第39話 次回ふたりちゃん大活躍!?(しなくていいんだよ!?)

 結論から言えば保健室の先生の判断は正しかったのだと考える。

 階段を降りてまもなく生徒とすれ違いそのまま折り返しまで転落をしたのを思いだし、あまりの恐怖で泣きだしてしまったから。


 本能的な反応なのか、私の隠された能力なのか(ない)は分からないけど、上手く対応していなかったら病院へ直行していた――お姫様抱っこされている最中に恥ずかしくてずっと両手で顔を押さえていたことなど黒歴史にしてはいけない。


 感情を発露させてグスグスしている間に布団の心地よい温かさと、心地よい眠気が襲ってきてウトウトとしている間にどうやら眠ってしまったらしい。


「……!?」


 目を開いてからその直後にベッドの上で起立しかけるまでほんの数秒、その間に雅ちゃんは「なんだなんだ」って感じで身体を起こす。

 ほわほわとした笑顔はいつもの通りの雅ちゃんで、過激なコスプレをリクエストして地が出たのも、貸し切りになったプール内でふたりちゃんと私にとんでもない露出度の水着を着させたのも……あ、うん、雅ちゃんだった。


「その写真を見せるというのはどういったご要望があってのことでしょう……」

「ちょっと聞きたいことがあってね」


 時間を確認すると昼休みの最中だから、何かの用事があって私を使おうとしたんだけどもグースカ眠っているものだから一緒に布団に入っちゃえと。

 彼女は大事そうに鞄の中に写真をしまい込むのを見ていることしかできなんだ――だって、お金に困ったら売るって言うんだもん……。


「さて、犯人に対して心当たりはあるのかな?」

「恥ずかしい写真を出して逆らえなくさせているのは間違いなく雅ちゃんですが……」

「なるほど」


 犯人というのは恐らく、私を突き落とすか何かをした実行犯……もしくはそれをやらせた人に当たるんだろうけども。

 雅ちゃんにはそういう問題に首を突っ込んで欲しくないし、巻き込むのならスイパラ行き放題とかの幸せなイベントであって欲しい。


 なお、メモ帳をチラ見したところ犯人に対する情報は持ち得ないと書いてあった――今の会話でどうしてそこまで……。


「こういうことをされる身に覚えは? 誰かと喧嘩したり、なんか気に障るようなことを言ったり」

「……私がそう認識していないだけで、そのように考えた可能性は大いにあります。不出来だから」

「はは」


 乾いた笑いを雅ちゃんが起こした。私に対する失笑ではなく、表情からして憤懣やるかたない感情をどなたかに抱いているご様子。


 スーパーで限定品を私に上手いことかすめ取られたとか、今はグループ限定だけども一華とお付き合いをしているのを知られちゃったとか、私の行動が誰かの不幸に繋がったのかもしれない。


 ただメモには相手の逆恨みによる犯行と筆圧強く書かれていてなんとも言いがたい……自分の立場から「そうじゃないよ」とはさすがに言えない。


 しかし「もっと怒って」と煽るのも変だ……そう、不幸な事故だったと思ってくれるように何とか、差し向けることだけを考えよう。


「大事なことなんだけど、心配してくれた生徒がいたって話だったよね? 名前を出して?」

「……そ、その当初は体中が痛くて、怖い思いをしたからまったく覚えてなくて……」


 海未ちゃんか一華を経由して「声を掛けた」生徒がいるというのを把握してから、私がしばしの睡眠を取っている間に「私が知っている人間」「名前を出せば芋づる式に犯人までいたる可能性がある」まで見当を付けてこちらに自白を迫る。


「お金には困ってないけど屋上からこの写真をばらまくしかないか……」

「それで雅ちゃんの機嫌が直るのならいくらでも」


 彼女は寂しそうな笑みを浮かべて……ちゃっかり鞄に戻す。そこは写真を消去する場面ではないでしょうか? や、まだ利用価値があるならば布面積の狭い格好をした私もちょっと喜ぶところなんですけども。


「まあ、久しぶりに怜とおふざけの一つもやってみたかったのだ」

「な、なーんか生きた心地がしなかったよ!?」


 どーんとお尻からタックルするのを受け止めつつ、身体をすり寄せるのを「もうお相手がいますので……」と限度を願い出。


「海未のグループにいる子だね?」

「はっ!?」


 私は違うんだけども、神岸グループのメンバーはそれぞれに仲の良い友人と言いますか、各個に複数のグループに所属していてあっちこっちに交友関係がある。

 所属ごとに位があって上位に行こうと日夜研鑽に励んでいるとかそんなことじゃなく、一華中心じゃないけど参加しているグループに所属しつつ、海未ちゃんの参加するグループにも顔を出すみたいな人もいる。


「変だと思ってたんだよねえ……ただ、声を掛けた人間がバレるだけで犯人まで行き着くってのが。怜はその子が海未目的でパシらされていることを知っていたでしょ?」


 その人自身の交友関係から犯人に行き当たるパターンは、交友関係が少なく直でその人までたどり着くパターンだけだ。


 雅ちゃんみたいに交流が無限大に広がっていて、一人一人を疑っていたら卒業まで未解決……というか風化して終わりだ。


「宮崎さんは海未ちゃんのことを心底慕っているし、海未ちゃんもある程度把握していると思う」

「何部?」

「……バレー部です」

「体育会系はなんとまあ、序列が厳しそうだねえ」


 メモ帳を拝見させて貰うと、犯人は分かった、解決までしばし様子を見ると書いてあった。

 よかった……武器を持ってカチコミに行くとか書いて無くって、様子を見ている間にみんなの機嫌が直って健やかな学校生活、となると良いんだけどな。


 私が痛い思いをするだけなら、自分が我慢すればいいんだし。

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