第40話 あっはっは、力持ちで良いことじゃないか(必死に目を逸らしながら)
二人きりになってしまうと衆目に関係なくイチャイチャし出すと評判の二人なので……いえ、私は自重しているつもりなんだけど、周りからそう見えるというのだからそうなんだと思う。
オト高のスパダリとスーパーに行く姿はやはり耳目を集めるということで私の帰宅にお付き合いをするのは。
「ふっふっふ~……まあその荷物持ちなら任せて」
一華と帰宅できないのならばとりま一人でと考えていた私だけども、相手方が強硬に迫ってきたらどうするの!? 孕ませるよ! と諦めてくれた感が皆無な雅ちゃんに写真片手に脅迫された。
とはいえ筋力に難のある彼女ではボディーガード足らないとなり、立候補をしてくれたのが立花ふたりちゃん(自称力持ち)なのだ。
冗談交じりに「鉄球を圧縮したり?」と言ったら「それは無理、フライパンを曲げるくらい」との返答があり「フライパン……?」と桜塚怜は訝しんだけども、フランスパンの聞き間違いだと思い納得した。
「すごいねえ、シュンシュン動いてたねぇ。私には何かが光ったようにしか見えなかったよぉ」
「そこまで瞬間移動じゃないかな!?」
スーパーでの私の動きをインフレに付いていけなくなったZ戦士みたいな例えを使って褒めてくれるけど、コレに関しては慣れの話だ……私が特段優れているわけじゃない。
「あの、重たい荷物を持って頂き感謝感激……ほんとう、重くない?」
「え? ああ、だって私は鍛えているもん。これくらいなんてことないよ~」
重たい荷物なら何でも~と言われて、むしろそれがお望みならとお米と油を追加購入したけれども、彼女はティッシュをつまみ上げる感じで荷物を持っている。
さすがにかさばるからと油の入ったエコバッグは自分が持つと主張したけど「じゃあ、空いた片手で怜ちゃんを持つね~?」と笑顔で言われたので、懸命な私はすべてを任せるほかなく。
と、家まで何ごともなく帰れそうだなあ……と思っていた私をあざ笑うように、物陰から「いかにも」な感じの荒々しい人たちが現れた。
もちろん、北斗神拳の使い手が活躍する漫画のようなチンピラさんが徒党を組んで登場したわけではない――脚力に自信はないけど、荷物を放り出して全身全霊で走りきる邪悪さはない……ないけど、こちらを面白げにねめつける姿は背筋に寒気を覚えた。
「お嬢ちゃん。ちょっと俺らと楽しいとこ行かない?」
あ、これ選択肢間違えたら傷つけられるやつだ、と直感で理解し「荷物は良いから逃げよう」とふたりちゃんに提案をする。
弱々しげな提案が何かの琴線にハマったのか、不良って感じの人たちのニマニマ具合が生理的嫌悪感をもたらすくらいに膨れ上がる。
が、腕を揺らしてもふたりちゃんは微動だにしない。私を無視するようにスッと目を伏して、普段のポヤポヤした感じからはかけ離れた冷たい声で
「首謀者を吐いてくれたら、命だけは助けてあげるけど」
こんな状況で冗談を言うような軽い子じゃない。だからふたりちゃんからすればこの手の人たちも恐るるに足らずって感じなんだ。
でもね! でも! 見た目からして天使みたいでほわほわのウェーブ髪で女の子を凝縮して作りましたみたいな女神が、少々の怖さを伴った声色で本音をぶちまけたって相手に伝わるはずないよ。
「命だけはげふぅ!?」
「持ってて」ととてつもなく重い荷物を預けられ、私の身体がゆらりと傾いている間に一番近くに居る茶髪の男性が蹴り一発で吹き飛んだ。
そのままコンクリートの塀にぶつかってからしばらくして、くの字になって地面へ倒れた。
「吐くか、今後私たちに手を出さないかどちらかを選べ」
直視できないレベルで眼光が鋭くなっている。いくら私が両者にやめようと言ったところでもう止まらない……。
「おい待て、俺は桜塚ありすの同級生だぞ」
首謀者に何らかの弱みを握られているのか、女の子ふたりに尻尾巻いて逃げるのも格好悪いと思ったのか、ふたりちゃんが「早くしろ」と言いつつ怖い見た目の人たちを殴り飛ばすさなか、
一団の一人で明らかに面々の中では年下だなって子がそんなことを言った。
「だから?」
”私”から出たのはそんな台詞だった――ふたりちゃんがたじろいだ気がする。
「だからって分かるだろ、家も知っている、クラスも知っている手は簡単に」
「そっかぁ」
持ってて、と荷物をふたりちゃんに預けて、私は妹の同級生に近づいていく、すごく冷静な感じもするけど心は怒りで包まれていて……。
「手を出してみろ、半強制的に去勢させるぞ?」
「ひっ」
おかしいと思ってたんだ――どうして彼らが家の近くで待ち構えていたのか。
「ゆ、許して……」
「もしキミがありすちゃんに優位な立場でいて、妹ちゃんが許しを乞うて助けてくれるのかな?」
「も、もちろん」
「あはは」
顔面に蹴り一発。
「人はね、発言で決まるんじゃないんだよ……信頼される行動をしてはじめて言動が信頼される人間たり得るんだ。良いお勉強になりましたね?」
と、私が中学生相手にふざけたことをしている間に、ふたりちゃんが荷物を抱えながら集団をひれ伏させていた。
「もう! 怜ちゃんが手を汚す必要なんてないのに!」
「ご、ごめんなさい」
「101回目の惚れ直しになったからいいけどさぁ」
「いや、もう私は告白した相手がいますので……」
「フォッフォッフォ……聞こえないのぉ……」
「こんな近くで!?」
路上で人が寝ていると110番しようかなと思ったけど、ここは面倒なことになる前に退散だよ! とふたりちゃんに手を引かれた私はズルズルと引きずられるしかなかった。
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