第21話 もうちょっとそれっぽくならない(ごめん……)
さて、勝者に与えられるのは栄光と願い事を言う権利。
もちろん私は周囲に迷惑をかけない範囲でと釘を刺すのも忘れなかった。
一華は常識的な女の子だから、糠に釘とはならないで欲しい。
「ちなみに今何択にまで絞られているの?」
彼女が願い事を考えてから、難しい試験の問題に当たるように考え込んでいるので。
どうしてそんなに悩んでいるの? 私としたいことなんかなかった? と冗談めかして言った。
キミが生きているだけで地球の酸素が減るから潔くして欲しいんだ的なコトを言われちゃうと涙目で俯いちゃうけどね?
「100コくらい」
「ダメよ、1個になさい」
買いたい物は何が良いと小さな子に尋ねたら、あれもこれもと言うように。
桜塚怜としたいことは100個もあると宣ったのだ、嬉しいけど喜んでもいられない。
「そうだな……3つかな」
「たくさん譲歩したね……偉いぞ、一華」
「まあ、近い未来にそれらすべてを実行することになるんだが……」
「仮に恋人になっても私に発言権はあるよね!?」
どのような願い事を携えているかは知る余地がないけれども。
私を巻き込むのであれば発言権の一つや二つは残して貰いたい。
「キミの感情次第だな」と彼女はうそぶくけれども、それはあなたへの好意次第だよね? 屈服するしないとかじゃないよね?
「よし、決めた」
彼女は私の顔を見ながら、いささか真剣な面持ちで決意を表明した。
その力強さには思うところがあるけれども、ともあれ私はできる限り望み通りにするまでだ。
「……」
が、ためらいを覚えたのか、上を見たり左右に視線を送ったり、両手を上下させたりと挙動が怪しくなった。
「キスと言おうと思ったが、メッチャ恥ずかしくてどうしようってなってる」
「ありがとうね!? 一華の羞恥心様!」
からくり人形みたいな両腕の動きが可愛いとか言わなくて良かった。
この女は両肩を掴んで顔面を近づけさせるつもりだったな!?
おそらくキスしてから「コレが願い事だ」とか格好良く決めるつもりだったんだろう――
私はと言えば両腕を寄せて手を組みお祈りでもするかのポーズを取り、ノーセンキューのポーズを取った。
さすがに公言されてからのチューは恥ずかしさで死ねる……復活できるか分からない。
「だが待って欲しい、私はキミの裸体ならつぶさに思い出せる。これはキスをするよりも恥ずかしいことではあるまいか」
「そんなこと言う王子様にキスされたいと思うのかな!?」
白雪姫もシンデレラも恋の呪縛から逃れて平穏な生活を望みそう。
まあ、王子と離婚とか一大スキャンダルだから外せない十字架を背負うけど。
結婚した時点で色んなモノを背負って立っているから、その前に無ししておくべきだったかもね、熱が冷めるのなら。
「自業自得ではあるが、ムードもへったくれもない。キスはいずれの機会にしよう」
私の強引な守勢に引いたとかではなく、攻勢へと至れない自分自身のふがいなさに凹んでいる様子だった。
その姿を見ていると軽いマウストゥマウスくらいなら……や、ほっぺたとか鼻ならオーケーと思うけど、私の電源が落ちそう。
「よし、ハグだ……雅が抱きついているのを見て羨ましく思っていた!」
「みゃーちゃんは距離感がちょっとバグってるから……」
ポッキーをあげると指ごと食べようとするからね、気分はいつも肉食獣にエサやってる感じ。
ともあれ、私にとっては微笑ましい交流もお望みならば身体を差し出そうと思う。
抱きつかれるケースはそこそこあっても、親愛のハグなんて「欧米か!」って感じだ。
両手を横に広げてくれないかとも言われたので、言われたとおりにすると。
「ワ、ワァ……」
脇の下当たりに差し込まれた腕により、私の頬は鎖骨のあたりに乗り、背中から強く抱きしめられる。
鼓動が耳鳴りみたいになっている、これが警戒アラームだったらもう手遅れだ。
力強さも感じるのに、大事にされている感もある。云万円の高級食材を扱われるようにされるとくすぐったくてしょうがない。
「今思い出したが、ふたりも羨ましく思っていた……」
「あれはちょっとファンサと言いますか……」
「喜ぶ人がいるから」「おねがぁい」とか言われて断れる人いる?
「そうか、これがキミのぬくもりなんだな」
「半分くらい一華のくれた入浴剤が作ってますけど……」
「今日は恋人dayなのでもうちょっとそれっぽくして欲しい」
抱きしめている相手がメッチャ美麗な女の子だから、否が応でもドキドキするってもん。
だからふざけ半分にならないと、いけない気分をごまかしきれないと申しますか……。
このままベッドインとかされたら、ハグのまま強く当たってそのまま流れで朝チュンになりかねないですよ……?
「ブラ外して良い? 得意なんだ」
「突き飛ばすよ?」
オト高のスパダリの意外な特技により、濃厚接触はこれにて終了――
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