ。


「右に同じく。」


 真も手を上げて降参している。


「まぁまぁ。そのくらいにしなさいな。実奈ちゃんがこうなるから黙っていたんでしょうし。」


 彩子がフォローしてくれる。ありがたいが効果は薄いだろう。


「それはそうかもしれないけど、でも気になるでしょ?何がどうしてそうなったか!」


 典子の肩を掴んだままこちらを見てくる実奈。


「そんなにがっつかなくたって教えてあげるわよ。来週の月曜に彼も連れてくるんだから今日はいいでしょ。」


 もう時間も時間だ。いつまでも会社に残っているわけにはいかない。ここらで納得してもらえればいいけれど。


「それじゃ飲みに行きましょ。内緒にしてたんだから嫌とは言わせないわよ!なんなら婚約者君も呼んで。」


 まぁ納得してくれるわけはないと思っていた。だが、鈴は守らねば。


「飲みに行くのはいいわ。けど彼は呼べないわよ。」

「なんでよ。」


 実に不満そうだ。適当に言い訳をしてもいいが、また嘘をつくと後が面倒。ならばストレートに言った方が良い。


「彼、少し人見知りなのよ。それをいきなりこのメンバーの飲みに誘ったら可愛そうでしょ。だから来週お仕事で少しでも彼に信頼されるようになさい。そしたら一緒に飲みに連れて行くから。」

「むむむ。良いわ、今日はそれで勘弁してあげる。その代わり全部答えてもらうからね。」


 指を突きつけてくる。無駄にきれいで芝居がかったポーズ。なにもそんなところにモデルの技を活かさなくてもいいだろうに。


「まぁ答えられるだけね。私だってまだ彼のこと知らない事の方が多いんだから。それじゃ私は彼に遅くなるって連絡してくるわ。その間に支度を終わらせなさい。」


 そう言って一人ドアへ歩き出した。


§


「もうこんな時間だ。」


 ふと時計を見るとすでに福江さんの会社の定時だ。結局買い物から帰ったあとも整理に没頭してしまった。そろそろ夕食の準備をしなければ。そう思った時スマホが鳴る。見ると彼女からの着信。いつもやり取りはメッセージだけだったので、電話してくるのは初めてだ。


『鈴ぅーっ!』


 福江さんの声が上ずっている。何かあったのか。


「ど、どうしたんですか?福江さん?」

『ごめんなさーい。今日は早く帰るつもりだったのよ。でもね、うっかり友達に捕まっちゃって、飲みに行かなきゃならなくなったのぉ。』


 なんだか半分泣いているような声にも聞こえる。


「そうなんですね。帰りが遅くなるってことですか?」

『そうなのぉ。』


 残念ではあるが、こんな彼女は初めてなので驚きのほうが勝った。


「ええと、夕飯もいらないですよね?」

『そうなのぉ。一緒に食べたかったのに、ごめんねぇ。ほんとにほんとは、今すぐ帰りたいんだけど、いろいろあって付き合わないといけなくて。鈴ぅーっ!愛してるからぁ。ほんとにごめんなさいねぇ。』


 そんな風に言われたら許さないわけにはいかない。というか別に怒ってはいないし、彼女にだって友人との付き合いもあるだろう。いくら婚約者だからって束縛するつもりはない。もっとも、捨てられる不安が無いとは言えないが、こんな声で愛をささやかれたら不安も苦笑に変わってしまう。


「大丈夫ですよ。何時でもお帰りをお待ちしてますから。僕も愛していますよ、福江さん。」

『ありがとぉー鈴ぅ。帰ったらいっぱい愛し合いましょう。それじゃ頑張ってくるからぁ。』


 何を頑張ってくるのかは分からないが、彼女が本当に帰ってきたがっているのは伝わった。


「わかりました。お気をつけて、いってらっしゃい。」

『いってきますぅ。』


 終始妙なテンションのまま電話を切った福江さん。時間的にまだ飲んではいないと思うが、深酒でもしそうな勢いは感じる。ふとスマホの画面で時間を確認する。


(時間的にはまだ余裕があるか。ちょっと買い物してこよう。)


 もう一度出かけようと、今日の外出着を取りに行った。

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