第13話 でも会話の最中一華はだいたい胸を見てました(そりゃあね?)

 お昼休みに起こったイベントによって私は精神鍛錬へ連れて行かれそうになる。

 けども、一華が助け船を出して事なきを得たのだった。


 ふう、安心安心かと言えばまったくもってそうではなく。

 ずんすかずんすかと彼女に言われるがままに連れてこられたのは、私がピンク色の妄想に包まれるきっかけとなった会員制プール。


「まあ、ブラジリアン水着じゃなくて安堵はしたよ」

「会員制とはいえ、目がないとも限らないさ。君の裸体は私だけのモノ」

「逃げ出したいくらいいやらしいこと言う」

「ほんとゴメン」

「そういうキャラじゃないでしょ」


 着替えガン見の時点でマナー違反も良いところ。

 その上で裸体とか生々しい表現はやめて頂きたい、羞恥心が増す。

 

 色気とか艶気とは縁遠い私が言っても「負け犬の遠吠え」感ある。

 けれども色香をまとうお姉さんが着てそうな水着じゃ無くて良かったと思う。

 

「いやあ、フリルが付いててちょうど良いよ、ぶよぶよとした肉体を見せなくてすむ」

「どこがぶよぶよなのか一考したいが、喜んでくれて嬉しいよ。私のセンスがキミに合ったんだからね」

「確かに……私が選んだモノが一華に合うとは限らないか」


 サプライズ感あるけど、彼女がハイスペな脳の一部を使ってもてなしてくれているのだ。

 ここは彼女の望む通りの行動をするのが、友人(強調)に対してのマナーと言えよう。


「しかし、しなやかだよねー? あんまりじろじろ見ちゃいけないとは思うけど、さっき見られたから良いよね?」

「墓穴を掘った!」


 最新鋭の水着との謳い文句と一緒に一華が写ってたら、購買意欲が増しそうだと思った。


「これだけは伝えたいんだけど、ありがとうね」

「海未から助けたことか?」

「みゃーちゃんをけしかけたのは反省してください」

「キミは時折怖いくらい人の行動を読むな……」

「陰キャの処世術なの!」


 一華が想定していたもてなしは本来グループのフルメンバー揃ってのモノだったと思う。


 精神修行に連れて行かれそうになったから、強引に私だけを連れて来たけど。

 みゃーちゃんはごねていたのでいつしか私か一華がご機嫌取りに伺うかも。


 ふたりちゃんは天使みたいな笑顔のままで口を開かなかったけど、私がその立場なら迷わずそうするのでオーケー。


「あなたが同席していなかったら一生縁がない場所だよ。エレベーターも滅多に乗らない人種だよ私って」

「それは君が歩きたがりだからだろう。海未が喜んでたぞ」

「え、その、アイツが喜ぶなんて大概みたいな顔されると不安なんだけど……」


 交通費の節約と運動不足解消を兼ねて一駅二駅分くらいまでならスーパーを行脚してしまうから。

 このホテルだって本来は階段を使って行きたかったけど、スイートなルームさんへはエレベーターでないと行けないんだって、残念。


 一華と前々から付き合いがあった私からすれば、防犯上の理由? ガハハって感じだったけど、プールにおわする皆々様の気品漂うこと。


 そんな皆様より一段ステップアップしているのが一華で、そんな人間に口説かれているのが私だ。

 王城に来たシンデレラってこんな気分なのかもしれないって居心地の悪さを感じている。


「何か飲むかい? 会員なら無償で提供されるから気にせずに頼むと良い」

「飲んだら五キロ痩せるやつ」

「健康通販番組じゃないんだぞここは」


 や、だって、隣にいるのがモデルって言葉が自身のためにあると言わんばかりの美麗さなんだもん……。

 え? 豚の擬人化かなにか? ってプロポーションの私と違って、アニメのキャラみたいだもん、AIで作られてるのかな?


 結局決められなかった私はしなを作りながら「私好みの逸品で一つ」と提案し、彼女は顔面に似つかわしくない怪しげな声を漏らしつつ、了解と続けた。


「うわっ、すごいブルジョワな味がする」

「お気に召したようで」

「え、そんな小動物みたいな顔してた?」


 なんかメッチャデートみたいなことしてるね、と言いたくなったけど、自分が求めているのは友情だと認識しジュースと一緒に口に含んだ。


「なにが入っているか分かるかい?」

「カボチャみたいな色と甘さのメロンに牛乳と生クリーム、あと甘味」

「かんみ?」

「うん。フルーツなのか、甘味系の何かなのか、飲料なのか、甘いわけでも甘さが足りないわけでもない絶妙なバランスの何かが入っている」


 「正解は?」と私が尋ねると「越後製菓」と小ボケをかましたので彼女も分からないんだろう。


「失礼、キミが料理をしていると言ったら、なにが入っているのか訊いてみろとね」

「ありゃりゃ、落第点だね」

「そんなことはない。私がなにも知らずにこれを出されたらメロンくらいしか分からない。下手したらフルーツジュースだ」


 いやいやまさか、と思ったけど彼女は私の予想以上に真剣な眼差しで言葉を続けた。


「私は幸運にもアレルギーや食べ物であたった経験は無い。だけども将来、キミや私の娘が食べてはいけないものがあるかもしれない。避けられるものだったら良い、だが、知識が無ければ代替できないとしたら?」

「そんなこと考えている女子高生なんてそうそういないよ、私もその一人」


 お手上げのポーズをしながら考える――卵とか小麦とか、牛乳や木の実の類いもあるか。

 自分の知り合いで甲殻類のアレルギーを持つ人もいる。


「私の想像する将来というものが、まったくのスカスカであることに気づいてね」

「未来を構築できたとして外れくじ引くかもしれないから」

「でも、そんな未来にキミがいてくれたら、と気づいたんだよ」

「メッチャ外れくじじゃない!?」

「桜塚怜に失礼だと思わないのか」

「私の話だからね!?」


 なんか話が暗くなりそうだったので、無理に盛り上げて見せた。

 一華は最初こそ「いやいや」みたいな感じだったけど、私が無理をすることで折れてくれた。


「キミは私が隣にいる未来が想像できていなさそうだな」

「言っておくケド、一華だからじゃないからね?」


 グループの誰かしら、もしかしたら通りすがりのイケメン、どこかの国の権力者であるかもしれない。

 

「安心しろ、必ずキミが隣にいて損しない人間になってみせるからな」

「今もそうだと思うけど」

「怜が満足しなければ意味がない」

「それはそうなんだけど」

「身体の相性だけでも試してみるか?」

「そういうことは冗談でも言わないの」


 私は「明日は友人day」であることを思いだし、茶目っ気たっぷり(自称)の笑顔で告げることにした。


「じゃあ、明日はウチ来る?」

「マ?」

「うん。言っとくけど、友人dayだよ?」

「マ?」

「それは知ってるでしょ。今日はデートみたいなことをした恋人dayなんだから……ありがとうね、楽しかった」


 なんか変な話して終わりだと申し訳なかったので、お礼含みで今の気持ちを吐き出してみた。

 彼女はポカンとした表情のままこちらを見やり、すごい勢いで顔が真っ赤になった。


「キミはズルくないか!? これから更衣室で制服に戻るんだぞ!?」

「なにもしないよね?」

「嫌がることは死んでもしない……!」

「じゃあ大丈夫」

「うおおおお……私は大丈夫私は大丈夫私は大丈夫!!」


 ここでは私が一枚上手だったんだけど、妹ちゃんからもてなしの用意はあるのと言われたので。

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