第15話 でも実際に着替えは見たかった(見たかったの……?)
妹ちゃんの友人は家に招かれる我が家なれども。
姉は気易い人材(あ、これは来やすいと気易いをかけた……)ではないので来訪者は至らざりけり。
来訪者への対応方法に四苦八苦し、入眠するまで二時間と睡眠に思い悩むかと言えばそうではない。
考えすぎの傾向がある私を妹ちゃんが「明日寝不足気味だったら怒るから」と釘を刺したのだ。
つまり、眠らざれば死である。
姉は妹のお願い事ならば、例え火口に笑顔で飛び込めと言われても果たされなければならない。
まあ、難しいことをしたわけではなく、布団に横になってボーッとしていればそのうち眠れるだろうと、大らかに構えていたら朝だったのだ。
快眠ゆえだったのか平時の起床時間よりも大幅に遅れての一日の開始。
母にはいつもこの時間で良いと笑いながら言われたけど、それはやはり申し訳ないので……。
日常が睡眠不足で彩られていたためか、普段より生気があるわねと海未ちゃんに言われた。
「え? 普段から死にそうな顔をしている?」と言ったら「田んぼのタニシくらい元気無さそう」と返された。
タニシってそういうときに使う表現なのだと桜塚怜は新しい見識を得た。
友人と家に帰るなんてことを体験してなかったので、制服を着たままか直帰するのかで判断に困ったけれども。
「友人と談笑するのもいい流れではないか」との一華の発言で共に下校は果たされた。
今回は遊ぶのが目的であるので、私の手にも彼女の手にもマイバッグはない――部屋に通されたときの第一声が、感想じゃなくて。
「買い物に連れて行かれるかもと思った」だったのは私の不徳の致すところ。
私の部屋の中には基本的にモノがない。長く時間を潰せるからという理由で積み本は文学全集だし。
時間が溶けるからという理由でスマホはリビングに鎮座させている……携帯なのに手元にないとはこれいかに。
「おお、これがゲームか……? 失礼ながらイメージとは違うな」
桜塚怜と同じように可愛げもない無機質な部屋の中で、その存在をアピールしているのは何十年も前のハードだ(父母のお下がり)
彼女の頭の中ではVR云々とか、トレーニングできるようなやつがあるようだけども。
「少し良いか?」
「え? うん。何か足りないモノがあった?」
お前の頭の中身とか言われたら「うおお、恵んでくだせぇ!」と言いながら襲いかかる自信があるけど。
……もちろん足りないモノはいくらでもある。女の子らしさとか、年頃感とか。
片付いているけどムードがねと言われたら「後は頼んだ……」と言って入滅するかも。
「着替えてほしい」
「本当好きだね!?」
「違う! いや、まあ、キミの着替えなら定点カメラを入れて覗いてても構わないがそういうことじゃない!」
訂正で変態性が増す発言をされた気がするけど、彼女が忘れてくれと恥ずかしげに言うのでこれ以上は追及をしない。
私は大人ではないけれども、人が嫌がることをして喜ぶ趣味もしてないので続きを促した。
「部屋着になってくれ」
「や、でも、一華は制服だし……着の身着のままっていうのも」
「後生だ」
これ以上願うことはないと言わんばかりに頭を下げる姿に「私の部屋着にそこまでの価値が……?」と首を捻りたくもなるけど。
自分の招いたお客様がくつろぎスタイルを所望するならば主催の自分は全力でそれに応えよう。
「え? 部屋から出るの?」
「キミの着替えをマジマジと覗きたいと言わんばかりなのは心外だが……」
「そっか、確かにね。ごめんね」
自分もマジマジと見られて喜ぶ趣味はないけど、前日は隅から隅まで見られていたからこれくらいの意趣返しは良いと思う。
後ろ髪を引かれるような顔をしながら出て行くのを横目で見つつ、私は制服のボタンに指をかけるのだった。
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