第12話 だって90センチとか越えてたら気になりますよ(ハレンチですよ)

 恋人関係で覚悟がいると言えば……脳内が桃色の光景に包まれそうになったから首を振ってかき消した。

 

「あれあれ? どうしたの? 頭痛い?」


 立花ふたりちゃん――私はこの子を天使と呼んでいる。実際に天使だからね?

 柔和な笑みは柔軟剤入ってんのかってくらい朗らか。

 近くに寄ればバニラエッセンスに漬けられたんじゃないかって甘い香り。

 

 胸の重りを物ともしない運動センス……ちぎれそうマジ無理って放棄したくなる私と違って頑張り屋さん。


 グループの一員でなければ交流する機会は卒業後にも訪れなかっただろう。

 ほらまあ、同窓会って行事もあるけど私は出席のハガキすら送達されないだろうし……あ、最近はQRコードでいろいろできるんだっけ?


「ううん。だいじょうぶ。よしんば頭が痛かったとしても、ふたりちゃんに撫でて貰ったらすぐに治るよ?」

「え、じゃあ今すぐ撫でさせて貰っていい!?」

「こんな頭で良ければ……」


 前のめりになって顔を近づけてくるからドキッとしちゃったよ。

 制服越しにも威圧感があって存在を主張する重しがバルルン! って震えたのにもビックリだよ。


 ほら、私みたいな陰キャがバストアピールしたらふざけんなオマエってなるから、できる限り主張しないように気をつけてる。

 でも、天使のふたりちゃんが胸を震わせると、ありがたやありがたやって拝みたくもなる――ならない? 


 たおやかな指や柔らかな手のひらで頭を撫でられていると、天然温泉を謳い文句にした旅館に泊まっている心持ちだよ。

 

 なぜか頭を抱えるくらいに近いから、私の頭を胸がふんわりと包み込むので「これが天然のマッサージャー」とか変なこと言って昇天しそう。


「なにやってるのだ?」


 コレが私を退化させる精神攻撃でもオールオッケー、ビバエンジェル・ハイロウと撫でる掌と包み込むバストに身を委ねていると。


 怪訝そうな声が私に正気を取り戻させた――夢は目覚めるときが一番辛い。現実とのギャップで死にそうになる。


「どうしたのみゃーちゃん」

「聞いて聞いて! ビッグニュース!」


 ビッグと言うけれどもみゃーちゃんの語るニュースは、ネコの鳴き声が聞こえたと思ったら発情期のオスメスネコが(略)くらい軽い物が大半。

 ただ、機嫌を損ねられても小心者の私はビビってしまうので……。


 撫でている指に力が入ってミシミシっと食い込む感じになったのは気のせい。

 

「一華がなー、機嫌良さそうにしているからなんでか尋ねたら、会員制のプールに行くって」


 ――私とはまったく縁のない話だろうけど、実家が太くて、当人もモデルの仕事をしているなら豪奢なプールへ行っても不思議ではない。


 会員制って響きが凡人オブ凡人の桜塚怜と似つかわしくない。恋人dayに耳に入ったから一緒くたにしちゃったのだ。

 そこには後日赴くのだろう。

 覚悟をしてくれと言われた件は気になるけど……うん、関係ないな! ヨシ!


「で、みゃーちゃん的にはあたしも連れてってくれ~、て感じだったんでしょ? で、断られちゃった」

「なんで分かるのだ!?」

「みんなで連れてってくれって頼めば一華も断らないはずだって考えて話しかけたんだよね?」

「怜は時々怖いくらい人の心を読むな!?」


 そりゃ皆様に嫌われたくありませんから……こういうことを考えてこう発言しているってデータは頭にしっかり入ってます。

 

「一華が行くような会員制のプールだぞ~? きっと、水の代わりに金箔が入ってて、飲み物も一杯1800円はくだらない代物なのだ」


 豆知識だけど金箔で身体を覆われると皮膚呼吸ができなくて苦しくなるよ。

 

「1800円かぁあだだだだだ!?」


 金箔じゃなくてフルーツがたくさん乗っていて、食べられる飲み物なら値が張っても文句は言えない。

 主食でさえ1000円超えると渋い顔をする私からすれば、飲み物で2000円近くは及び腰になるけど。


 と、様々な諸事情を踏まえながら値段を呟くと、なでなでしていたはずの指が秘孔を突くみたいに!

 


「ふふふ~」


 良からぬ雰囲気を感じ取ったのか、みゃーちゃんは脱兎の勢いで戦線から離脱。

 海未ちゃんの元へと救援を要請したけど「いつものことでしょ」みたいな口の動きが見えた。


「他の女の子のことを考えてちゃ、目の前の女の子に対して失礼、でしょう?」

「そ、そうですね……すみません」


 でもおかしいな? ふたりちゃんは私と会話してたじゃんぷんすか~と、簡単にヘソを曲げたりはしない。

 だから、みゃーちゃんと会話した以外で憤懣やるかたない気持ちを抱いたのだ。


 それに仮に怒ってても「爆発四散する秘孔を突いた」「お前はもう死んでいる」って感じで頭皮に指をめり込ませたりはしないよ。

 


「一華ちゃんが機嫌が良い理由を知ってるね~?」

「これはあくまでも想像なんですけど、息抜きができるって考えたら、誰でも機嫌が良くなると思います」


 そこに桜塚怜というお味噌が付いていくかどうかは、私も知らないので伝えようが無い。

 だって、覚悟をしてくれって話で水着姿をいきなり見せるなんて想像も付かないじゃん! もっと準備をさせてよ!

 

「うんうん、怜ちゃんは関係のない話?」

「みゃーちゃんが誘いに成功してみんなで行くってなったら、協力しますです、ハイ」

「え? プールとか行ったら水着になってくれる人なの!?」

「衆人環視パない場所だったらノーセンキューだけど……」


 拘束が解かれて安堵の息を一つ吐く、そして私が見たのは鼻を抑える天使。


「許可するよ」

「なんの!?」

「怜ちゃんがビキニになる許可だよ!」

「されてもならないよ!?」


 柳田悠岐のフルスイングかって勢いで首を振っていると、天使は蠱惑的な笑みを浮かべながら。


「私も過激な水着着るから」

「……おぅ」


 見たい――メッチャ見たい。この、だらしがないって言われそうな無用の長物を胸に携えている私と違って、グラビアアイドルさんみたいなふたりちゃんの水着は見たい。


「お触り可」

「ほぉ……」


 脳内がこれでもかってくらいピンク色に包まれる――が、教室のどまんなかで桃色話をしている姿は学級委員である海未ちゃんの気に障り。


 正座なさいの一言で私らは昼休みの終わりまでそれを続けたのだった。

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