走る理由

江戸文 灰斗

苦しい、しょうがない、どうでもいい

息の軌跡が頬の横を通り抜ける。私は口に溜まった唾をぐっと飲み込む。呼吸が乱れて苦しい。しょうがない。どうでもいい。


私、今日何したんだろ。


部活は昨日やめた。先輩にケンカ売ったらハブられた。アイツが100パーセント悪いのに。

返ってきたテストが三十五点だった。もうちょい勉強しておけば良かったと後悔のようで後悔じゃない感想を抱いた。

今日、今日したことってなんだろう。


きっと、家に帰れば鞄置いて、ソファに身を投げてスマホに取り憑かれる。今日あったことなんて完璧に忘れてしまう。


咳き込む。涎を拭ってまだ走る。腕を振る。理由はなんだ。理由ってなんだ。


高校生にあがってから理由のわからない時が増えた。理由なくムカついて、理由なくダルくて、理由なくモヤモヤが募る。


なんだよ、チクショウ。わかんない。


青春もののドラマで、主人公たちは決まって走る。青春って走るってことか? 意味わかんない。彼らはなにか成そうと、なにかになろうと走ってる。私はなにかになろうとはしてない。


溜まってるんだ。燃料が。

青春のエネルギーが溜まりに溜まって自然発火してしまいそうなんだ。だから走ってる。そこに綺麗な理屈とかはなんにもない。

ただ私は私はまだ。

私はなんにも成してない!

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